シワやシミ、毛穴の開きなど、さまざまな肌悩みに効果が期待できるとして、近年注目を集めている美容成分「レチノール」。ドラッグストアや化粧品売り場でも、レチノール配合のスキンケア製品を目にする機会が増えました。
しかし、レチノールは高い効果が期待できる反面、使い方を誤ると肌トラブルを引き起こす可能性がある成分でもあります。インターネット上では「レチノールはやめたほうがいい」という声も見られ、使用をためらっている方も少なくないのではないでしょうか。
本記事では、レチノールの使用を控えたほうがよい人や状況、起こりうる副作用、そして正しい使い方について、医学的な視点から詳しく解説します。レチノールを安全に取り入れて美肌を目指すための参考にしていただければ幸いです。

目次
- レチノールとは?基本的な知識を理解しよう
- レチノールに期待できる効果
- レチノールをやめたほうがいい人とは
- レチノールの使用を控えるべき状況
- レチノールの副作用「A反応(レチノイド反応)」について
- レチノールと併用を避けるべき成分
- レチノールの正しい使い方
- レチノールを安全に使うためのポイント
- レチノールが合わないと感じたときの対処法
- まとめ
1. レチノールとは?基本的な知識を理解しよう
レチノールの正体はビタミンA
レチノールとは、ビタミンAの一種です。ビタミンAは脂溶性ビタミンに分類され、皮膚や粘膜の健康維持、視覚機能の維持、免疫機能のサポートなど、体内でさまざまな重要な働きを担っています。
ビタミンAは体内で合成することができないため、食事や外用(スキンケア)から意識して補う必要があります。食品では、レバー、うなぎ、卵黄、バターなどの動物性食品に多く含まれているほか、緑黄色野菜に含まれるβ-カロテンも体内でビタミンAに変換されます。
厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2025年版)」によると、成人の1日あたりのビタミンA推奨量は、男性で800〜900μgRAE、女性で650〜700μgRAE程度とされています。一方、耐容上限量(これを超えると健康障害のリスクが高まる量)は成人で2,700μgRAE/日と定められており、過剰摂取には注意が必要です。
レチノールとトレチノインの違い
スキンケアで使用されるビタミンA誘導体には、いくつかの種類があります。代表的なものとして「レチノール」と「トレチノイン(レチノイン酸)」があります。
トレチノインは、レチノールが体内で酸化されて最終的に変換される活性型のビタミンAです。その生理活性(体内での作用の強さ)は、レチノールの50〜100倍といわれており、非常に強力な効果を発揮します。そのため、トレチノインは医療用医薬品に分類されており、皮膚科などの医療機関でのみ処方が可能です。
一方、レチノールは化粧品や医薬部外品への配合が認められており、市販の製品でも手に入れることができます。トレチノインに比べて作用は穏やかですが、それでも使い方によっては肌への刺激となることがあります。
レチノールの種類
化粧品に配合されるレチノールには、さらにいくつかの種類があります。
レチノール誘導体(パルミチン酸レチノール、酢酸レチノールなど)は、レチノールを安定化させるために他の成分と結合させたものです。純粋なレチノールに比べて作用が穏やかで、肌への刺激も比較的少ないのが特徴です。初めてレチノールを使う方や、敏感肌の方に適しています。
純粋レチノールは、誘導体に比べて効果を実感しやすい反面、肌への刺激もやや強くなります。2017年に厚生労働省から「シワ改善効果」が認められた医薬部外品成分としても注目されています。
2. レチノールに期待できる効果
レチノールは、さまざまな肌悩みに対して効果が期待できる成分です。主な効果について詳しく見ていきましょう。
ターンオーバーの促進
レチノールの代表的な効果として、肌のターンオーバー(新陳代謝)を促進する働きがあります。
肌の細胞は、表皮の最下層にある基底層で生まれ、徐々に上へ押し上げられながら角質層に達し、最終的には垢となって剥がれ落ちます。このサイクルがターンオーバーで、健康な肌では約28日周期で行われています。
しかし、加齢や紫外線ダメージ、生活習慣の乱れなどによって、このサイクルが乱れることがあります。ターンオーバーが遅くなると、古い角質が肌表面に蓄積し、くすみやざらつき、毛穴の詰まりなどの原因となります。
レチノールは、表皮細胞の分化と増殖を促進することで、ターンオーバーを正常化する効果があります。その結果、肌のキメが整い、透明感のある肌へと導きます。
シワ・たるみの改善
レチノールは、真皮層に働きかけ、コラーゲンやエラスチンの生成を促進する効果があります。
コラーゲンとエラスチンは、肌のハリと弾力を支える重要なタンパク質です。加齢とともにこれらの生成量は減少し、シワやたるみの原因となります。
レチノールを継続的に使用することで、真皮のコラーゲン密度が高まり、肌にハリと弾力が戻ることが期待できます。特に、目元や口元の小じわ、ほうれい線などの改善に効果的とされています。
シミ・くすみの改善
ターンオーバーが促進されることで、メラニン色素を含んだ古い角質が効率的に排出されるようになります。これにより、シミやそばかす、色素沈着の改善が期待できます。
また、レチノールには毛細血管の新生を促す働きもあり、肌の血色感が向上することで、黄ぐすみの解消やトーンアップ効果も期待できます。
毛穴の引き締め
レチノールは、過剰な皮脂分泌を抑制する効果もあります。皮脂の分泌量が減少することで、毛穴の詰まりが改善され、毛穴が目立ちにくくなります。
また、コラーゲン生成の促進により、肌にハリが出ることで、たるみ毛穴の改善にも効果的です。
ニキビ・ニキビ跡の改善
レチノールは、もともとニキビ治療の分野で注目されてきた成分です。
ターンオーバーの促進により、毛穴の角栓が排出されやすくなり、ニキビの原因となる毛穴の詰まりを防ぎます。また、皮脂分泌の抑制効果により、ニキビができにくい肌環境を整えることができます。
さらに、ニキビ跡の色素沈着やクレーターの改善にも、レチノールの細胞増殖促進効果が役立ちます。
3. レチノールをやめたほうがいい人とは
レチノールは多くの人にとって有効な美容成分ですが、すべての人に適しているわけではありません。以下に該当する方は、レチノールの使用を控えるか、医師に相談してから使用することをおすすめします。
妊娠中・授乳中の方
妊娠中および授乳中の方は、レチノールの使用を控えることが推奨されています。
ビタミンAは胎児の発育に不可欠な栄養素ですが、過剰に摂取すると胎児に先天性異常を引き起こす可能性があることが知られています。厚生労働省でも、妊娠3ヶ月以内または妊娠を希望する女性に対して、ビタミンAの過剰摂取に注意するよう呼びかけています。
化粧品として外用するレチノールは、経口摂取に比べて体内に吸収される量はごくわずかであり、実際に外用レチノールが胎児に悪影響を及ぼしたという明確な報告はありません。しかし、大規模な安全性試験が行われていないこと、また製品によって濃度や吸収率にばらつきがあることから、多くの皮膚科医は妊娠中のレチノール使用を避けるよう指導しています。
万が一、妊娠に気づかずにレチノールを使用していた場合でも、過度に心配する必要はありませんが、判明した時点で使用を中止し、産後や授乳終了後に再開することをおすすめします。
妊活中の方
妊娠を計画している方も、念のためレチノールの使用を控えることを検討してもよいでしょう。特に、高濃度のレチノール製品や医療機関で処方されるトレチノインを使用している場合は、妊活開始前に医師に相談することをおすすめします。
敏感肌の方
肌が乾燥しやすかったり、わずかな刺激で赤みやかゆみが出やすい敏感肌の方は、レチノールによる副作用が強く出る可能性があります。
レチノールは肌のターンオーバーを促進する作用があるため、一時的に肌のバリア機能が低下することがあります。もともとバリア機能が弱い敏感肌の方は、この影響を受けやすく、通常よりも強い刺激を感じることがあります。
敏感肌の方がレチノールを使用したい場合は、まず低濃度のレチノール誘導体から始め、少量ずつ試しながら肌の様子を見ることが重要です。
アトピー性皮膚炎や湿疹がある方
アトピー性皮膚炎や湿疹など、皮膚に炎症がある状態でレチノールを使用すると、症状が悪化する恐れがあります。
炎症がある部位では、すでに肌のバリア機能が低下しており、外部からの刺激に対して非常に敏感になっています。レチノールの刺激が加わることで、炎症が悪化したり、新たな肌トラブルを引き起こす可能性があります。
皮膚に炎症がある場合は、まずその治療を優先し、症状が落ち着いてからレチノールの使用を検討しましょう。
日焼けをしている・する予定がある方
レチノールを使用すると、肌の角質層が薄くなり、紫外線に対して敏感になります。日焼けをしている状態や、これから強い紫外線を浴びる予定がある場合は、レチノールの使用を控えることをおすすめします。
レジャーやアウトドア活動、海外旅行などで長時間紫外線にさらされる予定がある場合は、事前にレチノールの使用を一時休止し、紫外線ダメージが落ち着いてから再開するのが賢明です。
肌が荒れている・傷がある方
肌荒れを起こしている状態や、傷、かぶれなどがある部位にレチノールを塗布することは避けてください。
健康な肌であればレチノールの刺激に耐えられても、ダメージを受けている肌では炎症が悪化する恐れがあります。肌の状態が安定してから使用を開始しましょう。
4. レチノールの使用を控えるべき状況
レチノールは、特定の状況下では使用を控えたほうがよい場合があります。
美容医療の施術前後
レーザー治療、ケミカルピーリング、ダーマペンなどの美容医療を受ける前後は、レチノールの使用を控えることが一般的に推奨されています。
これらの施術は肌に一定のダメージを与え、回復過程で効果を発揮するものです。レチノールも同様に肌のターンオーバーを促進する作用があるため、併用すると肌への負担が過剰になる可能性があります。
美容医療を受ける予定がある場合は、事前に担当医師にレチノールの使用について相談し、適切な休止期間の指示を受けることをおすすめします。
他の強い成分を使用しているとき
後述しますが、ピーリング成分(AHA、BHA、サリチル酸など)や高濃度のビタミンC、ハイドロキノンなどの刺激の強い成分と同時に使用すると、肌トラブルのリスクが高まります。
これらの成分を含むスキンケア製品を使用している場合は、レチノールとの併用について慎重に検討する必要があります。
季節の変わり目や体調不良時
季節の変わり目は、気温や湿度の変化により肌のコンディションが不安定になりやすい時期です。また、体調が優れないときは肌のバリア機能も低下しがちです。
このような時期に新しくレチノールを使い始めたり、使用頻度を増やしたりすることは避け、肌と体の状態が安定してから取り組むことをおすすめします。
5. レチノールの副作用「A反応(レチノイド反応)」について
レチノールの使用を検討する際、最も気になるのが副作用ではないでしょうか。レチノールには「A反応」または「レチノイド反応」と呼ばれる特有の反応が起こることがあります。
A反応とは
A反応(レチノイド反応)とは、レチノールを使い始めた際に一時的に現れる肌の反応のことです。これはレチノールの作用によってターンオーバーが急激に促進されることで起こる現象で、副作用というよりは、成分が効いている証拠ともいえます。
ただし、A反応とアレルギー反応や接触皮膚炎(かぶれ)は異なるものです。A反応であれば通常は一時的なものですが、アレルギーやかぶれの場合は使用を中止する必要があります。
A反応の主な症状
A反応で現れる代表的な症状には以下のようなものがあります。
肌の乾燥は最も一般的な症状の一つです。レチノールがターンオーバーを促進することで、古い角質が早く剥がれ落ち、一時的に肌が乾燥しやすくなります。
赤みやほてりも多く見られる症状です。肌が一時的に敏感になることで、普段は刺激を感じないものにも反応しやすくなります。
皮むけ(剥離)は、ターンオーバーが促進されることで古い角質が目に見える形で剥がれ落ちる現象です。見た目には気になりますが、これは新しい肌が生まれてきている証拠でもあります。
かゆみやヒリヒリ感も、バリア機能が一時的に低下することで生じることがあります。
A反応が続く期間
A反応は個人差がありますが、通常は1〜2週間程度で治まることが多いとされています。肌がレチノールに慣れるにつれて、徐々に症状は軽減していきます。
ただし、肌質やレチノールの濃度によっては、1〜2ヶ月程度続くこともあります。また、使用量を増やしたり、より高濃度の製品に切り替えたりした際には、再びA反応が現れることもあります。
A反応とアレルギーの見分け方
A反応は通常、使用を続けるうちに改善していきます。一方、以下のような症状が見られる場合は、A反応ではなくアレルギーや接触皮膚炎の可能性があるため、すぐに使用を中止して皮膚科を受診してください。
症状が1〜2週間以上経っても改善しない、または日に日に悪化する場合は注意が必要です。水ぶくれやじゅくじゅくした湿疹、激しいかゆみや痛みを伴う場合も同様です。日常生活に支障が出るほどの不快感がある場合も、単なるA反応ではない可能性があります。
これらの症状が見られた場合は、自己判断で使用を続けず、専門家に相談することが大切です。
6. レチノールと併用を避けるべき成分
レチノールは単独で使用する分には問題なくても、他の成分と組み合わせることで肌トラブルを引き起こす可能性があります。以下の成分との併用には特に注意が必要です。
ピーリング成分(AHA・BHA・サリチル酸など)
AHA(アルファヒドロキシ酸:グリコール酸、乳酸など)やBHA(ベータヒドロキシ酸:サリチル酸)などのピーリング成分は、古い角質を取り除く作用があります。
レチノールもターンオーバーを促進して角質を排出する作用があるため、両者を同時に使用すると肌への刺激が過剰になる恐れがあります。乾燥や赤み、刺激感が強くなったり、バリア機能が著しく低下したりする可能性があります。
ピーリング剤を使用している方がレチノールも取り入れたい場合は、同時に使用するのではなく、日を分けて使用するなどの工夫が必要です。例えば、ピーリング剤を使用した当日はレチノールを休み、数日空けてから使用するといった方法が考えられます。
過酸化ベンゾイル
過酸化ベンゾイルは、ニキビ治療に用いられる抗菌成分です。日本では医薬品として処方されることがあります。
レチノールと過酸化ベンゾイルを同時に使用すると、お互いの効果を打ち消し合ってしまう可能性があるほか、肌の乾燥や炎症を引き起こしやすくなります。
両方の成分を使用したい場合は、朝と夜で使い分けるか、担当医の指示に従って使用してください。
ビタミンC(高濃度の場合)
ビタミンCとレチノールは、どちらも美肌に効果的な成分として知られていますが、同時使用については注意が必要です。
両者は最適なpH(酸性度)が異なります。ビタミンCは酸性寄りの環境で安定性が高く、レチノールはやや中性〜弱アルカリ性の環境で効果を発揮しやすいとされています。同時に使用すると、お互いの効果が十分に発揮されない可能性があります。
また、高濃度のビタミンCとレチノールを同時に使用すると、肌への刺激が強くなりすぎる場合もあります。
ただし、これは「絶対に併用してはいけない」という意味ではありません。製品によっては両者の相性を考慮して配合されているものもありますし、使用するタイミングを分ける(朝にビタミンC、夜にレチノール)ことで問題なく併用できることも多いです。
ハイドロキノン
ハイドロキノンは、シミや色素沈着の治療に用いられる美白成分です。メラニンの生成を抑制する強力な作用がありますが、肌への刺激も強い成分です。
レチノールとハイドロキノンを同時に使用すると、肌への負担が大きくなり、刺激症状が出やすくなります。両者を使用したい場合は、医師の指導のもとで適切に使い分けることが重要です。
レチノール製品の重ね使い
意外と見落としがちですが、複数のレチノール製品を同時に使用することも避けるべきです。
化粧水、美容液、クリームなど、それぞれにレチノールが配合されている製品を重ねて使用すると、トータルでのレチノール濃度が高くなり、副作用のリスクが上がります。
レチノール製品を使用する際は、ひとつの製品に絞るか、同一ブランドのライン使いで設計された組み合わせを選ぶようにしましょう。
7. レチノールの正しい使い方
レチノールの効果を最大限に引き出し、副作用のリスクを最小限に抑えるためには、正しい使い方を守ることが大切です。
使用するタイミング
レチノールは紫外線によって分解されやすい性質があります。そのため、基本的には夜のスキンケアで使用することが推奨されています。
朝にレチノールを使用すると、成分が紫外線で劣化してしまい、期待する効果が得られにくくなります。また、レチノール使用中は肌が紫外線に敏感になるため、日中の使用はさらにダメージを受けやすくなるリスクもあります。
医療機関で処方される高濃度のレチノールやトレチノインは、特に夜専用とされていることがほとんどです。市販の低濃度製品でも、特に指定がなければ夜の使用をおすすめします。
使用量と頻度
初めてレチノールを使用する場合は、最初から毎日使用するのではなく、週に1〜2回程度から始めることをおすすめします。
少量(米粒大程度)を手に取り、肌の様子を見ながら徐々に使用頻度を増やしていきます。例えば、1週目は週2回、2週目は週3回というように、肌が慣れてきたら少しずつ頻度を上げていくとよいでしょう。
いきなり毎日使用したり、大量に塗布したりすると、A反応が強く出る原因となります。焦らず、じっくりと肌を慣らしていくことが重要です。
塗布する順番
レチノールは脂溶性(油に溶けやすい性質)の成分です。そのため、スキンケアの順番としては、化粧水などの水分系アイテムの後に使用するのが基本です。
一般的なスキンケアの順番は以下の通りです。まずクレンジング・洗顔で肌を清潔にし、次に化粧水で肌を整えます。その後、レチノール美容液を塗布し、最後に乳液やクリームで保湿して蓋をします。
洗顔後の乾いた肌にいきなりレチノールを塗布すると、浸透が早すぎて刺激を感じやすくなることがあります。化粧水で肌を整えてからレチノールを使用することで、穏やかに成分を届けることができます。
また、敏感肌の方やA反応が心配な方は、レチノールを塗る前に保湿剤を塗っておく「バッファリング」という方法もあります。保湿剤がワンクッションとなり、レチノールの刺激を和らげることができます。
低濃度から始める
レチノール製品を選ぶ際は、まず低濃度のものから始めることをおすすめします。
レチノールの濃度が高いほど効果は得やすくなりますが、同時に副作用のリスクも高まります。初心者は0.01〜0.1%程度の低濃度から始め、肌が慣れてきたら徐々に濃度を上げていくのが安全です。
市販の化粧品では濃度が明記されていないことも多いですが、一般的に化粧水タイプは濃度が低く、美容液やクリームタイプは比較的高めの傾向にあります。初めての方は、化粧水タイプや「敏感肌向け」「初心者向け」と表記された製品を選ぶとよいでしょう。
紫外線対策を徹底する
レチノールを使用している間は、日中の紫外線対策を徹底することが非常に重要です。
レチノールによってターンオーバーが促進されると、角質層が薄くなり、紫外線のダメージを受けやすい状態になります。日焼け止めを塗らずに外出すると、シミやそばかすができやすくなったり、肌老化が進んだりする可能性があります。
SPF30以上の日焼け止めを毎日塗布し、長時間の外出時には帽子や日傘なども活用して紫外線から肌を守りましょう。曇りの日や室内でも紫外線は届いているため、油断は禁物です。
8. レチノールを安全に使うためのポイント
レチノールを安全かつ効果的に使うために、以下のポイントを押さえておきましょう。
パッチテストを行う
初めて使用するレチノール製品は、顔全体に塗る前にパッチテストを行うことをおすすめします。
耳の後ろや腕の内側など、目立たない部分に少量を塗布し、24〜48時間程度様子を見ます。赤みやかゆみ、腫れなどの異常が出なければ、顔への使用を開始できます。
パッチテストで異常が出た場合は、その製品の使用は避け、別の製品を検討するか、皮膚科医に相談してください。
保湿をしっかり行う
レチノールは肌を乾燥させやすい成分です。使用中は特に保湿ケアを念入りに行いましょう。
ヒアルロン酸、セラミド、グリセリンなどの保湿成分を含む製品と組み合わせることで、乾燥による肌トラブルを防ぐことができます。特にセラミドは、肌のバリア機能をサポートする効果があるため、レチノール使用中の保湿剤として適しています。
レチノールを塗った後は、必ず乳液やクリームで蓋をして、水分の蒸発を防ぎましょう。
使用を継続する
レチノールは即効性のある成分ではありません。効果を実感するまでには、一般的に数週間から数ヶ月の継続使用が必要です。
肌のターンオーバー周期は約28日(年齢とともに長くなる傾向あり)であるため、少なくとも1〜2ヶ月は使い続けてから効果を判断しましょう。
最初はA反応が出ることもありますが、症状が軽度であれば使用を続けることで次第に治まってきます。途中でやめてしまうと、せっかくの効果が得られないままになってしまいます。
正しい保管方法を守る
レチノールは光や熱、空気に弱い不安定な成分です。製品の劣化を防ぐため、以下の点に注意して保管しましょう。
直射日光が当たらない場所に保管し、高温多湿を避けることが基本です。開封後は早めに使い切るよう心がけ、使用後はしっかりとキャップを閉めて空気に触れる時間を最小限にしましょう。
製品によっては冷蔵庫での保管が推奨されているものもあります。パッケージに記載されている保管方法を確認し、指示に従ってください。
効果を焦らない
レチノールの効果を早く出したいからといって、使用量を増やしたり、高濃度の製品に急に切り替えたりすることは避けましょう。
過度な使用は副作用のリスクを高めるだけでなく、肌のバリア機能を著しく低下させてしまう可能性があります。長期的に見ると、かえって肌のコンディションを悪化させることにもなりかねません。
「ゆっくり、着実に」を心がけ、肌の様子を見ながら段階的にステップアップしていくことが、美肌への近道です。
9. レチノールが合わないと感じたときの対処法
レチノールを使用していて、肌に異常を感じた場合の対処法について説明します。
軽度のA反応の場合
軽度の乾燥や赤み、皮むけなど、A反応と思われる症状が出た場合は、以下の対処を試してみてください。
まず、使用頻度を減らすことを検討します。毎日使用していた場合は2〜3日に1回に減らし、肌が落ち着くまで様子を見ましょう。
保湿を強化することも重要です。普段より念入りに保湿ケアを行い、肌のバリア機能をサポートしましょう。刺激の少ない、シンプルな処方の保湿剤を選ぶとよいでしょう。
レチノールを塗る前に保湿剤を塗る「バッファリング」も効果的です。保湿剤がクッションとなり、レチノールの刺激を和らげることができます。
症状が強い場合
赤みやかゆみ、ヒリヒリ感が強く、日常生活に支障が出るほどの場合は、一旦使用を中止してください。
肌を休ませ、刺激の少ない保湿ケアのみを行いながら様子を見ましょう。症状が治まったら、より低濃度の製品で再チャレンジするか、使用頻度をさらに減らして再開することを検討できます。
症状が改善しない場合
使用を中止しても症状が1週間以上改善しない場合や、症状が悪化する場合は、皮膚科を受診してください。
A反応だと思っていたものが、実はアレルギーや接触皮膚炎である可能性もあります。専門医の診察を受け、適切な治療を受けることが大切です。
自分に合った代替成分を検討する
レチノールが肌に合わないと感じた場合は、他の美容成分を検討することも一つの選択肢です。
近年注目されている「バクチオール」は、植物由来の成分でありながらレチノールと似た効果が期待できるとされています。レチノールに比べて刺激が少なく、敏感肌の方や妊娠中の方でも使用しやすいとされています。
また、ナイアシンアミド(ビタミンB3誘導体)も、シワ改善や美白効果が期待できる成分として人気があります。レチノールほど刺激が強くないため、レチノールが合わなかった方にも使いやすい成分です。

10. まとめ
レチノールは、シワ、シミ、毛穴、ニキビなど、さまざまな肌悩みに効果が期待できる優れた美容成分です。しかし、その高い効果の裏には、正しく使用しないと肌トラブルを引き起こすリスクもあります。
本記事の内容をまとめると、以下のポイントが重要です。
レチノールをやめたほうがいい人としては、妊娠中・授乳中の方、敏感肌の方、アトピーや湿疹がある方、日焼けをしている方が挙げられます。これらに該当する場合は、使用を控えるか、医師に相談してから判断しましょう。
A反応(レチノイド反応)は、レチノール使用初期に起こりうる一時的な反応です。軽度の乾燥や赤み、皮むけは、肌が成分に慣れるにつれて改善していくことが多いです。ただし、症状が強い場合や長引く場合は、アレルギーの可能性もあるため専門医に相談してください。
ピーリング成分や高濃度ビタミンC、ハイドロキノンなどとの同時使用は避け、使用する場合は時間帯を分けるなどの工夫が必要です。
正しい使い方としては、夜に使用すること、低濃度から始めて徐々にステップアップすること、保湿をしっかり行うこと、紫外線対策を徹底することが重要です。
レチノールは、正しく使えば安全で効果的な美容成分です。自分の肌の状態をよく観察しながら、無理のない範囲で取り入れていくことで、健やかで美しい肌を目指すことができます。
使用にあたって不安がある場合や、肌トラブルが起きた場合は、自己判断せずに皮膚科医や専門家に相談することをおすすめします。
参考文献
- 日本人の食事摂取基準(2020年版)- 厚生労働省
- ビタミンAとカロテノイド – 厚生労働省eJIM
- ビタミンAの働きと1日の摂取量 – 健康長寿ネット(公益財団法人長寿科学振興財団)
- ビタミンAの過剰摂取による影響 – 食品安全委員会
- 一般公開ガイドライン – 公益社団法人日本皮膚科学会
監修者医師
高桑 康太 医師
略歴
- 2009年 東京大学医学部医学科卒業
- 2009年 東京逓信病院勤務
- 2012年 東京警察病院勤務
- 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
- 2019年 当院治療責任者就任
佐藤 昌樹 医師
保有資格
日本整形外科学会整形外科専門医
略歴
- 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
- 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
- 2012年 東京逓信病院勤務
- 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
- 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務