はじめに
近年、美容業界で注目を集めている「レチノール」。SNSや美容雑誌で頻繁に取り上げられ、「シワに効く」「エイジングケアの救世主」などと評されることも多い成分です。しかし、その実際の効果や正しい使用方法について、十分に理解している方は意外と少ないのが現状です。
2017年に厚生労働省から医薬部外品成分として「シワ改善効果」が認められたことで、レチノールは一般の方にも広く知られるようになりました。一方で、「肌荒れを起こした」「使い方が分からない」といった声も聞こえてきます。
本記事では、アイシークリニック東京院の医師監修のもと、レチノールの効果から使用方法、注意点まで、医学的根拠に基づいて詳しく解説いたします。美しい肌を目指す皆様のお役に立てるよう、専門的な内容をわかりやすくお伝えします。

レチノールとは?基礎知識を正しく理解する
ビタミンAファミリーの一員
レチノールはビタミンAのひとつです。ビタミンAは油に溶けやすい性質を持つビタミンで、皮膚や粘膜を健康に保つ、抵抗力を高める、酸化を抑えるといった働きがあります。
体内でビタミンAは以下の3つの活性型に変化します:
- レチノール(美容成分として注目)
- レチナール(中間代謝産物)
- トレチノイン(レチノイン酸)(最も生理活性が強い)
レチノールは代謝によってレチナールに変わり、最終的にトレチノインとなります。レチナールはレチノールに戻ることもありますが、トレチノインに変わると元に戻ることはありません。
レチノールの種類と特徴
市場に出回っているレチノール製品は、大きく以下の2つに分類されます:
純粋レチノール(ピュアレチノール)
- 成分表示には「レチノール」または「レチノール油液」と記載
- 効果が高い反面、安定性が低く適切な保存が必要
- A反応(副反応)が起こりやすい
レチノール誘導体(レチニルエステル)
- パルミチン酸レチノール、酢酸レチノール、プロピオン酸レチノールなど
- 作用が穏やかなビタミンAで、肌への刺激が弱く、A反応が起こることもほとんどありません
- 安定性が高く化粧品に配合しやすい
厚生労働省による承認
2017年に厚生労働省がレチノールを医薬部外品成分として”シワ改善の効果がある”と認め、これにより日本でのレチノールの認知度が大幅に向上しました。
資生堂は約30年間にわたるレチノール研究の基盤技術のもと、日本で唯一、医薬部外品の有効成分レチノールを配合した製品を製造販売できるメーカーとして、レチノール研究の先駆者的存在となっています。
レチノールの美容効果:科学的根拠に基づく解説
1. シワ改善効果
レチノールの最も注目される効果が、厚生労働省に認められたシワ改善効果です。
作用メカニズム
レチノールは培養したヒトの表皮角化細胞でヒアルロン酸の産生を顕著に促進します。ヒアルロン酸は水分保持や皮膚の弾力性の維持などに関与し、また加齢とともに減少することが知られている重要な成分です。レチノールはヒアルロン酸の産生を増加させ皮膚に柔軟性を与えて、しわを改善します。
臨床効果
顔面に細かいシワを有する84名の女性被検者(40-69歳、平均年齢56.5歳)のうち48名に純粋レチノールを含むクリーム状美容液を、36名に純粋レチノール未配合美容液(プラセボ製剤)を、それぞれ12週間連用してもらった結果、レチノール配合美容液の塗布は、プラセボ製剤塗布群と比較して8週目以降に、視感評価では有意にシワグレードスコアを減少させ、機器評価では有意にシワ面積率、シワ体積の両方でシワの減少を示した。
2. ハリ・弾力向上効果
レチノールは真皮においてコラーゲンやエラスチンの生成を促す作用があり、ふっくらと若々しい肌を叶えます。真皮層のコラーゲンとエラスチンは肌のハリを形成する重要なタンパク質であり、これらの生成促進により、表皮の浅いシワの改善や肌の弾力向上が期待できます。
レチノールは連用していくに従ってヒアルロン酸やコラーゲンなど真皮マトリックス成分の密度を増大させることが認められており、この細胞外マトリックス成分の密度増大作用は真皮の再構築を促進し、シワの改善作用を促していると考えられています。
3. ターンオーバー促進効果
レチノールは表皮の新陳代謝を促進する作用があります。余分な角質が取り除かれることで、加齢による肌のごわつきを改善し、キメを整えなめらかな肌を目指すことができます。
レチノールは細胞レセプターに認識され、細胞成長の促進および細胞分裂を活性化し、結果的にターンオーバーを促進することが明らかにされており、また組織学的な観察ではすでに角層を増やし、表皮の厚みを増加させることがわかっています。
4. 毛穴改善効果
レチノールの毛穴改善効果は、複数のメカニズムによるものです:
- 開き毛穴・たるみ毛穴:肌に「ハリ」と「弾力」を与えるレチノールは、開き毛穴やたるみ毛穴にも効果的です。真皮のコラーゲン生成を促すため、加齢による毛穴のたるみにも効果が期待できます
- 詰まり毛穴:過剰な皮脂分泌を抑制してくれる働きもあるため、詰まり毛穴にも効果的
5. ニキビ予防・改善効果
もともとニキビの治療薬としてクリニックで使われていたレチノール。ニキビの原因となる皮脂の分泌量を減らすことで、ニキビの予防、またターンオーバーの促進によりニキビ跡を目立ちにくくする効果も期待できます。
レチノールで肌のターンオーバーが促進されると、余分な角質が排出されるようになります。ニキビは毛穴の詰まりによって起こるため、レチノールにより新しいニキビができるのを防ぐことができます。
6. シミ・くすみ改善効果
皮膚の新陳代謝が活発になると、メラニン色素が排出されやすくなるので、くすみの改善も期待できます。
シミは肌にメラニン色素が蓄積して沈着してしまっている状態のため、メラニン色素を排出することでシミを改善することが可能です。
7. 保湿効果
近年は保湿作用も注目されてます。レチノールは皮膚内でヒアルロン酸の合成を促進する作用があります。ヒアルロン酸は肌の保湿成分であり、レチノールにより肌の柔軟性を与えたり、シワを改善したりする効果が期待できます。
レチノールの正しい使用方法
初回使用時の注意点
レチノール初心者の方は、以下の手順で段階的に導入することが重要です:
- 低濃度から開始:0.1%以上のものであれば一般的に高濃度といえます。1%を越えるアイテムはレチノールを使い慣れている上級者向け。最初はあまり濃度の高いものは避けましょう
- 使用頻度を調整:最初のうちは「少量を低頻度」で始めるのがお勧めです。レチノールは実は毎日使わなくてもその効果は発揮されるというようなことが分かっており、週3回程度でも十分だと言われています
- パッチテストの実施:初めて使用する化粧品は、パッチテストをして肌に合うか試すようにしましょう
基本的なスキンケアの順序
レチノール配合化粧品には油分が多く含まれるため、洗顔直後に使用すると化粧水などが浸透しづらくなります。そのため、洗顔後、化粧水などで肌を整えた後に使うのが一般的です。また、レチノールの使用後はターンオーバーが促されて肌が乾燥しやすくなるため、最後に保湿ケアを取り入れるとよいでしょう。
推奨手順:
- クレンジング・洗顔
- 化粧水
- レチノール製品
- 乳液・クリーム(保湿)
- 日焼け止め(朝のみ)
使用タイミングについて
レチノールは紫外線に弱く、分解されやすいという特徴があります。紫外線の影響を避ける目的で、夜のみの使用が推奨されているレチノール配合化粧品もあるため、使うタイミングについてよく確認するようにしましょう。
A反応(レチノイド反応)について
A反応とは何か
A反応は、「レチノイド反応」や「ビタミンA反応」とも呼ばれていて、レチノールやレチノイン酸を肌に塗布した後に急激に新陳代謝が促されることで起こります。多く見られるのは、赤みや皮むけ、乾燥感などの症状です。
A反応は悪い反応ではない
症状だけを見ると肌にとって悪い反応のように思えるかもしれません。でも、実はこの反応は決して悪いのではありません。A反応はビタミンAの成分によって急激に新陳代謝が促されることで起こるもので、肌が慣れていくと症状も落ち着いていきます。
A反応が出やすいのは、肌のビタミンA濃度が低い人。ビタミンAを肌に補充するためにもレチノールを与えることは大切です。
A反応の対処法
レチノイド反応を抑えるためにはいくつかのポイントがあります。まず1つは「保湿をしっかり行う」ということです。レチノールを塗る前に保湿をすることによってレチノールの浸透をより穏やかにすることができます。
肌の赤みやピリつきが気になる場合には、2~3日間隔をあけて使うなど、お肌と相談しながら少しずつ取り入れてみて。
レチノールの注意点と禁忌
妊娠・授乳中の使用について
妊娠中・授乳中のレチノール使用については、安全性が確立されていないため、使用を控えることが一般的に推奨されています。この期間中は医師に相談してから使用を検討してください。
紫外線対策の重要性
レチノールにより肌の新陳代謝が進むと皮膚の角質層が薄くなり、紫外線に対して敏感になります。日焼けを防ぐためにも、治療中はUVケアをきちんと行いましょう。
レチノール配合化粧品を使用する際には、日焼け止めや帽子、日傘などを活用し、紫外線対策を徹底することが重要です。
長期使用の安全性
レチノールなどのレチノイドはその効果を得るためには長期で使うべきで、長期にわたって塗ってもこれまでの報告によるとそういった癌化などのリスクはなく安全性は高いという風に考えられています。
化粧品のレチノールと皮膚科処方の違い
濃度の違い
医師が扱うレチノールは、化学物質としては化粧品のそれと同じであっても、効果をもたらす実効濃度(広義の生物学的活性)が化粧品のそれとはケタ違い(百倍から時に1万倍も)です。
トレチノインとの比較
トレチノインが持つ生理活性の強さ(身体の他の物質に影響を与える力)はレチノールのおよそ50〜100倍で、レチノールは最終的にトレチノインに変換されることによって、効果を発揮するとも考えられています。
皮膚科では、生理活性がレチノールの50~100倍といわれる医療用医薬品の”トレチノイン”というビタミンA誘導体が処方されることが多いでしょう。
美容皮膚科での治療
美容皮膚科では、レチノールとピーリングを組み合わせた「レチノールピール」など、レチノールを使った治療もあることを覚えておきましょう。レチノールを使った治療は、自由診療の保険対象外で、1回20,000円~といった費用相場となります。
レチノール製品の選び方
濃度による選択
初心者の方:
- 0.05%~0.1%程度の低濃度製品
- レチノール誘導体(パルミチン酸レチノールなど)
中級者の方:
- 0.1%~0.5%程度の中濃度製品
- 純粋レチノール配合製品
上級者の方:
- 0.5%~1%以上の高濃度製品
- 医療機関での相談を推奨
製品タイプによる選択
レチノールは、油になじみやすい成分。そのため美容液やクリームでとりいれるのがおすすめです。
医薬部外品の確認
レチノールによるシワを改善する効果が承認されている化粧品はあまり多くありません。レチノールでシワを本格的にケアしたい場合は、必ず全成分表示の有効成分欄にレチノールが記載されているかをチェックしましょう。
効果を実感するまでの期間
一般的な期間
効果を実感するまでに最低でも数週間はかかるのが一般的です。継続的な使用が重要で、少なくとも数ヶ月は続けることが推奨されます。
レチノールは美容成分であり、薬とは違って即効性を期待できるものではありません。効果を実感するまでに数週間〜数ヶ月間かかることもある点を頭に入れておきましょう。
段階的な効果の現れ方
- 初期(1-2週間):肌質の改善、触感の変化
- 中期(4-8週間):キメの整い、くすみの改善
- 長期(8週間以降):シワの改善、ハリの向上

よくある質問と回答
効果の実感には個人差がありますが、一般的には数週間から数ヶ月の継続使用が必要です。まず肌質の改善から始まり、シワや色素沈着の改善には長期間の使用が必要となります。
製品によって異なりますが、多くのレチノール製品は夜の使用が推奨されています。朝使用する場合は、必ず日焼け止めを併用してください。
ビタミンC、AHA、BHAなどの酸性成分との併用は刺激が強くなる可能性があります。併用する場合は、使用時間をずらすか、皮膚科医にご相談ください。
まとめ
レチノールは、科学的根拠に基づいた優秀なエイジングケア成分です。2017年に厚生労働省から「しわを改善する」効能効果の承認を受けたことからも、その効果は医学的に証明されています。
ただし、効果的で安全な使用のためには以下の点が重要です:
- 段階的な導入:低濃度から始めて徐々に慣らす
- 適切な保湿ケア:A反応を予防・軽減する
- 紫外線対策の徹底:レチノール使用中は特に重要
- 継続的な使用:効果実感には数週間〜数ヶ月必要
- 専門医への相談:肌トラブル時や製品選びに迷った際
美しい肌を目指す皆様にとって、レチノールは心強い味方となることでしょう。ただし、個人の肌質や悩みによって最適な使用方法は異なるため、不安がある場合は専門医にご相談いただくことをお勧めします。
参考文献
- 厚生労働省 薬事・食品衛生審議会 化粧品・医薬部外品部会 議事録(2017年1月20日)
- 資生堂 有効成分純粋レチノールによるしわを改善する効能効果の承認を日本で初めて取得(2017年)
- 日本皮膚科学会認定皮膚科専門医による監修記事
- 化粧品成分オンライン「レチノール」基本情報
- 美容皮膚科専門医による臨床データ
監修者医師
高桑 康太 医師
略歴
- 2009年 東京大学医学部医学科卒業
- 2009年 東京逓信病院勤務
- 2012年 東京警察病院勤務
- 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
- 2019年 当院治療責任者就任
佐藤 昌樹 医師
保有資格
日本整形外科学会整形外科専門医
略歴
- 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
- 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
- 2012年 東京逓信病院勤務
- 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
- 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務