突然、皮膚に赤いふくらみが現れ、強いかゆみに襲われる蕁麻疹。多くの方が一度は経験したことがあるのではないでしょうか。とくに現代社会では、仕事のプレッシャーや人間関係の悩み、睡眠不足といったストレスフルな環境で生活する中で、「ストレスが原因で蕁麻疹が出た」「疲れがたまると蕁麻疹が出やすい」という声をよく耳にします。
では、ストレスや疲労と蕁麻疹には、本当に関係があるのでしょうか。もしあるとすれば、どのようなメカニズムで発症し、どう対処すればよいのでしょうか。
本記事では、蕁麻疹とストレス・疲労の関係について、最新の医学的知見をもとにわかりやすく解説します。蕁麻疹の基礎知識から、発症のメカニズム、種類と分類、検査・診断方法、治療法、そして日常生活でできる予防と対策まで、包括的にお伝えしますので、蕁麻疹でお悩みの方はぜひ参考になさってください。

目次
- 蕁麻疹とは何か
- 蕁麻疹が起こるメカニズム
- ストレスと蕁麻疹の関係
- 疲労と蕁麻疹の関係
- 蕁麻疹の種類と分類
- 蕁麻疹の検査と診断
- 蕁麻疹の治療法
- 蕁麻疹が出たときの対処法
- 日常生活でできる予防と対策
- 医療機関を受診すべきタイミング
- よくある質問
- まとめ 参考文献
1. 蕁麻疹とは何か
蕁麻疹(じんましん)とは、皮膚の一部が突然赤くくっきりと盛り上がり(膨疹:ぼうしん)、しばらくすると跡形もなく消えてしまう皮膚の疾患です。膨疹は強いかゆみを伴うことが多く、チクチクとした痛みやほてりを感じることもあります。
蕁麻疹という名前の由来は、日本に自生するイラクサ(蕁麻)という植物に触れたときに起こる皮膚症状に似ていることから名付けられました。イラクサの茎や葉にはヒスタミンが含まれており、とげに触れると痛みやかゆみ、発疹が生じます。
蕁麻疹の主な特徴
蕁麻疹には以下のような特徴があります。
膨疹の大きさや形はさまざまで、2〜3mm程度の円形や楕円形のものから、直径10cm以上の手のひら大の地図状になるものまであります。膨疹同士がつながって広範囲に広がることもあります。
蕁麻疹の最大の特徴は、数十分から24時間以内に跡を残さず自然に消失することです。ただし、消えたと思っても別の場所に新たな膨疹が現れ、出没を繰り返すことが少なくありません。
一般的な湿疹と蕁麻疹の違いとして、湿疹は数日間続くことが多く、治まった後に色素沈着が残ることがありますが、蕁麻疹は短時間で消え、色素沈着も残りません。
蕁麻疹の有病率
蕁麻疹は非常にありふれた皮膚疾患であり、一生のうちに4〜5人に1人が経験するといわれています。年齢や性別を問わず誰にでも起こりうる症状ですが、とくに20〜40代の女性に多い傾向があります。
2. 蕁麻疹が起こるメカニズム
蕁麻疹がどのようにして起こるのか、そのメカニズムを理解することは、適切な対処や予防につながります。
ヒスタミンの役割
蕁麻疹を引き起こす主な原因物質は「ヒスタミン」です。ヒスタミンは通常、皮膚組織内にある「マスト細胞(肥満細胞)」の中に蓄えられています。何らかの刺激によってマスト細胞が活性化されると、ヒスタミンをはじめとする化学物質(ケミカルメディエーター)が細胞外に放出されます。
放出されたヒスタミンは、皮膚の毛細血管に作用して血管を拡張させ、血管の壁から血漿成分が漏れ出すようになります。これにより皮膚が赤く盛り上がり(膨疹)、かゆみが生じるのです。
マスト細胞が活性化される原因
マスト細胞が活性化される原因は多岐にわたります。大きく分けると「アレルギー性」と「非アレルギー性」の2つがあります。
アレルギー性の蕁麻疹では、特定の食物や薬剤、ハウスダスト、花粉などのアレルゲンに対してIgE抗体が作られ、そのアレルゲンに再び接触したときにアレルギー反応が起こってマスト細胞が活性化されます。
一方、非アレルギー性の蕁麻疹では、物理的な刺激(摩擦、圧迫、寒冷、温熱、日光など)、運動、発汗、感染症、ストレス、疲労など、アレルギー反応を介さない要因によってマスト細胞が活性化されます。
蕁麻疹の約8割は原因不明
蕁麻疹の約80%は原因を特定できない「特発性蕁麻疹」に分類されます。これは、蕁麻疹がさまざまな要因の複合的な作用によって発症することが多く、単一の原因を特定することが難しいためです。日本皮膚科学会の蕁麻疹診療ガイドラインでも、明らかな原因がない症例が蕁麻疹の大半を占めることが示されています。
3. ストレスと蕁麻疹の関係
「ストレスで蕁麻疹が出た」という経験談はよく聞きますが、これは医学的にはどのように解釈されているのでしょうか。
ストレスは直接的な原因ではない
結論から言えば、医学的にはストレスそのものが蕁麻疹の直接的な原因になることはないと考えられています。しかし、ストレスが蕁麻疹を誘発したり、症状を悪化させたりする「背景因子」や「増悪因子」として重要な役割を果たすことは、多くの研究で明らかになっています。
日本皮膚科学会の蕁麻疹診療ガイドラインにおいても、蕁麻疹の病態に関与する背景因子として「疲労・ストレス」が挙げられています。つまり、ストレスは「もともと装填されている銃」があるときに「引き金を引く」要因として作用すると考えると理解しやすいでしょう。
精神神経免疫学からみたストレスと蕁麻疹
私たちの心(脳)と皮膚は、互いに情報をやり取りする密接な関係にあります。この関係性を研究する学問を「精神神経免疫学(Psychoneuroimmunology)」と呼びます。皮膚は単なる体のバリアではなく、ストレスを敏感に感じ取る「感覚器」であり、ストレス反応が現れる「標的器官」でもあるのです。
ストレスが蕁麻疹につながる具体的なメカニズムとして、以下のような経路が考えられています。
まず、脳がストレスを感知すると、視床下部から指令が出されます。すると、副腎からストレスホルモンであるコルチゾールやアドレナリンが分泌されます。これらのホルモンは免疫系に影響を与え、マスト細胞の活性化を促進することがあります。その結果、ヒスタミンなどの化学物質が放出され、蕁麻疹の症状として現れるのです。
自律神経との関連
ストレスは自律神経のバランスにも大きな影響を与えます。自律神経には、緊張時に働く「交感神経」とリラックス時に働く「副交感神経」の2種類があり、通常はこれらがバランスよく働いています。
しかし、慢性的なストレスにさらされると自律神経のバランスが乱れ、免疫システムにも影響が及びます。具体的には、免疫細胞の反応閾値(刺激に反応するための最低限の刺激量)が下がってしまい、通常なら反応しないような軽微な刺激でもマスト細胞が活性化されやすくなります。
また、興味深いことに、仕事や勉強などの緊張状態から解放されてリラックスモードになり副交感神経が優位になると、皮膚の血流が増加し、ヒスタミンの放出が促進されて蕁麻疹が出現することもあります。これが「休日になると蕁麻疹が出る」「夜になると症状が悪化する」という現象の一因とも考えられています。
ストレスで蕁麻疹が出やすくなる状況
以下のような状況では、ストレスが蕁麻疹の発症や悪化に関与している可能性が高いと考えられます。
就職や転職、引っ越し、転校など環境が大きく変わるタイミングでの発症。受験や重要なプレゼンテーションなど、精神的なプレッシャーがかかる場面での発症。人間関係の悩みや家庭内のトラブルが続いているときの発症。仕事の繁忙期や残業が続いているときの発症。これらに心当たりがある場合は、ストレス管理が蕁麻疹の改善に役立つ可能性があります。
4. 疲労と蕁麻疹の関係
ストレスと並んで、「疲れると蕁麻疹が出る」という訴えもよく聞かれます。疲労と蕁麻疹の関係についても詳しく見ていきましょう。
疲労による免疫機能の低下
疲労が蓄積すると、体の免疫機能が低下します。慢性的な睡眠不足や過重労働が続くと、免疫システムのバランスが崩れ、通常は反応しないような刺激に対しても過敏に反応してしまうようになります。
また、疲労は皮膚のバリア機能も低下させます。皮膚のバリア機能が弱まると、外部からの刺激物質が皮膚に侵入しやすくなり、マスト細胞の活性化が起こりやすくなります。
疲労とストレスの相互作用
疲労とストレスは密接に関連しています。疲労が蓄積するとストレスに対する耐性が低下し、ストレスを感じやすくなります。逆に、ストレスが続くと心身が消耗し、疲労が蓄積しやすくなります。
このような悪循環により、疲労とストレスが重なると蕁麻疹の発症リスクはさらに高まります。普段は問題なく食べている食品でも、疲労やストレスが蓄積しているときに食べると蕁麻疹が出るというケースもあります。
睡眠不足の影響
睡眠不足は蕁麻疹の悪化因子として特に重要です。睡眠中には免疫機能の回復や皮膚の修復が行われますが、睡眠時間が不足すると、これらの機能が十分に働かなくなります。
また、睡眠不足は自律神経のバランスを乱し、交感神経が過剰に働く状態が続きます。これにより体内の炎症反応が亢進し、蕁麻疹が出やすい状態になると考えられています。
季節の変わり目と疲労
季節の変わり目は蕁麻疹が増える時期です。これは気温の変動による体への負担、環境変化によるストレス、新生活や年度替わりによる精神的プレッシャーなど、複数の要因が重なるためと考えられています。
特に夏の疲れが蓄積した9〜10月頃や、年度末から新年度にかけての時期には、「寒暖差蕁麻疹」や「ストレス蕁麻疹」と呼ばれる症状で受診される方が増える傾向があります。
5. 蕁麻疹の種類と分類
蕁麻疹にはさまざまな種類があり、それぞれ原因や症状の現れ方が異なります。日本皮膚科学会の蕁麻疹診療ガイドラインに基づいて、主な分類をご紹介します。
特発性蕁麻疹
原因を特定できない蕁麻疹のことを「特発性蕁麻疹」と呼びます。蕁麻疹の中で最も多いタイプで、全体の約70〜80%を占めるといわれています。症状の持続期間によって、急性と慢性に分けられます。
急性蕁麻疹は、毎日のように繰り返し症状が現れる蕁麻疹のうち、発症から6週間以内のものを指します。子どもでは風邪などの感染症に伴って発症することが多く、原因が特定されなくても治療を行えば多くの場合は改善します。
慢性蕁麻疹は、症状が6週間以上続くものを指します。夕方から夜間にかけて症状が出やすく、ストレスや疲労によって悪化する傾向があります。原因の特定は難しいことが多く、症状が数か月から数年にわたって続くこともあります。
刺激誘発型蕁麻疹
特定の刺激によって誘発される蕁麻疹で、いくつかの種類に分けられます。
物理性蕁麻疹は、機械的擦過(皮膚をこする)、圧迫、寒冷、温熱、日光、振動などの物理的刺激によって起こります。例えば、重いバッグを腕にかけると腕が赤くなる、下着のゴムに圧迫された部分が赤くなるなどの症状が見られます。
寒冷蕁麻疹は、冷たい水や空気に触れたときに起こる蕁麻疹です。プールに入ったときや、寒い屋外から暖かい室内に入ったときなどに発症することがあります。
日光蕁麻疹は、日光に当たった部分に蕁麻疹が出現するタイプです。紫外線だけでなく、可視光線でも症状が出ることがあります。
コリン性蕁麻疹は、発汗刺激によって起こる蕁麻疹です。運動、入浴、精神的緊張などで体温が上がり汗をかくときに、1〜3mm程度の小さな膨疹が多数現れます。通常の蕁麻疹とは異なり、かゆみよりもチクチク・ピリピリとした痛みを感じることが多いのが特徴です。10〜30代の若年層に多く見られます。
接触蕁麻疹は、特定の物質が皮膚に触れることで起こる蕁麻疹です。ゴム手袋によるラテックスアレルギーなどが代表的です。
食物・薬剤による蕁麻疹
アレルギー性蕁麻疹として、特定の食物や薬剤に対する免疫反応(IgE抗体を介したアレルギー反応)によって起こるものがあります。原因となる食物としては、エビ・カニなどの甲殻類、サバなどの青魚、卵、牛乳、小麦、そば、ピーナッツなどが代表的です。
また、非アレルギー性蕁麻疹として、食品自体に含まれるヒスタミンや、ヒスタミンに似た作用を持つ物質(仮性アレルゲン)によって起こるものもあります。豚肉、タケノコ、もち、香辛料、食品添加物などが関連することがあります。
アスピリンやNSAIDs(非ステロイド性消炎鎮痛薬)による蕁麻疹は「アスピリン蕁麻疹」と呼ばれ、これらの薬剤が直接マスト細胞に作用して症状を引き起こすと考えられています。
血管性浮腫
蕁麻疹に関連する症状として、皮膚だけでなく、まぶたや唇、のどなどが腫れる「血管性浮腫」があります。通常の蕁麻疹よりも深い層(真皮〜皮下組織)で反応が起こり、腫れは2〜3日続くことがあります。のどが腫れると呼吸困難を引き起こす危険性があるため、注意が必要です。
6. 蕁麻疹の検査と診断
蕁麻疹の診断は、基本的に問診と視診によって行われます。ただし、原因を特定するためにさまざまな検査が行われることもあります。
問診の重要性
蕁麻疹の診断において最も重要なのは、詳細な問診です。医師は以下のような点について質問します。
いつ症状が始まったか、どのくらいの頻度で症状が出るか、症状が出る時間帯に傾向があるか、症状が出る前に何か心当たりがあるか(食事、運動、入浴、服薬など)、過去に同様の症状があったか、現在服用している薬があるか、アレルギー歴や既往歴、生活環境やストレスの状況などについて確認します。
蕁麻疹は症状が出たり消えたりするため、診察時には症状が消えていることも少なくありません。そのため、症状が出ているときにスマートフォンなどで写真を撮っておくと、診断の参考になります。
血液検査
原因の特定や、背景にある疾患の有無を調べるために血液検査が行われることがあります。一般的な血液検査では、白血球数、好酸球数、CRP(炎症の指標)、肝機能、腎機能、甲状腺機能などを調べます。
アレルギーが疑われる場合は、特異的IgE抗体検査(CAP-RAST法など)が行われます。これにより、特定のアレルゲン(食物、ダニ、花粉など)に対する抗体の有無を調べることができます。
ただし、蕁麻疹の約8割は原因不明の特発性であり、血液検査でも原因が特定できないことが多いのが現状です。日本皮膚科学会のガイドラインでも、蕁麻疹以外に明らかな所見がなく、症状にも特別な特徴がない場合には、むやみに検査を行うことは推奨されていません。
皮膚テスト
アレルギー性蕁麻疹が疑われる場合、皮膚テストが行われることがあります。プリックテストは、疑われるアレルゲンを皮膚に少量つけ、細い針で軽く刺して反応を見る検査です。パッチテストは、疑われる物質を皮膚に貼り付けて反応を観察する検査です。
負荷試験・誘発試験
物理性蕁麻疹が疑われる場合、誘発試験が行われることがあります。例えば、寒冷蕁麻疹が疑われる場合は氷片を皮膚に当てて反応を見る「アイスキューブテスト」、機械性蕁麻疹が疑われる場合は皮膚を圧迫して反応を見る「皮膚描記試験」などがあります。
食物が原因と疑われる場合には、疑われる食品を実際に少量摂取して反応を見る「経口負荷試験」が行われることもありますが、アナフィラキシーなどの重篤な反応が起こる可能性があるため、医療機関で慎重に行われます。
7. 蕁麻疹の治療法
蕁麻疹の治療の基本は、原因・悪化因子の除去と回避、そして薬物療法です。
原因・悪化因子の除去と回避
蕁麻疹の原因や悪化因子が特定できている場合は、まずそれを避けることが最も重要です。例えば、特定の食物でアレルギーが起こることがわかっている場合はその食物を避ける、寒冷刺激で起こる場合は急激な温度変化を避けるなどの対策をとります。
また、ストレスや疲労が背景因子となっている場合は、生活習慣の見直しやストレス管理も治療の重要な要素となります。
抗ヒスタミン薬による治療
蕁麻疹治療の中心となるのは、抗ヒスタミン薬の内服です。ヒスタミンの作用をブロックすることで、かゆみや膨疹の発現を抑えます。
現在は眠気などの副作用が少ない「第2世代抗ヒスタミン薬」が第一選択として使用されています。代表的な薬剤としては、フェキソフェナジン(アレグラ)、ロラタジン(クラリチン)、セチリジン(ジルテック)、レボセチリジン(ザイザル)、ビラスチン(ビラノア)などがあります。
抗ヒスタミン薬は、症状が出てから服用するのではなく、症状が出なくなっても一定期間継続して服用することが推奨されています。ガイドラインでは、急性蕁麻疹では数日から1週間程度、発症後2か月以内の慢性蕁麻疹では1か月程度、発症後2か月以上経過した慢性蕁麻疹では2か月程度の継続が目安とされています。
症状が改善しても自己判断で服薬を中止すると再発することがあるため、医師の指示に従って徐々に減量していくことが大切です。
抗ヒスタミン薬で効果不十分な場合
通常量の抗ヒスタミン薬で効果が不十分な場合、用量の増量(通常量の2〜4倍まで)や、異なる種類の抗ヒスタミン薬への変更が行われることがあります。
また、H2ブロッカー(胃薬として知られるファモチジンなど)の併用が効果的な場合もあります。
生物学的製剤(オマリズマブ)
従来の抗ヒスタミン薬による治療で十分な効果が得られない慢性特発性蕁麻疹に対して、「オマリズマブ(ゾレア)」という生物学的製剤が使用できるようになっています。これは抗IgE抗体であり、マスト細胞の活性化を抑制する働きがあります。月1回程度の皮下注射で治療を行い、従来の治療が困難であった患者さんにとって大きな希望となっています。
2024年からは、別の生物学的製剤である「デュピルマブ(デュピクセント)」も、12歳以上の慢性特発性蕁麻疹に対して使用できるようになりました。これはIL-4とIL-13というサイトカインをブロックする薬剤で、アトピー性皮膚炎などにも使用されています。
ステロイド薬について
重症の蕁麻疹や血管性浮腫を伴う場合には、副腎皮質ステロイド薬の内服や注射が行われることがあります。ただし、ステロイド薬は長期使用による副作用があるため、短期間の使用に限られます。
なお、ステロイド外用薬(塗り薬)は蕁麻疹には効果がないとされており、通常は使用されません。
漢方薬
慢性蕁麻疹などの治療の際に、補助的に漢方薬が用いられることがあります。補中益気湯、香蘇散、消風散、十味敗毒湯などが使用されることがありますが、抗ヒスタミン薬ほどの明確な効果を示すことは少ないとされています。
8. 蕁麻疹が出たときの対処法
蕁麻疹が出たときに、自分でできる対処法をご紹介します。
患部を冷やす
かゆみが強いときは、濡れタオルや保冷剤(タオルで包んで)を当てて患部を冷やすと、一時的にかゆみを和らげることができます。血管が収縮して血流が減少し、ヒスタミンの作用が抑えられるためです。
ただし、寒冷刺激によって起こった蕁麻疹(寒冷蕁麻疹)の場合は、冷やすと悪化する可能性があるため、この対処法は避けてください。
掻かない
かゆいからといって患部を掻くと、さらにマスト細胞が刺激されてヒスタミンが放出され、症状が悪化したり広がったりすることがあります。また、掻き壊すと湿疹になったり、傷から細菌感染を起こしたりすることもあります。
かゆみを感じたら、掻くのではなく冷やすことで対処しましょう。
入浴・運動を控える
体が温まるとかゆみが強くなる傾向があります。蕁麻疹が出ているときは、熱いお風呂やサウナ、激しい運動は避けた方がよいでしょう。入浴する場合は、ぬるめのシャワーで短時間で済ませることをおすすめします。
衣類の刺激を避ける
きつい下着や衣類による締め付け、タグやゴムによる擦れなどの刺激も蕁麻疹を悪化させることがあります。症状が出ているときは、ゆったりとした衣類を選び、皮膚への刺激を最小限にしましょう。
安静にして休む
疲労やストレスは蕁麻疹の悪化因子です。症状が出ているときは無理をせず、十分な休息をとることが大切です。早めに就寝し、睡眠時間を確保するよう心がけましょう。
9. 日常生活でできる予防と対策
蕁麻疹の予防や再発防止のために、日常生活で心がけたいポイントをご紹介します。
ストレス管理
ストレスは蕁麻疹の重要な悪化因子です。完全にストレスをなくすことは難しいですが、上手に付き合っていくことが大切です。
自分なりのストレス発散法を見つけましょう。趣味の時間を持つ、適度な運動をする、友人と話す、自然の中で過ごすなど、リラックスできる方法は人それぞれです。また、深呼吸やヨガ、瞑想などのリラクセーション法も効果的です。
仕事や人間関係で過度なストレスを感じている場合は、環境調整を検討したり、専門家(カウンセラーや心療内科医)に相談したりすることも選択肢の一つです。
十分な睡眠の確保
睡眠不足は免疫機能の低下につながり、蕁麻疹が出やすくなります。毎日6〜8時間程度の睡眠時間を確保し、規則正しい生活リズムを維持することが大切です。
寝る前のスマートフォンやパソコンの使用は睡眠の質を低下させるため、就寝1時間前には控えるようにしましょう。
バランスの良い食事
栄養バランスの良い食事は、免疫機能を正常に保つために重要です。主食・主菜・副菜をそろえた食事を心がけ、ビタミン、ミネラル、タンパク質を十分に摂取しましょう。
蕁麻疹が出やすい人は、以下の食品に注意が必要な場合があります。ただし、すべてを制限する必要はなく、自分の体質や症状を観察しながら、調子の悪いときには控えるようにするとよいでしょう。
ヒスタミンを多く含む食品(鮮度の落ちた魚介類、発酵食品、ワイン、ビールなど)、ヒスタミンの放出を促進する食品(一部の青魚、豚肉、タケノコ、香辛料など)、刺激の強い食品(アルコール、辛いもの)などは症状が出ているときは避けた方が無難です。
急激な温度変化を避ける
寒暖差が蕁麻疹のきっかけになることがあります。冷房の効きすぎた室内から暑い屋外へ出るときや、季節の変わり目などは注意が必要です。
羽織物を持ち歩く、重ね着で体温調節をするなど、急激な温度変化を避ける工夫をしましょう。
適度な運動
適度な運動はストレス解消に効果的で、免疫機能の維持にも役立ちます。ただし、運動や発汗によって蕁麻疹が誘発される場合(コリン性蕁麻疹など)は、激しい運動を避け、医師と相談しながら適切な運動量を見つけることが大切です。
症状の記録
蕁麻疹がいつ、どのような状況で出たかを記録しておくと、原因や悪化因子を特定する手がかりになります。発症した日時、症状の程度、直前に食べたもの・したこと、ストレスや疲労の状況などをメモしておくとよいでしょう。スマートフォンの健康管理アプリなどを活用するのも便利です。
10. 医療機関を受診すべきタイミング
蕁麻疹は多くの場合、自然に消えるため軽く考えがちですが、以下のような場合は医療機関(皮膚科)を受診することをおすすめします。
すぐに受診すべき場合
蕁麻疹と同時に、唇やまぶた、のどが腫れる場合は注意が必要です。特にのどの腫れは呼吸困難を引き起こす危険性があるため、すぐに医療機関を受診してください。
息苦しさ、呼吸がゼーゼーする、動悸、血圧低下(ふらつき)、吐き気・嘔吐などの症状を伴う場合は、アナフィラキシーの可能性があります。救急車を呼ぶなど、緊急の対応が必要です。
早めに受診すべき場合
症状が1週間以上続いている場合、または繰り返し蕁麻疹が出る場合は、慢性化を防ぐためにも早めに受診しましょう。
広範囲に症状が出ている場合、かゆみが強くて日常生活に支障をきたしている場合も受診をおすすめします。
市販薬を使っても効果がない場合、または症状が悪化している場合も、医療機関での適切な治療が必要です。
蕁麻疹の原因を知りたい場合、特定の食物や薬剤との関連が疑われる場合も、検査を含めた診断のために受診してください。

11. よくある質問
蕁麻疹についてよく寄せられる質問にお答えします。
ストレスが直接的な唯一の原因となって蕁麻疹を起こすことは稀です。しかし、ストレスは蕁麻疹を誘発したり、悪化させたりする重要な増悪因子として働きます。他の要因と重なったときに蕁麻疹が発症しやすくなると考えられています。
蕁麻疹は感染症ではないため、人にうつることはありません。風邪などの感染症に伴って蕁麻疹が出ることはありますが、蕁麻疹自体が伝染することはありません。
Q. 蕁麻疹は遺伝しますか。
通常の蕁麻疹に明確な遺伝性はありませんが、アレルギー体質は遺伝的な要素があるため、親がアレルギー体質であれば子どもも蕁麻疹を起こしやすい傾向はあります。ただし、一部の特殊な蕁麻疹(遺伝性血管性浮腫など)には遺伝性のものがあります。
Q. 蕁麻疹が出ているときにお酒を飲んでも大丈夫ですか。
アルコールには血管拡張作用があり、蕁麻疹を悪化させる可能性があります。症状が出ているときは、飲酒は控えることをおすすめします。ストレス解消のための飲酒は逆効果になることもあるため、他の方法でリラックスする習慣を身につけましょう。
Q. 蕁麻疹にはステロイドの塗り薬が効きますか。
ステロイドの塗り薬(外用薬)は蕁麻疹には効果がないとされており、通常は使用されません。蕁麻疹の治療の基本は抗ヒスタミン薬の内服です。
Q. 市販薬で対処できますか。
軽症の場合は市販の抗ヒスタミン薬で一時的に対処できることもあります。しかし、症状が続く場合や繰り返す場合、広範囲に出ている場合は、医療機関での適切な診断と治療が必要です。
Q. 蕁麻疹は完全に治りますか。
急性蕁麻疹は多くの場合、適切な治療により完全に治ります。慢性蕁麻疹の場合も、治療を続けることで最終的には薬を使わなくても症状が出なくなる状態を目指すことができます。ほとんどの場合は少しずつ薬の量を減らし、中止できるようになります。
12. まとめ
蕁麻疹とストレス・疲労の関係について、本記事の要点をまとめます。
蕁麻疹は、マスト細胞から放出されるヒスタミンなどの作用により、皮膚に赤い膨疹とかゆみが現れる疾患です。通常は24時間以内に跡を残さず消失しますが、出没を繰り返すことが多くあります。
ストレスや疲労は、蕁麻疹の直接的な原因ではありませんが、発症を誘発したり症状を悪化させたりする重要な背景因子です。精神神経免疫学の観点から、ストレスは自律神経や免疫システムに影響を与え、マスト細胞の活性化を促進する可能性があることがわかっています。
蕁麻疹の約8割は原因を特定できない特発性であり、診断は主に問診と視診によって行われます。治療の中心は抗ヒスタミン薬の内服であり、多くの場合は適切な治療で症状をコントロールすることが可能です。
日常生活では、ストレス管理、十分な睡眠、バランスの良い食事、急激な温度変化を避けるなどの対策が蕁麻疹の予防と改善に役立ちます。
蕁麻疹が繰り返し出る場合や、息苦しさなどの症状を伴う場合は、早めに皮膚科を受診することが大切です。
参考文献
- 日本皮膚科学会「蕁麻疹診療ガイドライン2018」
- 日本皮膚科学会 皮膚科Q&A「蕁麻疹」
- 厚生労働省 アレルギーポータル「蕁麻疹(じんましん)」
- Mindsガイドラインライブラリ「蕁麻疹診療ガイドライン2018」
監修者医師
高桑 康太 医師
略歴
- 2009年 東京大学医学部医学科卒業
- 2009年 東京逓信病院勤務
- 2012年 東京警察病院勤務
- 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
- 2019年 当院治療責任者就任
佐藤 昌樹 医師
保有資格
日本整形外科学会整形外科専門医
略歴
- 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
- 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
- 2012年 東京逓信病院勤務
- 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
- 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務