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ニキビは多くの方が経験する身近な肌トラブルですが、実は「尋常性痤瘡(じんじょうせいざそう)」という正式名称を持つ皮膚疾患です。日本人の約90%が一度は経験するといわれており、思春期だけでなく成人になってからも悩まされる方は少なくありません。適切な治療薬を選び、正しく使用することで、ニキビの改善はもちろん、ニキビ跡を残さない美肌を目指すことができます。本記事では、皮膚科で処方される治療薬から市販薬まで、ニキビに効く薬の種類や特徴、使い方を詳しく解説いたします。


目次

  1. ニキビとは?原因と発症メカニズム
  2. ニキビの種類と進行段階
  3. ニキビ治療薬の種類一覧
  4. 皮膚科で処方される塗り薬(外用薬)
  5. 皮膚科で処方される飲み薬(内服薬)
  6. ニキビに効く漢方薬
  7. 市販薬と処方薬の違い
  8. 症状別・ニキビ薬の選び方
  9. ニキビ薬の正しい使い方と塗る順番
  10. 副作用への対処法
  11. 皮膚科を受診すべき目安
  12. まとめ
  13. よくある質問

ニキビとは?原因と発症メカニズム

ニキビは、皮脂腺が発達している顔面、前胸部、上背部などに生じる毛包脂腺系の慢性炎症性疾患です。医学的には「尋常性痤瘡」と呼ばれ、れっきとした皮膚疾患として位置づけられています。平均発症年齢は13.3歳と思春期を中心に発症しますが、大人になってから発症するケースも珍しくありません。

ニキビが発症するメカニズムは、主に3つの要因が関係しています。1つ目は「皮脂の過剰分泌」です。男性ホルモン(アンドロゲン)の作用により、皮脂腺からの皮脂分泌が亢進します。2つ目は「毛穴のつまり(角化異常)」です。毛包漏斗部の角化が亢進し、皮脂が毛穴の中に貯留する状態になります。この状態を「面皰(めんぽう)」または「コメド」と呼びます。3つ目は「アクネ菌の増殖による炎症」です。詰まった毛穴の中でCutibacterium acnes(アクネ菌)が増殖し、炎症を引き起こします。

これらの要因が複合的に作用することで、ニキビは発生・悪化していきます。そのため、効果的な治療のためには、それぞれの要因に対応した薬を適切に選択することが重要になります。

ニキビの種類と進行段階

ニキビは進行段階によって症状が異なり、それぞれに適した治療薬があります。ニキビの種類を理解することで、より効果的な治療が可能になります。

微小面皰(マイクロコメド)

微小面皰は肉眼では見えないほど小さい初期段階のニキビです。毛穴に皮脂や角質が溜まり始めた状態で、この段階で適切なケアを行うことでニキビの発生を防ぐことができます。

白ニキビ(閉鎖面皰)

毛穴の出口が閉じた状態で、皮脂が毛穴内に溜まり白く盛り上がって見えるニキビです。まだアクネ菌は増殖しておらず、炎症も起きていません。触ると肌がざらざらした感じがします。この段階であれば、毛穴のつまりを改善する薬で効果的に治療できます。

黒ニキビ(開放面皰)

毛穴の出口が開いた状態で、毛穴に詰まった皮脂が空気に触れて酸化し、黒く見えるニキビです。白ニキビと同様に炎症は起きていませんが、放置すると炎症を起こして赤ニキビに進行する可能性があります。

赤ニキビ(炎症性丘疹)

白ニキビや黒ニキビを放置することで、毛穴の中でアクネ菌が増殖し、炎症を起こした状態です。赤く腫れ、痛みを伴うこともあります。この段階では、抗菌・抗炎症作用のある薬での治療が必要になります。放置するとニキビ跡の原因になる可能性があります。

黄ニキビ(膿疱)

赤ニキビがさらに悪化し、アクネ菌に加えて黄色ブドウ球菌も侵入して化膿した状態です。毛穴の先端に黄色い膿が見えます。この段階になると自己治療が難しく、皮膚科での治療が推奨されます。

紫ニキビ(嚢腫・結節)

赤ニキビが悪化して血膿がたまった状態になり、重度の腫れと痛みを伴う最も重症のニキビです。皮膚の深いところにまで炎症が及んでいるため、瘢痕(ニキビ跡)を残すリスクが高くなります。市販薬や通常の保険治療では改善が難しく、専門的な治療が必要です。

日本皮膚科学会のガイドラインでは、顔全体の炎症性皮疹(赤ニキビ)の数によって重症度を分類しています。炎症性皮疹が5個以下を軽症、6〜20個を中等症、21〜50個を重症、51個以上を最重症としています。重症度に応じて治療薬の選択や併用療法が検討されます。

ニキビ治療薬の種類一覧

ニキビ治療薬は大きく分けて、毛穴の詰まりを改善する薬、殺菌・抗菌作用のある抗生物質、保湿剤、ビタミン剤、漢方薬、ホルモン剤などがあります。これらは飲み薬と塗り薬の両方があり、症状に合わせて使い分けたり併用したりします。

日本皮膚科学会の「尋常性痤瘡・酒皶治療ガイドライン2023」では、ニキビ治療を「急性炎症期」と「維持期」の2つの段階に分けて考えます。急性炎症期は赤ニキビや黄ニキビが主体となる時期で、抗菌薬を含めた積極的な治療を行います。維持期は炎症が落ち着いた後の時期で、面皰を中心にコントロールしながら再発を予防する治療を継続します。

治療の基本方針として、まず毛穴のつまり(面皰)の段階で炎症が始まる前にできるだけ早く治療を開始することが重要です。そして早期から毛穴の詰まりを改善する外用薬を使用し、炎症がひどいニキビでは外用・内服の抗菌薬を併用します。ただし、抗菌薬治療は「急性炎症期のみ」「中等症以上」「最長3カ月」が原則とされており、耐性菌の発生を防ぐために適切な使用期間を守ることが大切です。

皮膚科で処方される塗り薬(外用薬)

皮膚科で処方されるニキビの塗り薬には、毛穴のつまりを改善する薬と、抗菌作用のある薬があります。これらを単独で、または組み合わせて使用することで、効果的にニキビを治療します。

アダパレン(ディフェリンゲル)

アダパレン(商品名:ディフェリンゲル)は、2008年に日本で承認された外用レチノイド製剤です。世界80カ国以上で使用されており、ニキビ治療のガイドラインで中心的な位置づけとなっています。

アダパレンは、皮膚の角化を調整して毛穴の詰まりを改善する作用があります。毛穴に皮脂の抜け道を作ることで、毛穴に詰まった皮脂を外に出すことができます。また、抗炎症作用もあるため、毎日塗布することでニキビを予防する効果も期待できます。さらに、レチノイドの特性として、肌に蓄積した黒色メラニン色素を排出する働きがあるため、ニキビが治った後の色素沈着にも効果が期待できます。

使い方は、1日1回、就寝前に洗顔後に使用します。化粧水や乳液などのスキンケア製品を使った後、最後にディフェリンゲルを塗ります。使用開始から2週間ほどで、皮膚が赤くなったり、乾燥してカサカサしたり、ヒリヒリ感を感じたりする副作用が現れることがあります。これは刺激性の副作用で、多くの場合1カ月程度で軽減していきます。保湿剤を併用することで副作用を軽減できることもあります。

注意点として、妊婦または妊娠している可能性のある女性には使用できません(催奇形性のリスクがあるため)。また、顔面のみの使用に限定されており、体のニキビには使用できません。

過酸化ベンゾイル(ベピオゲル・ベピオローション)

過酸化ベンゾイル(BPO、商品名:ベピオゲル、ベピオローション)は、2015年に日本で承認された薬剤です。海外では60年以上前からニキビ治療薬として第一線で使用されてきました。

過酸化ベンゾイルには、殺菌作用(フリーラジカルがアクネ菌を殺菌)と、角質剥離作用(ピーリング作用で毛穴のつまりを改善)の2つの効果があります。特筆すべきは、耐性菌が発生しないという点です。抗生物質を長期間使用すると耐性菌が生じるリスクがありますが、過酸化ベンゾイルはその心配がないため、長期的な維持療法にも適しています。

ディフェリンゲルが白ニキビに対してより強力な効果を示すのに対し、ベピオゲルは白ニキビと赤ニキビの両方に効果があります。また、妊娠中でも使用できること、体のニキビにも使用できることがディフェリンゲルとの違いです。

1日1回洗顔後に使用します。使用初期には刺激性の副作用(赤み、乾燥、ヒリヒリ感など)が現れることがあります。また、アレルギー性のかぶれが起こる可能性があり、使用を続けているうちに顔全体や首に腫れや赤みが出た場合は、使用を中止して医師に相談する必要があります。

重要な注意点として、過酸化ベンゾイルには漂白作用があります。髪や眉毛、衣服、枕カバーなどに付着すると脱色してしまうため、注意が必要です。塗布後は手をしっかり洗い、服や寝具は白いものを使用することをお勧めします。

デュアック配合ゲル

デュアック配合ゲルは、過酸化ベンゾイル(3%)とクリンダマイシン(1%)を配合した薬剤です。2015年に日本で保険適用となりました。簡単にいうと、ベピオゲルとダラシンTゲル(抗生物質)を合わせた薬です。

抗菌作用、抗炎症作用、角質剥離作用という複数の作用があり、特に炎症性の赤ニキビを早く治すことができます。赤ニキビを早期に治療することは、ニキビ跡の予防にもつながります。臨床試験では、2週間の使用で約6割、12週間で約9割の赤ニキビが改善したという結果が報告されています。

1日1回、洗顔後に使用します。デュアック配合ゲルは冷蔵庫での保管が必要な薬剤です(2〜8℃)。常温で保管すると成分が変質する可能性があります。

注意点として、クリンダマイシンには耐性菌が発生するリスクがあるため、赤ニキビがなくなって白ニキビだけになった場合は、デュアックではなくベピオゲル単独に切り替えることが推奨されています。使用期間は原則として12週間以内とされており、それ以上の使用は医師との相談が必要です。

エピデュオゲル

エピデュオゲルは、アダパレン(0.1%)と過酸化ベンゾイル(2.5%)を配合した薬剤です。2016年に保険適用となりました。ディフェリンゲルとベピオゲルの両方の成分が含まれており、単剤で使用するよりも高い治療効果が期待できます。

エピデュオゲルは、保険適用の外用薬の中でも特に優れた効果を発揮する塗り薬といえます。赤ニキビが顔全体に12個以上あるような中等症以上の方に特に推奨されます。毛穴のつまりの改善と殺菌の両方の効果を1剤で得られることがメリットです。

ただし、最初からエピデュオゲルを使用することは推奨されていません。ディフェリンゲルとベピオゲルを同時に使用すると、刺激性の副作用とアレルギー性のかぶれを区別することが難しくなるためです。通常は、まずディフェリンゲルから開始し、ベピオゲルを併用しても問題ないことを確認してから、エピデュオゲルに切り替えるという流れが一般的です。

副作用として、ディフェリンゲルやベピオゲル以上に、塗り始めに刺激症状(ヒリヒリ感、乾燥、赤み)が現れやすくなります。また、妊娠中は使用できません。

外用抗菌薬

炎症を起こしている赤ニキビや黄ニキビには、外用抗菌薬が使用されます。アクネ菌を殺菌することで炎症を抑え、ニキビの改善を促します。主な外用抗菌薬には以下のものがあります。

ダラシンTゲル・ローション(クリンダマイシンリン酸エステル)は、細菌のタンパク質合成を阻害して殺菌作用を示します。ニキビ治療ガイドラインでは、炎症が起きている赤ニキビの治療に強く推奨されています。ゲルタイプとローションタイプがあり、症状や好みに応じて使い分けます。

ゼビアックスローション(オゼノキサシン)は、キノロン系の抗菌薬で、1日1回の塗布で効果を発揮します。黄色ブドウ球菌にも効果があり、化膿したニキビにも有効です。さっぱりとした使用感が特徴です。

アクアチム軟膏・クリーム・ローション(ナジフロキサシン)は、ニューキノロン系の抗菌薬で、軟膏、クリーム、ローションの3タイプがあります。症状に応じて使い分けが可能です。

ただし、外用抗菌薬の単独使用は推奨されていません。日本皮膚科学会のガイドラインでも、世界各国のガイドラインでも、抗菌薬のみの単独使用は耐性菌の発生リスクを高めるため推奨されていません。必ず過酸化ベンゾイルやアダパレンと併用することが重要です。

皮膚科で処方される飲み薬(内服薬)

赤ニキビや黄ニキビが多数ある中等症以上のニキビには、塗り薬だけでなく飲み薬(内服薬)が処方されることがあります。内服薬は体の内側からアクネ菌に作用するため、広範囲のニキビや、外用薬では届きにくい深いニキビにも効果を発揮します。

ビブラマイシン(ドキシサイクリン)

ビブラマイシン(一般名:ドキシサイクリン塩酸塩水和物)は、テトラサイクリン系の抗生物質です。日本皮膚科学会の「尋常性痤瘡・酒皶治療ガイドライン2023」において、炎症を伴うニキビに対する内服抗菌薬として最も強く推奨されています。

ビブラマイシンには、アクネ菌を殺菌する抗菌作用に加えて、炎症を抑える抗炎症作用があります。細菌のタンパク質合成を阻害することで殺菌し、炎症の原因となる白血球が患部に集まるのを抑える働きがあります。消化管からの吸収率が高く、内服後すぐに有効な血中濃度に達し、長時間持続するのが特徴です。

効果が実感できるまでには通常1〜3週間程度かかります。副作用として、光線過敏症(日光に当たると皮膚が赤くなったり腫れたりする)が起こることがあるため、日焼け対策が必要です。また、歯牙の色素沈着のリスクがあるため、8歳未満の小児や妊婦には推奨されていません。

ミノマイシン(ミノサイクリン)

ミノマイシン(一般名:ミノサイクリン塩酸塩)も、テトラサイクリン系の抗生物質で、ニキビ治療に広く使用されています。ガイドラインでは、炎症を伴うニキビに対して推奨されています。

ミノマイシンは抗菌力が高く、他のテトラサイクリン系抗生物質が効きにくい耐性ブドウ球菌にも有効です。抗菌作用に加えて抗炎症作用もあり、活性酸素を抑制する効果も期待できます。

ただし、ビブラマイシンと比較してめまいや色素沈着などの副作用の頻度が高いとされています。また、まれに自己免疫疾患様の症状や薬剤性過敏症症候群などの重篤な副作用が報告されているため、ガイドラインではビブラマイシンの方がより推奨されています。

ルリッド(ロキシスロマイシン)

ルリッド(一般名:ロキシスロマイシン)は、マクロライド系の抗生物質です。ビブラマイシンやミノマイシンが使用できない場合、またはアレルギーがある場合の代替として使用されます。細菌のタンパク質合成を阻害して殺菌作用を示します。

ファロム(ファロペネム)

ファロム(一般名:ファロペネムナトリウム水和物)は、ペネム系の抗菌薬です。細菌の細胞壁合成を阻害することで殺菌作用を示します。テトラサイクリン系やマクロライド系が使用できない場合の選択肢として推奨されています。

内服抗菌薬の使用期間は最長3カ月が目安とされており、6〜8週間後に効果と継続の必要性を再評価することが推奨されています。耐性菌の発生を防ぐため、必要以上に長期間使用しないことが重要です。

ニキビに効く漢方薬

漢方薬は、ニキビ治療において補助的な役割を担っています。日本皮膚科学会のガイドラインでは推奨度C1(他の治療が無効であれば推奨する)となっていますが、体質改善を目指す方や、抗生物質を長期使用したくない方には良い選択肢となります。

東洋医学では、ニキビの炎症を「熱」、血行不良を「瘀血(おけつ)」と呼び、ニキビの治療には炎症を抑える「清熱剤」や、血流を改善する「駆瘀血剤」に分類される漢方薬がよく使われます。

十味敗毒湯(じゅうみはいどくとう)

十味敗毒湯は、化膿性の皮膚疾患によく用いられる漢方薬です。含まれる荊芥や甘草にはアクネ菌に対する抗菌作用があるとされ、古くからニキビ治療に用いられてきました。また、桜皮には男性ホルモンの分泌を抑える効果があることも報告されています。

十味敗毒湯は、炎症が比較的軽く、小さなニキビがポツポツとある初期段階に向いています。中程度の体力がある方に適しており、効果は早いと1カ月ほどで実感できるといわれています。

清上防風湯(せいじょうぼうふうとう)

清上防風湯は、体力が中等度以上あり、脂性肌の方の赤ニキビに使われます。顔にこもった熱を冷ますことで、ニキビを改善に導きます。発赤や化膿の傾向が強い、隆起した皮疹やニキビに向いており、思春期のニキビに効果が出やすいとされています。

臨床データでは、清上防風湯単剤によるニキビの有効率は女性で74%、男性で70%と報告されています。服用開始から数日以内に改善が見られることも多く、症状が落ち着いてくれば服薬量を減らすことも可能です。

荊芥連翹湯(けいがいれんぎょうとう)

荊芥連翹湯は、17種類もの生薬から構成される漢方薬です。皮膚の炎症を発散させ毒を取り除く作用があり、ガイドラインでは炎症性皮疹と面皰の両方に対して推奨されています(推奨度C1)。

荊芥連翹湯は、皮膚の深いところにしこりを伴うようなニキビに効果があり、慢性的にしぶといニキビを体質改善と一緒にゆっくり治したいという方に適しています。また、扁桃腫大や咽頭痛を繰り返す方、アレルギー性鼻炎を伴う方にも選択されることがあります。

臨床データでは、荊芥連翹湯単剤によるニキビの有効率は女性で86%、男性で78%と報告されています。また、通常治療に荊芥連翹湯を併用した群では、炎症性のニキビ数が有意に減少したという研究結果もあります。

その他の漢方薬

桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)は、血のめぐりを改善することで、ほてりやのぼせを改善してニキビを改善に導きます。生理周期に合わせて悪化するニキビに向いています。

当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)は、体力がなく冷え性の方の、赤みがなく小さなニキビに適しています。

漢方薬は一般的に副作用が少ないとされていますが、甘草を含む漢方薬では偽アルドステロン症(低カリウム血症、高血圧など)に注意が必要です。十味敗毒湯、清上防風湯、荊芥連翹湯にはいずれも甘草が含まれているため、複数の漢方薬を併用する場合は医師に相談してください。

市販薬と処方薬の違い

ニキビの治療薬には、ドラッグストアで購入できる市販薬と、皮膚科で処方される処方薬があります。両者には成分や効果に大きな違いがあります。

市販薬は安全性を考慮して成分の濃度が抑えられており、効果が穏やかに現れるのが特徴です。主な有効成分には、イオウ(角質をやわらかくする作用)、サリチル酸(角質剥離作用)、イソプロピルメチルフェノール(殺菌作用)、イブプロフェンピコノール(抗炎症作用)、グリチルリチン酸ニカリウム(抗炎症作用)などがあります。

代表的な市販薬としては、クレアラシルニキビ治療クリーム、メンソレータムアクネスニキビ治療薬、ペアアクネクリームW、イハダアクネキュアクリームなどがあります。

一方、処方薬にはアダパレン(ディフェリンゲル)や過酸化ベンゾイル(ベピオゲル)など、市販薬には含まれない有効成分が配合されています。これらは毛穴のつまりを根本から改善する効果があり、ニキビのできにくい肌づくりに貢献します。また、内服抗生物質は体の内側からアクネ菌に作用するため、広範囲のニキビや重症のニキビにも効果を発揮します。

市販薬は白ニキビや黒ニキビの初期段階には効果が期待できますが、赤ニキビになると効果を感じにくくなることがあります。市販薬を2〜3カ月使用しても改善しない場合や、赤ニキビ・黄ニキビが多数ある場合は、皮膚科を受診することをお勧めします。皮膚科での治療は保険が適用されるため、1回の受診でおおよそ1,000円〜3,000円程度(3割負担の場合)で治療を受けることができます。

症状別・ニキビ薬の選び方

ニキビの治療薬は、症状の進行度や重症度によって選び方が異なります。ここでは、症状別に適した薬の選び方を解説します。

白ニキビ・黒ニキビの場合

白ニキビや黒ニキビは毛穴がつまった状態であり、まだアクネ菌が増殖しておらず炎症も起きていません。この段階では、毛穴の詰まりを改善する薬が有効です。

処方薬では、アダパレン(ディフェリンゲル)が最も有効とされています。皮膚の角化を抑制して毛穴のつまりを改善します。過酸化ベンゾイル(ベピオゲル)も角質剥離作用があり、白ニキビに効果があります。

市販薬では、イオウやサリチル酸を含む製品がお勧めです。これらは角質をやわらかくして皮脂の排出を促し、毛穴のつまりを防ぎます。

赤ニキビの場合

赤ニキビは炎症を伴っているため、抗菌・抗炎症作用のある薬が効果的です。

処方薬では、過酸化ベンゾイル(ベピオゲル)やデュアック配合ゲルが有効です。外用抗菌薬(ダラシンTゲル、ゼビアックスローションなど)も使用されますが、必ずアダパレンや過酸化ベンゾイルと併用します。中等症以上の場合は、内服抗菌薬(ビブラマイシン、ミノマイシンなど)が追加されます。

市販薬では、イブプロフェンピコノールなどの抗炎症成分を含む製品がお勧めです。ペアアクネクリームWやイハダアクネキュアクリームなどが代表的です。

黄ニキビ・紫ニキビの場合

黄ニキビや紫ニキビは重症化した状態であり、市販薬での改善は困難です。早急に皮膚科を受診することをお勧めします。

処方薬では、デュアック配合ゲルやエピデュオゲルに加えて、内服抗菌薬が併用されます。最重症の場合は、イソトレチノイン(保険適用外)などの選択肢も検討されることがあります。

維持期(炎症が落ち着いた後)

赤ニキビが改善した後も、面皰(白ニキビ・黒ニキビ)に対する治療を継続することが重要です。この維持期には抗菌薬の使用を中止し、アダパレンや過酸化ベンゾイルを単独または併用して使用します。これにより、ニキビの再発を予防し、耐性菌の出現を防ぎます。

ニキビ薬の正しい使い方と塗る順番

ニキビの塗り薬は、正しい順番で使用することで効果を最大限に発揮します。ここでは、一般的な使用順序を解説します。

基本的な塗る順番は以下の通りです。まず、クレンジングと洗顔を行い、肌を清潔にします。次に化粧水を塗り、必要に応じて美容液を使用します。その後、乳液や保湿クリームで保湿を行います。ここまでのスキンケアが終わってから、ニキビの塗り薬を使用します。

ディフェリンゲルとベピオゲルを両方使用する場合は、どちらを先に塗っても問題ありません。ただし、外用抗菌薬(ダラシンTゲル、ゼビアックスローションなど)は、ディフェリンゲルやベピオゲルの後に塗ることが一般的です。また、ゼビアックスと過酸化ベンゾイル製剤を重ねて塗ると黄色に変色することがあるため、併用する場合はゼビアックスを朝、過酸化ベンゾイル製剤を夜というように分けて塗布することが推奨されています。

薬を塗る際のポイントとして、適量を守ることが重要です。過度に塗布しても効果は上がらず、刺激が増すおそれがあります。また、ニキビの部分だけでなく、ニキビができやすい部位全体に薄く伸ばして塗ることで、新しいニキビの予防にもなります。

化粧品やスキンケア製品は、ノンコメドジェニック(ニキビのもとになりにくい成分で作られた製品)を選ぶとより効果的です。

副作用への対処法

ニキビ治療薬には副作用が伴うことがありますが、多くの場合は適切な対処で乗り越えることができます。

刺激性の副作用(赤み、乾燥、ヒリヒリ感、皮むけ)

ディフェリンゲルやベピオゲル、エピデュオゲルなどを使い始めると、2週間前後で皮膚が赤くなったり、乾燥してカサカサしたり、ヒリヒリ感を感じたりすることがあります。これは「随伴症状」や「レチノイド皮膚炎」と呼ばれ、薬の効果が現れている証拠でもあります。

対処法としては、保湿剤を十分に使用すること、使用量を少量から開始すること、使用回数を減らすこと(休薬を含む)、塗布範囲を狭くすることなどがあります。通常、これらの症状は1カ月程度で軽減していきます。症状が強い場合は、2日に1回の使用から始めるなど、肌を慣らしながら使用することも有効です。

アレルギー性のかぶれ

ベピオゲルを使用している場合、刺激性の副作用とは別にアレルギー性のかぶれが起こることがあります。アレルギー性のかぶれは、使用を続けていても改善せず、むしろ悪化していきます。顔全体や首にまで赤みや腫れが広がった場合は、アレルギー反応の可能性がありますので、直ちに使用を中止して医師に相談してください。

内服抗生物質の副作用

ビブラマイシンやミノマイシンなどのテトラサイクリン系抗生物質では、光線過敏症(日光に当たると皮膚症状が出る)が起こることがあります。服用中は日焼け対策を十分に行い、長時間の日光曝露を避けてください。また、めまい(特にミノマイシン)、消化器症状(腹痛、下痢など)、長期服用による色素沈着などが報告されています。

漢方薬の副作用

甘草を含む漢方薬を長期間服用したり、複数の漢方薬を併用したりすると、偽アルドステロン症(低カリウム血症、高血圧、むくみなど)が起こることがあります。手足の脱力感やむくみなどの症状が現れた場合は、医師に相談してください。

皮膚科を受診すべき目安

ニキビは市販薬でケアできる場合もありますが、以下のような症状がある場合は皮膚科の受診をお勧めします。

まず、赤ニキビや黄ニキビが多数ある場合です。炎症を伴うニキビが顔全体に広がっている場合は、市販薬では効果が不十分なことが多く、処方薬による治療が効果的です。

次に、市販薬を2〜3カ月使用しても改善しない場合です。適切な薬を使用しているにもかかわらず効果が見られない場合は、診断や治療方針を見直す必要があります。

また、ニキビが繰り返し同じ場所にできる場合も受診をお勧めします。根本的な原因(ホルモンバランス、生活習慣など)がある可能性があり、医師による診察と指導が有効です。

さらに、ニキビ跡が気になる場合や、紫ニキビなど重症化している場合は、早急に皮膚科を受診してください。瘢痕(ニキビ跡)の予防や治療には専門的なアプローチが必要です。

日本の痤瘡患者の皮膚科受診率は約16%と低い水準にあります。ニキビは適切な治療を受けることで効果的に改善でき、ニキビ跡の予防にもつながります。ニキビでお悩みの方は、お気軽に皮膚科を受診してご相談ください。

まとめ

ニキビ治療薬には、毛穴のつまりを改善する薬(アダパレン、過酸化ベンゾイル)、殺菌・抗菌作用のある抗生物質、漢方薬、ビタミン剤など、さまざまな種類があります。それぞれの薬には特徴があり、ニキビの種類や重症度に応じて使い分けることで、効果的な治療が可能です。

治療のポイントは、早期から毛穴のつまりを改善する治療を開始すること、炎症が強い場合は抗菌薬を併用すること、炎症が落ち着いた後も維持療法を継続することです。抗菌薬の使用は必要最小限にとどめ、耐性菌の発生を防ぐことも重要です。

市販薬は初期の白ニキビや黒ニキビには効果が期待できますが、赤ニキビ以上の症状には皮膚科での治療が効果的です。保険診療で処方される薬は成分や効果が強く、ニキビのできにくい肌づくりに貢献します。

ニキビは適切な治療を受けることで改善が期待できる疾患です。お悩みの方は、アイシークリニック東京院へお気軽にご相談ください。患者様一人ひとりの症状に合わせた最適な治療をご提案いたします。

よくある質問

ニキビ薬はどのくらいで効果が出ますか?

薬の種類や症状によって異なりますが、一般的に塗り薬(ディフェリンゲル、ベピオゲルなど)は効果を実感するまでに1〜3カ月程度かかることがあります。内服抗生物質は1〜3週間程度で効果が現れ始めることが多いです。漢方薬は早いと1カ月ほどで効果を感じられることもあります。焦らず根気強く治療を続けることが大切です。1カ月以上使用しても効果が感じられない場合は、医師に相談して治療方針を見直すことをお勧めします。

ニキビの塗り薬と飲み薬は併用できますか?

はい、塗り薬と飲み薬の併用は一般的に問題ありません。むしろ、中等症以上のニキビでは、塗り薬と内服抗生物質の併用が推奨されています。ただし、塗り薬同士や飲み薬同士の併用については、成分の相互作用や副作用の増強などに注意が必要な場合があります。複数の薬を使用する場合は、必ず医師や薬剤師に相談してください。

ニキビ薬を使っても治らない場合はどうすればよいですか?

まず、薬を正しく使用できているか確認してください。塗り薬は毎日継続して使用することが重要であり、症状が良くなったからといって途中でやめてしまうと再発しやすくなります。市販薬を2〜3カ月使用しても改善しない場合は、皮膚科を受診することをお勧めします。処方薬にはより効果の高い成分が含まれており、症状に合わせた適切な治療を受けることができます。また、生活習慣(睡眠、食事、ストレス)の見直しも効果的です。

妊娠中でも使えるニキビ薬はありますか?

妊娠中に使用できるニキビ薬は限られています。アダパレン(ディフェリンゲル)やエピデュオゲルは、催奇形性のリスクがあるため妊婦には使用できません。一方、過酸化ベンゾイル(ベピオゲル)は妊娠中も注意しながら使用できる薬です。デュアック配合ゲルも、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合に使用が検討されます。妊娠中または妊娠の可能性がある方は、必ず医師に相談してから薬を使用してください。

ニキビの内服抗生物質は長期間飲み続けても大丈夫ですか?

内服抗生物質の長期使用は推奨されていません。日本皮膚科学会のガイドラインでは、内服抗生物質の使用期間は最長3カ月が目安とされています。これは、長期間の使用により耐性菌(抗生物質が効かなくなる菌)が発生するリスクがあるためです。通常は6〜8週間後に効果と継続の必要性を再評価し、炎症が落ち着いたら内服を中止して塗り薬による維持療法に移行します。抗生物質の使用期間については、必ず医師の指示に従ってください。


参考文献

監修者医師

高桑 康太 医師

略歴

  • 2009年 東京大学医学部医学科卒業
  • 2009年 東京逓信病院勤務
  • 2012年 東京警察病院勤務
  • 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
  • 2019年 当院治療責任者就任

佐藤 昌樹 医師

保有資格

日本整形外科学会整形外科専門医

略歴

  • 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
  • 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
  • 2012年 東京逓信病院勤務
  • 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
  • 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務
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