近年、皮膚科診療において「顔ダニ」という言葉を耳にする機会が増えています。多くの方が「顔にダニがいる」と聞くと驚きや不快感を覚えるかもしれません。しかし、顔ダニは私たちの皮膚に自然に存在する微生物であり、適正な数であれば皮膚の健康維持に重要な役割を果たしています。
一方で、何らかの要因により顔ダニが過剰に増殖すると、様々な皮膚トラブルの原因となることが明らかになってきました。特に、従来のニキビ治療では改善しない皮膚炎や、中年以降に突然現れる赤ら顔などの症状において、顔ダニの関与が注目されています。
本記事では、顔ダニの正体から症状、診断、最新の治療法まで、専門医の視点から詳しく解説いたします。正しい知識を身につけることで、顔ダニによる皮膚トラブルの予防と適切な対処が可能になります。

🔬 顔ダニ(デモデックス)について知っておくべき基本情報
📋 学名と分類
顔ダニの正式名称は「ニキビダニ」または「毛包虫」と呼ばれ、学名を「Demodex(デモデックス)」といいます。これは節足動物門鋏角亜門クモ綱ダニ目に属する微小な寄生虫で、実はクモに近い生物です。
📏 形態的特徴
顔ダニは非常に小さく、肉眼では見ることができません。顕微鏡で観察すると、頭胸部と腹部があり、4対8本の短い脚を持っています。体は細長く、尻尾部分がやや尖った形をしています。全体的にニンジンのような形状をしており、一般的なダニとは大きく異なる特徴的な外観を持っています。
🏠 2種類の顔ダニと生息場所
人間の皮膚に生息するニキビダニには主に2種類があります:
1. Demodex folliculorum(デモデックス・フォリキュロルム)
- 体長:約0.35~0.4mm
- 体幅:約0.05mm
- 生息場所:毛根部、毛包内
- 特徴:体が長めで、主にまつ毛、眉毛、顔の毛包に住み着く
2. Demodex brevis(デモデックス・ブレビス)
- 体長:約0.15~0.2mm
- 体幅:前者より幅広
- 生息場所:皮脂腺、マイボーム腺の深部
- 特徴:体が短めで、より深い皮脂腺組織内に生息
🌱 顔ダニの生態と皮膚での役割
🔄 生活環と年齢分布
顔ダニの生活環は約2~3週間です:
- 卵期:皮脂腺や毛包内で産卵
- 幼虫期:約3~4日
- 若虫期:約4~5日
- 成虫期:約5~14日
成虫は主に夜間に皮膚表面に出現し、交尾を行います。昼間は皮脂を摂取しながら皮膚深部で生活しています。
顔ダニは人類共通の「常在微生物」として広く分布しています。年齢別の検出率を見ると:
- 乳児・幼児(5歳未満):ほぼ検出されない(皮脂分泌が少ないため)
- 青年期(18歳以上):検出率が上昇し始める
- 中年期(40歳代):約50%
- 高齢者(70歳以上):約80~100%
💪 皮膚における有益な働き
健康な皮膚において、顔ダニは実際に有益な働きをしています:
- 皮脂の分解:過剰な皮脂を分解し、毛穴の詰まりを防ぐ
- 古い角質の除去:不要な角質を取り除き、肌のターンオーバーを促進
- pH値の調整:皮膚表面のpHバランスを維持
- 他の病原菌の抑制:有害細菌の増殖を抑制する
- 顔面:頬、額、鼻、あご
- 頭皮:髪の生え際
- 耳:外耳道周辺
- 首:皮脂腺の多い部分
- 胸部・背部:皮脂分泌の活発な領域
- ホルモンバランスの乱れ
- 思春期、更年期
- ストレス
- 不適切な食事
- 睡眠不足
- 栄養不足
- 慢性疾患
- 加齢
- 洗顔不足
- メイクの落とし残し
- 過度な洗顔
- 不適切な化粧品の使用
- 赤いブツブツ:炎症性の丘疹が多発
- 強いかゆみ:通常のニキビより痒みが強い
- 持続性:一般的なニキビ治療で改善しない
- 年齢層:30歳以降に多く見られる
- 顔面の紅斑:頬、鼻、額、あごの持続的な赤み
- 毛細血管拡張:細かい血管が透けて見える
- 丘疹・膿疱:ニキビ様の発疹
- ほてり感:顔面の熱感や灼熱感
- 眼瞼の炎症:まぶたの赤みや腫れ
- 目のかゆみ:持続的な違和感
- ドライアイ:涙液の質の低下
- まつ毛の脱落:異常な抜け毛
- 症状の特徴
- かゆみの程度と性質
- 皮疹の分布パターン
- 症状の持続期間
- 既存治療への反応
- 年齢・性別
- 30歳以降の発症
- 女性により多い傾向
- 既往歴
- ステロイド使用歴
- 免疫抑制状態の有無
- 顔ダニの神経系に作用し、麻痺させる
- 抗炎症作用も併せ持つ
- 選択的にダニに作用し、人体への影響は最小限
- 1日1回、夜間に患部に薄く塗布
- 治療期間:通常1~3ヶ月
- 頻度:1日2回(朝・夜)
- 洗顔料:低刺激性、弱酸性のもの
- 温度:ぬるま湯(32~34℃)
- 方法:優しく泡で包むように洗う
- 時間:30秒~1分程度
- セラミド:バリア機能修復
- ヒアルロン酸:水分保持
- グリセリン:保湿効果
- 尿素:角質軟化作用
- ビタミンA:緑黄色野菜、レバー
- ビタミンC:柑橘類、ブロッコリー
- ビタミンE:ナッツ類、植物油
- 亜鉛:牡蠣、赤身肉
- オメガ3脂肪酸:青魚、亜麻仁油
- 睡眠時間:7~8時間
- 就寝時刻:規則正しいリズム
- ストレス軽減法:運動、瞑想、趣味活動
- 枕カバー:毎日または2日に1回の交換
- シーツ:週1~2回の洗濯
- 室内湿度:50~60%を維持
- 換気:定期的な空気の入れ替え
- 早期診断:症状が長引く場合は皮膚科専門医に相談
- 適切な治療:医師の指導のもと、継続的な治療を実施
- スキンケア:正しい洗顔と保湿を心がける
- 生活習慣:バランスの良い食事、十分な睡眠、ストレス管理
- 環境整備:清潔な寝具、適切な室内環境の維持
- 日本皮膚科学会「ざ瘡治療ガイドライン 2017」 https://www.dermatol.or.jp/uploads/uploads/files/guideline/acne_guideline2017.pdf
- 日本アトピー協会「ダニについて」 https://www.nihonatopy.join-us.jp/skin/shittoku/dani.html
- 厚生労働省「医薬品・医療機器等安全性情報」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iyakuhin/index.html
- 日本眼科学会「眼瞼炎診療ガイドライン」 https://www.nichigan.or.jp/
- 日本臨床皮膚科医会「皮膚疾患情報」 https://www.jocd.org/
- 国立感染症研究所「寄生虫症について」 https://www.niid.go.jp/niid/ja/
このように、通常の数であれば顔ダニは「皮膚の清掃員」として重要な役割を果たしています。
📍 好発部位
顔ダニは皮脂の分泌が盛んな部位を好みます:
🚨 顔ダニが引き起こす症状と疾患
⚠️ 過剰増殖の原因
以下のような条件が重なると、顔ダニが過剰に増殖し、皮膚トラブルの原因となります:
1. 皮脂分泌の過剰
2. 免疫力の低下
3. スキンケアの問題
🔍 主な皮膚疾患
1. 毛包虫性ざ瘡(もうほうちゅうせいざそう)
通常のニキビと類似した症状ですが、以下の特徴があります:
2. 酒さ(しゅさ)
慢性の炎症性皮膚疾患で、顔ダニとの関連が強く示唆されています:
3. 眼瞼炎・マイボーム腺機能不全
まつ毛の根元に生息する顔ダニが原因:
🔬 診断から治療まで知っておくべきこと
👨⚕️ 診断方法
皮膚科専門医は以下の点を総合的に判断します:
確定診断には顕微鏡による直接観察が最も確実です。一般的に1平方センチメートルあたり5匹以上の顔ダニが検出された場合、病的な増殖と判断されます。
💊 最新の治療法
現在、顔ダニ治療の第一選択薬として注目されているのがイベルメクチンクリームです:
症状が重篤な場合は内服薬(メトロニダゾール、ミノサイクリン)や物理療法(IPL、PDT)も併用されます。
🛡️ 予防とスキンケアのポイント
🧼 正しいスキンケア方法
1. 適切な洗顔
2. 保湿ケア
推奨される保湿成分
🌿 生活習慣の改善
1. 食事管理
推奨する食品
2. 睡眠とストレス管理
🏠 環境整備

❓ よくある質問(FAQ)
A: 顔ダニは皮膚接触により感染する可能性がありますが、ほとんどの人がすでに保有しているため、新たな感染を過度に心配する必要はありません。ただし、症状のある方は直接的な皮膚接触(頬ずりなど)は控えた方が良いでしょう。
A: 犬や猫にも固有のDemodex種が存在しますが、人間のニキビダニとは異なる種類のため、ペットから人への感染はありません。
A: 顔ダニの完全駆除は現実的ではありません。治療の目標は過剰に増殖したダニの数を正常レベルまで減らし、症状をコントロールすることです。
A: 治療開始初期に症状が一時的に悪化することがあります(ダイオフ反応)。これは治療が効いている証拠でもあるため、医師の指導のもと継続することが重要です。
A: 適切な治療により症状は改善しますが、根本的な原因(免疫力低下、ホルモンバランス異常など)が解決されない場合、再発の可能性があります。継続的なスキンケアと生活習慣の改善が重要です。
A: 軽症の場合は市販の硫黄系軟膏やクロタミトン製剤である程度の効果が期待できますが、確実な診断と効果的な治療のためには皮膚科専門医への相談をお勧めします。
A: 以下の特徴で区別できます:
年齢:顔ダニは30歳以降に多い
かゆみ:顔ダニの方が強いかゆみを伴う
治療反応:通常のニキビ治療で改善しない
分布:顔ダニはより広範囲に分布する傾向
A: 特別なケアは不要ですが、以下を心がけてください:
適切な洗顔とスキンケア
バランスの良い食事
十分な睡眠
ストレス管理
清潔な寝具の使用
📝 まとめ
顔ダニ(デモデックス)は私たちの皮膚に自然に存在する微生物であり、適正な数であれば皮膚の健康維持に重要な役割を果たしています。しかし、様々な要因により過剰に増殖すると、毛包虫性ざ瘡、酒さ、眼瞼炎などの皮膚疾患の原因となります。
近年の医学研究により、顔ダニの診断法と治療法は大きく進歩しました。特にイベルメクチンクリームの登場により、従来治療困難とされていた症例でも良好な治療成績が得られるようになっています。
重要なのは、正しい診断に基づく適切な治療と、日常的なスキンケア・生活習慣の改善です。以下のポイントを心がけることで、顔ダニによる皮膚トラブルの予防と改善が期待できます:
治りにくいニキビや持続する赤ら顔でお悩みの方は、顔ダニが関与している可能性があります。特に30歳以降で発症し、一般的なニキビ治療に反応しにくい症状がある場合は、専門医による詳しい検査をお勧めします。
現在では、イベルメクチンクリームをはじめとする効果的な治療法が確立されており、適切な診断と治療により症状の大幅な改善が期待できます。また、日常的なスキンケアと生活習慣の改善により、良好な状態を長期間維持することも可能です。
皮膚の健康は全身の健康と密接に関連しています。顔ダニによる症状でお困りの際は、一人で悩まず、専門医にご相談ください。当院では、患者様お一人おひとりの症状に合わせた最適な治療をご提供いたします。
📚 参考文献
本記事は医学的情報提供を目的としており、個別の診断や治療の代替となるものではありません。症状がある場合は、必ず医療機関を受診し、専門医の診断を受けてください。
監修者医師
高桑 康太 医師
保有資格
ミラドライ認定医
略歴
- 2009年 東京大学医学部医学科卒業
- 2009年 東京逓信病院勤務
- 2012年 東京警察病院勤務
- 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
- 2019年 当院治療責任者就任
- 皮膚腫瘍・皮膚外科領域で15年以上の臨床経験と30,000件超の手術実績を持ち、医学的根拠に基づき監修を担当
- 専門分野:皮膚腫瘍、皮膚外科、皮膚科、形成外科
- 臨床実績(2024年時点) 皮膚腫瘍・皮膚外科手術:30,000件以上、腋臭症治療:2,000件以上、酒さ・赤ら顔治療:1,000件以上
- 監修領域 皮膚腫瘍(ほくろ・粉瘤・脂肪腫など)、皮膚外科手術、皮膚がん、一般医療コラムに関する医療情報
佐藤 昌樹 医師
保有資格
日本整形外科学会整形外科専門医
略歴
- 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
- 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
- 2012年 東京逓信病院勤務
- 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
- 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務
多くの患者様が「顔にダニがいる」と聞くとご心配になられますが、顔ダニは正常な皮膚環境の一部です。重要なのは、その数のバランスです。30歳以降で従来のニキビ治療が効かない場合や、急に赤ら顔が気になり始めた方は、一度専門的な検査を受けることをお勧めします。適切な診断により、効果的な治療が可能になります。