朝起きたときにパジャマやシーツがぐっしょり濡れていた経験はありませんか。寝汗は誰にでも起こる生理現象ですが、あまりにもひどい場合は何らかの体の不調を示しているサインかもしれません。特に女性は、更年期や月経周期など、ホルモンバランスの変化によって寝汗が起こりやすい傾向にあります。
本記事では、女性にとって気になる「ひどい寝汗」の原因や考えられる病気、自分でできる対策、そして病院を受診すべきタイミングまで詳しく解説します。寝汗に悩んでいる方、不安を感じている方はぜひ参考にしてください。

目次
- そもそも寝汗とは?正常な寝汗と異常な寝汗の違い
- 女性に多い寝汗の原因
- 寝汗を引き起こす可能性のある病気
- 注意が必要な寝汗の特徴と受診の目安
- 寝汗を改善するセルフケア
- 寝汗の治療法
- 病院を受診する際のポイント
- まとめ
1. そもそも寝汗とは?正常な寝汗と異常な寝汗の違い
寝汗は誰にでも起こる生理現象
私たちの体は、睡眠中も体温調節のために汗をかいています。健康な人でも、一晩でコップ1杯程度(約200~500ml)の汗をかくといわれており、これは正常な生理現象です。
睡眠中に汗をかく理由は、体内にこもった熱を放散し、深い眠りに入るために体温を下げる必要があるからです。この体温調節は自律神経によってコントロールされており、特に副交感神経が優位になる夜間は、体温を下げるために発汗が促されます。
問題となる「ひどい寝汗」とは
正常な寝汗は、起床時にほとんど気にならない程度のものです。しかし、以下のような場合は「異常な寝汗」として注意が必要です。
一つ目は、パジャマやシーツがびっしょり濡れて着替えが必要になる程度の汗をかいている場合です。二つ目は、室温や寝具を調整しても寝汗が改善しない場合。三つ目は、寝汗によって何度も目が覚めてしまい、睡眠の質が低下している場合です。また、日中に倦怠感や疲労感が強い、あるいは寝汗以外にも発熱や体重減少などの症状がある場合も注意が必要です。
このような著しい寝汗は、東洋医学では「盗汗(とうかん)」と呼ばれ、眠っている間に体に必要な水分やエネルギーがこっそりと盗み出されるという意味が込められています。
2. 女性に多い寝汗の原因
女性の寝汗には、女性特有のホルモンバランスの変化が大きく関係しています。ここでは、女性に多い寝汗の原因について詳しく見ていきましょう。
更年期によるホルモンバランスの乱れ
女性の寝汗の原因として最も多いのが、更年期によるホルモンバランスの乱れです。
更年期とは、閉経前の5年間と閉経後の5年間をあわせた約10年間を指します。日本人女性の平均閉経年齢は約50.5歳とされており、一般的には45歳から55歳頃がこの時期に該当します。
更年期になると、卵巣機能の低下により女性ホルモンの一種であるエストロゲンの分泌が急激に減少します。エストロゲンは、脳の視床下部からの指令を受けて卵巣で分泌されていますが、更年期になると視床下部の指令通りにエストロゲンを分泌できなくなります。
ここで重要なのは、視床下部は自律神経のコントロールも担っているという点です。エストロゲンが十分に分泌されないことで視床下部が混乱状態に陥ると、自律神経のバランスも乱れてしまいます。その結果、血管の収縮や拡張をコントロールする機能が低下し、体温調節がうまくいかなくなって、ほてりやのぼせ、そして寝汗といった症状が現れるのです。
更年期に見られるこのような症状は「ホットフラッシュ」と呼ばれ、昼間だけでなく夜間にも起こります。就寝中にホットフラッシュが起こると、突然体が熱くなり大量の汗をかいてしまいます。これが更年期における寝汗の正体です。
厚生労働省の調査によると、50~59歳の女性の約2人に1人が何らかの更年期症状を自覚しているとされています。寝汗も更年期症状の代表的なものの一つであり、多くの女性が経験する症状といえます。
月経前症候群(PMS)によるホルモンの変動
更年期に限らず、月経周期に伴うホルモンの変動も寝汗の原因となることがあります。
月経前症候群(PMS)は、月経の3~10日前から始まる心身の不調で、日本人女性の70~80%が何らかのPMS症状を経験しているといわれています。PMSでは、排卵後に分泌されるプロゲステロン(黄体ホルモン)の影響で基礎体温が上昇し、体温調節がうまくいかなくなることがあります。
その結果、月経前になると寝汗がひどくなるという女性も少なくありません。この場合、月経が始まると症状が軽減または消失することが特徴です。
妊娠中のホルモン変化
妊娠中も、ホルモンバランスの急激な変化により寝汗をかきやすくなる時期があります。特に妊娠初期と後期は、プロゲステロンの分泌量が増加するため体温が高くなりやすく、寝汗の原因となることがあります。
妊娠中の寝汗は多くの場合生理的なものですが、発熱や悪寒を伴う場合は感染症の可能性もあるため、かかりつけの産婦人科医に相談することが大切です。
ストレスや自律神経の乱れ
現代社会に生きる女性は、仕事、家事、育児、介護など、多くの役割を担っています。このような日常的なストレスは自律神経のバランスを乱し、寝汗の原因となることがあります。
自律神経は、活動時に優位になる交感神経と、休息時に優位になる副交感神経がバランスを取りながら機能しています。過度なストレスがかかると、本来休息すべき夜間にも交感神経が活発になり、汗腺のコントロールがうまくいかなくなって寝汗をかきやすくなります。
また、不規則な生活リズム、睡眠不足、運動不足なども自律神経の乱れにつながり、寝汗を悪化させる要因となります。
飲酒やカフェインの影響
就寝前のアルコール摂取も寝汗の原因となります。アルコールを摂取すると、体内でアセトアルデヒドという物質が発生します。このアセトアルデヒドを分解・排出するために、体は汗をかく必要があるのです。そのため、飲酒後は寝汗が増えやすくなります。
また、カフェインも交感神経を刺激して体温を上昇させる作用があるため、就寝前のコーヒーや紅茶の摂取は寝汗の原因となることがあります。
睡眠環境の問題
意外と見落としがちなのが、睡眠環境の問題です。室温が高すぎる、寝具が厚すぎる、通気性の悪いパジャマを着ている、といった環境要因も寝汗の原因となります。
特に冬場は、暖房のかけすぎや電気毛布の使用により、知らず知らずのうちに寝室が暑くなっていることがあります。季節を問わず、適切な睡眠環境を整えることが寝汗対策の基本となります。
3. 寝汗を引き起こす可能性のある病気
ひどい寝汗の背景には、思わぬ病気が隠れていることがあります。寝汗を引き起こす可能性のある主な病気について解説します。
甲状腺機能亢進症(バセドウ病など)
甲状腺機能亢進症は、甲状腺ホルモンが過剰に分泌される病気で、代表的なものにバセドウ病があります。甲状腺ホルモンは全身の代謝を調節するホルモンであり、過剰に分泌されると新陳代謝が活発になりすぎて、大量の汗をかくようになります。
甲状腺機能亢進症は女性に多い病気で、特に20~50歳代に発症しやすいとされています。寝汗以外の症状としては、動悸、手の震え、体重減少(食欲はあるのに痩せる)、イライラ、眼球突出などがあります。
更年期障害と症状が似ているため、更年期だと思い込んで見過ごされることもありますが、血液検査で甲状腺ホルモンの値を調べることで診断できます。
自律神経失調症
自律神経のバランスが乱れた状態が続くと、自律神経失調症と診断されることがあります。自律神経失調症では、寝汗だけでなく、動悸、息切れ、頭痛、めまい、倦怠感、不眠、下痢や便秘といった多様な症状が現れます。
自律神経失調症の主な原因は、ストレス、疲労、不規則な生活習慣などです。誰にでも起こりうる身近な状態ですが、症状が続く場合は放置せずに医療機関を受診することが大切です。
睡眠時無呼吸症候群
睡眠時無呼吸症候群は、睡眠中に呼吸が止まったり浅くなったりすることを繰り返す病気です。無呼吸状態になると体は酸素不足に陥り、それを補おうとして交感神経が活発になります。その結果、心拍数が上がり、体温調節がうまくいかなくなって寝汗をかきやすくなります。
睡眠時無呼吸症候群は肥満の男性に多いとされていますが、閉経後の女性や痩せ型の方にも見られます。いびき、日中の強い眠気、起床時の頭痛や口の渇きなどの症状がある場合は、この病気の可能性を考える必要があります。
感染症(結核など)
感染症にかかると、体は発熱することで病原体と戦おうとします。そして、熱を下げるために汗をかきます。風邪やインフルエンザなど一般的な感染症でも寝汗をかくことがありますが、特に注意が必要なのは結核です。
結核は、結核菌による感染症で、咳や痰などの呼吸器症状に加えて、寝汗、倦怠感、体重減少などの全身症状が現れます。結核による寝汗は、「盗汗」の典型的な例として古くから知られています。
2週間以上続く咳や痰に加えて寝汗がある場合は、早めに医療機関を受診することが重要です。
悪性リンパ腫などの悪性疾患
寝汗は、悪性リンパ腫をはじめとするがんの症状として現れることがあります。特に悪性リンパ腫では、「B症状」と呼ばれる発熱、盗汗(寝汗)、体重減少の3つの症状が診断や予後の推定において重要視されています。
ホジキンリンパ腫という種類のリンパ腫では、約25%の患者さんに微熱を伴う寝汗がみられるという報告があります。また、悪性リンパ腫以外にも、胃がん、大腸がん、肺がんなど様々ながんが進行すると寝汗が出ることがあります。
ただし、寝汗があるからといって必ずしもがんというわけではありません。しかし、原因不明の寝汗が続く場合、特に発熱や体重減少を伴う場合は、早めに医療機関を受診して原因を調べることが大切です。
糖尿病
糖尿病の患者さんが血糖降下薬やインスリン治療を行っている場合、低血糖により寝汗をかくことがあります。夜間に低血糖が起こると、冷や汗のような寝汗をかき、動悸や手の震え、悪夢などを伴うことがあります。
低血糖は重症化すると意識障害を起こす可能性もある危険な状態です。糖尿病治療中の方で寝汗がひどい場合は、主治医に相談して薬の調整が必要かどうかを確認しましょう。
多汗症
多汗症は、体温調節に必要な量を超えて大量の汗をかいてしまう病気です。全身に汗が増える「全身性多汗症」と、手のひらや足の裏、脇の下など特定の部位に汗が増える「局所性多汗症」があります。
原発性多汗症ははっきりとした原因が分からないものですが、続発性多汗症は感染症、内分泌異常、神経疾患などの病気や薬の副作用によって引き起こされます。
肺MAC症
肺MAC症は、「MAC菌」と呼ばれる非結核性抗酸菌への感染によって発症する肺疾患です。人から人への感染はありませんが、発症すると咳や痰、血痰などの症状が現れ、進行すると発熱、だるさ、寝汗、体重減少などの全身症状を伴うようになります。
肺MAC症は近年、特に中高年の女性で増加傾向にあると報告されています。長引く咳や寝汗がある場合は、この病気も念頭に置いて検査を受けることが推奨されます。
薬の副作用
服用している薬の副作用として寝汗が出ることもあります。寝汗を引き起こす可能性のある薬としては、抗うつ薬(特に三環系抗うつ薬やSSRI)、解熱鎮痛剤、ホルモン剤、一部の降圧薬、麻薬性鎮痛薬などが挙げられます。
抗うつ薬では、服用を始めて数週間で10~15%の患者さんに寝汗がみられるという報告もあります。新しい薬を飲み始めてから寝汗が増えた場合は、自己判断で服用をやめずに、処方した医師や薬剤師に相談することが大切です。
4. 注意が必要な寝汗の特徴と受診の目安
すべての寝汗が病気のサインというわけではありません。しかし、以下のような特徴がある場合は、早めに医療機関を受診することをお勧めします。
すぐに受診すべき寝汗の特徴
まず、パジャマやシーツを交換しなければならないほどの大量の寝汗が何日も続いている場合は受診を検討してください。室温や寝具を調整しても改善しない場合や、発熱(微熱を含む)が続いている場合も要注意です。
また、最近になって急に寝汗がひどくなった、体重減少がある(6~12か月で5%以上の体重減少)、倦怠感や疲労感が強い、リンパ節の腫れがある(首、脇の下、足の付け根など)、咳や痰が2週間以上続いている、といった症状がある場合も早めの受診が望ましいでしょう。
これらの症状がある場合、感染症や悪性疾患など、治療が必要な病気が隠れている可能性があります。
経過観察でもよい寝汗
一方、以下のような場合は、まず生活習慣の見直しや環境調整で様子を見ても良いでしょう。
一晩だけの寝汗であった場合、飲酒後や風邪気味のときに一時的に寝汗をかいた場合、室温が高かったり寝具が厚すぎたりした場合、更年期の時期で他に重大な症状がない場合などが該当します。
ただし、症状が数日以上続く場合や、気になる症状がある場合は、遠慮せずに医療機関を受診しましょう。
何科を受診すればよいか
寝汗の原因によって、適切な診療科は異なります。まず、原因がはっきりしない場合は、内科やかかりつけ医を受診するのが良いでしょう。血液検査などで原因を調べ、必要に応じて専門の診療科を紹介してもらえます。
更年期障害やPMSが疑われる場合は婦人科、ストレスや不安による自律神経の乱れが疑われる場合は心療内科や精神科、いびきや日中の眠気がある場合は睡眠外来や呼吸器内科、甲状腺の異常が疑われる場合は内分泌内科を受診することが適切です。
5. 寝汗を改善するセルフケア
軽度の寝汗であれば、生活習慣の見直しや環境の調整で改善できることがあります。ここでは、自分でできる寝汗対策を紹介します。
睡眠環境を整える
寝汗対策の基本は、快適な睡眠環境を整えることです。
まず室温については、夏は25~28度、冬は18~22度程度が理想的とされています。エアコンを使用する場合は、タイマー機能を活用して適切な室温を維持しましょう。
湿度は、季節を問わず50~60%程度を目安に調整します。乾燥する冬は加湿器、湿度の高い夏は除湿器やエアコンの除湿機能を活用すると良いでしょう。
寝具については、吸湿性と通気性に優れたものを選ぶことが大切です。季節に合わせて寝具の厚さを調整し、必要以上に体を温めすぎないようにしましょう。
パジャマは、吸湿性の高い綿やシルク素材のものがお勧めです。化学繊維のパジャマは汗を吸収しにくく、蒸れやすいため、寝汗がひどい方には向いていません。
生活習慣を見直す
自律神経を整えるためには、規則正しい生活習慣を心がけることが重要です。
毎日同じ時間に起床し、同じ時間に就寝する習慣をつけましょう。休日も平日と同じリズムを維持することで、体内時計が整いやすくなります。
適度な運動は、ストレス発散と自律神経のバランス改善に効果的です。ウォーキング、ジョギング、水泳、ヨガなど、無理なく続けられる運動を生活に取り入れましょう。日中に適度に体を動かすことで、夜間の睡眠の質も向上します。
食事は栄養バランスを意識し、三食規則正しく摂るようにしましょう。特に朝食を抜かないことが、体内リズムを整えるために重要です。
就寝前の習慣を見直す
就寝前の過ごし方も、寝汗に影響を与えます。
まず、就寝前2~3時間はアルコールとカフェインを控えましょう。アルコールは寝汗の直接的な原因となり、カフェインは交感神経を刺激して体温を上昇させます。
就寝前のスマートフォンやパソコンの使用も控えめにしましょう。ブルーライトは交感神経を刺激し、睡眠の質を低下させる原因となります。
代わりに、リラックスできる時間を設けることが大切です。ぬるめのお風呂にゆっくり浸かる、アロマオイルを焚く、軽いストレッチをする、静かな音楽を聴くなど、自分に合ったリラックス法を見つけましょう。
ストレスマネジメント
ストレスは自律神経の乱れを招き、寝汗の原因となります。日常生活の中でストレスを溜めすぎないよう、意識的にストレス解消法を取り入れましょう。
深呼吸や瞑想、マインドフルネスなどのリラクゼーション法は、副交感神経を優位にし、心身をリラックスさせる効果があります。毎日数分間でも続けることで、徐々に効果が現れてきます。
また、趣味の時間を持つ、友人と話す、自然の中で過ごすなど、自分なりのストレス発散法を持っておくことも大切です。
寝汗対策グッズの活用
寝汗がひどいときは、吸水性の良いタオルやベッドパッドを敷いておくと、汗を吸収して不快感を軽減できます。枕元に着替えのパジャマや下着、タオルを用意しておけば、夜中に目覚めてもすぐに対処できます。
汗拭きシートを用意しておくのも良いでしょう。サッと汗を拭き取れるだけでなく、翌日の臭い対策にもなります。
6. 寝汗の治療法
セルフケアで改善しない場合や、病気が原因の場合は、医療機関での治療が必要になります。寝汗の原因によって、治療法は異なります。
更年期障害に対する治療
更年期による寝汗には、ホルモン補充療法(HRT)と漢方療法が主な治療法となります。
ホルモン補充療法は、減少したエストロゲンを補う治療法で、ほてりやのぼせ、発汗といった血管運動症状に特に効果的です。エストロゲンを補充することで、自律神経のバランスが整い、寝汗が改善されることが期待できます。
ホルモン補充療法に使用する薬には、飲み薬、貼り薬(パッチ剤)、塗り薬(ジェル剤)、腟錠など、様々な種類があります。子宮がある女性の場合は、子宮内膜がんのリスクを減らすために、エストロゲンと黄体ホルモンを併用するのが一般的です。
以前はホルモン補充療法による乳がんリスクが懸念されていましたが、現在では、そのリスクは飲酒などの生活習慣によるリスクと同程度かそれ以下であることが分かっています。ただし、治療を始める際には、メリットとデメリットについて医師とよく相談することが大切です。
漢方療法
漢方薬は、患者さんの体質(証)に合わせて処方されます。更年期障害によく使用される漢方薬としては、当帰芍薬散、加味逍遙散、桂枝茯苓丸などがあります。
寝汗に対しては、体の水分バランスを整え、内熱を冷ます作用のある漢方薬が用いられることがあります。例えば、体力が低下している方の寝汗には補中益気湯、じとじとした汗をかく方には桂枝加黄耆湯、体に熱がこもりやすい方には六味丸や知柏地黄丸などが処方されることがあります。
漢方薬は一般的に副作用が少ないとされていますが、体質に合わない場合は効果が得られなかったり、副作用が出たりすることがあります。漢方薬を試す場合は、漢方に詳しい医師や薬剤師に相談することをお勧めします。
その他の薬物療法
更年期症状に伴う気分の落ち込みやイライラ、不眠などが強い場合には、抗不安剤や抗うつ薬、睡眠剤が処方されることもあります。
また、PMSによる寝汗に対しては、低用量ピルによるホルモン療法が有効な場合があります。
原因疾患の治療
寝汗の原因が甲状腺機能亢進症や感染症、悪性疾患などの病気である場合は、その病気自体の治療が必要になります。原因疾患が改善されれば、寝汗も自然と軽減されることが期待できます。
例えば、甲状腺機能亢進症の場合は、抗甲状腺薬や放射性ヨード治療、手術などの治療法があります。感染症の場合は、原因菌に応じた抗菌薬や抗ウイルス薬による治療が行われます。
睡眠時無呼吸症候群の場合は、CPAP(経鼻的持続陽圧呼吸療法)という治療器具を使用したり、生活習慣の改善(減量など)を行ったりします。
カウンセリング・心理療法
更年期障害やストレスによる自律神経の乱れが原因の場合、薬物療法だけでは十分でないことがあります。そのような場合には、カウンセリングや心理療法が有効なこともあります。
自分の状態を客観的に理解し、ストレスへの対処法を学ぶことで、症状の改善につながることがあります。
7. 病院を受診する際のポイント
寝汗で病院を受診する際は、以下のような情報を整理しておくとスムーズです。
受診前に整理しておきたい情報
まず、寝汗の状況について整理しましょう。いつ頃から寝汗がひどくなったか、どの程度の汗をかくか(パジャマの着替えが必要か、シーツまで濡れるかなど)、毎晩なのか時々なのか、寝汗で目が覚めることがあるかといった点を記録しておくと良いでしょう。
次に、寝汗以外の症状についても確認しましょう。発熱の有無、体重の変化、倦怠感や疲労感、咳や痰、リンパ節の腫れ、月経の状況(最終月経日、周期、閉経の有無など)などが重要な情報となります。
また、現在服用している薬があれば、すべて書き出しておきましょう。市販薬やサプリメントも含めて伝えることが大切です。
最後に、生活習慣についても振り返っておきましょう。睡眠時間や就寝・起床時間、飲酒や喫煙の習慣、ストレスの程度、運動習慣などを整理しておくと、診察がスムーズに進みます。
基礎体温表や症状日誌の活用
可能であれば、基礎体温表をつけておくと、ホルモンバランスの状態を把握する手がかりになります。また、寝汗の頻度や程度、月経周期との関連などを記録した症状日誌があると、診断の助けになります。
スマートフォンのアプリを活用すれば、手軽に記録を続けることができます。

8. まとめ
女性のひどい寝汗は、更年期によるホルモンバランスの乱れ、月経前症候群(PMS)、ストレスによる自律神経の乱れなど、女性特有の原因によって起こることが多いです。多くの場合、生活習慣の改善や適切な治療によって症状は改善されます。
一方で、甲状腺機能亢進症、感染症、悪性リンパ腫などの病気が原因で寝汗が起こることもあります。特に、パジャマを交換しなければならないほどの大量の寝汗が続く場合、発熱や体重減少を伴う場合、最近急に寝汗がひどくなった場合は、早めに医療機関を受診することが大切です。
寝汗は、体からの大切なサインです。「たかが寝汗」「更年期だから仕方ない」と放置せず、気になる症状があれば遠慮なく医師に相談しましょう。原因を明らかにし、適切な対処をすることで、快適な睡眠と健康的な毎日を取り戻すことができます。
参考文献
- 更年期障害|e-ヘルスネット(厚生労働省)
- 更年期症状・障害に関する意識調査(結果概要)|厚生労働省
- 更年期|働く女性の心とからだの応援サイト(厚生労働省)
- 更年期障害|公益社団法人 日本産科婦人科学会
- 月経前症候群(PMS)|公益社団法人 日本産科婦人科学会
- 自律神経失調症|こころの耳(厚生労働省)
- 悪性リンパ腫の症状|健康長寿ネット(公益財団法人長寿科学振興財団)
- 寝汗:医師が考える原因と対処法|メディカルノート
- 月経前症候群(PMS)|済生会
監修者医師
高桑 康太 医師
略歴
- 2009年 東京大学医学部医学科卒業
- 2009年 東京逓信病院勤務
- 2012年 東京警察病院勤務
- 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
- 2019年 当院治療責任者就任
佐藤 昌樹 医師
保有資格
日本整形外科学会整形外科専門医
略歴
- 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
- 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
- 2012年 東京逓信病院勤務
- 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
- 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務