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足の付け根のしこり:気になる症状の原因から治療まで徹底解説

はじめに

入浴時や着替えの際に、ふと足の付け根(鼠径部)にしこりを発見して不安になった経験はありませんか?足の付け根は普段あまり注意深く観察しない部位のため、しこりに気づいたときには「何か重大な病気では?」と心配になる方も多いでしょう。

足の付け根のしこりは、実は珍しい症状ではありません。多くの場合は良性のものですが、中には適切な治療が必要なケースもあります。早期発見・早期治療のためにも、しこりの特徴や考えられる原因について正しい知識を持つことが大切です。

本記事では、足の付け根にできるしこりについて、その原因から症状の見分け方、診断方法、治療法まで、専門医の視点から詳しく解説いたします。

足の付け根(鼠径部)の解剖学的特徴

鼠径部とは

鼠径部(そけいぶ)とは、下腹部と太ももの境界にあたる部分で、一般的に「足の付け根」と呼ばれる領域です。この部位には以下のような重要な構造が存在します:

主要な解剖学的構造

  • 鼠径リンパ節群
  • 鼠径管
  • 大腿動脈・静脈
  • 精索(男性)または子宮円靭帯(女性)
  • 皮下組織・筋膜

鼠径リンパ節の役割

鼠径部には多数のリンパ節が存在し、下肢や骨盤内臓器からのリンパ液をろ過する重要な役割を担っています。これらのリンパ節は、細菌やウイルスなどの異物から体を守る免疫システムの一部として機能しています。

正常な状態でも小さなリンパ節は触知できることがありますが、感染や炎症により腫大することで、しこりとして自覚されることが多くなります。

足の付け根のしこりの主な原因

足の付け根にできるしこりには、様々な原因が考えられます。ここでは、頻度の高いものから順に詳しく解説していきます。

1. リンパ節腫大

最も一般的な原因

リンパ節腫大は、足の付け根のしこりの最も一般的な原因です。以下のような状況で起こります:

反応性リンパ節腫大

  • 感染症による腫大:下肢の外傷、足白癬(水虫)、蜂窩織炎などの感染により、その領域を担当するリンパ節が腫大します
  • 全身感染症:風邪、インフルエンザ、単核球症などでも鼠径リンパ節が腫大することがあります
  • 予防接種後:一部のワクチン接種後に一時的なリンパ節腫大が見られることがあります

特徴

  • 可動性があり、押すと痛みを伴うことが多い
  • 感染が治癒すると徐々に縮小する
  • 複数のリンパ節が同時に腫大することもある
  • 発熱や倦怠感を伴う場合がある

悪性リンパ腫

  • ホジキンリンパ腫:比較的若年者に多く、リンパ節の無痛性腫大が特徴
  • 非ホジキンリンパ腫:より一般的で、年齢を問わず発症する可能性がある

転移性リンパ節腫大

他の部位の悪性腫瘍が鼠径リンパ節に転移することで生じます。特に以下の悪性腫瘍で見られます:

  • 下肢の悪性黒色腫(メラノーマ)
  • 外陰部・肛門部の悪性腫瘍
  • 下肢の軟部肉腫

2. 鼠径ヘルニア

男性に多い原因

鼠径ヘルニアは、腹腔内の臓器(主に小腸)が鼠径管を通って体表近くまで脱出する疾患です。

分類

  • 外鼠径ヘルニア:最も頻度が高く、全年齢で発症する可能性がある
  • 内鼠径ヘルニア:中高年男性に多い
  • 大腿ヘルニア:中高年女性に多く、嵌頓のリスクが高い

症状の特徴

  • 立位や咳をした際にしこりが大きくなる
  • 仰向けになると縮小または消失することが多い
  • 軽度の違和感や鈍痛を伴うことがある
  • 嵌頓時には激痛と腸閉塞症状を呈する

リスクファクター

  • 男性(外鼠径ヘルニア)
  • 加齢
  • 慢性的な咳
  • 便秘
  • 重労働
  • 妊娠・出産(女性)

3. 脂肪腫

良性の軟部組織腫瘍

脂肪腫は成熟した脂肪細胞からなる良性腫瘍で、体のあらゆる部位に発生する可能性があります。

特徴

  • 柔らかく、ゴム様の弾性を持つ
  • 境界明瞭で可動性がある
  • 通常は無痛性
  • 成長は緩慢
  • 大きさは数センチから十数センチまで様々

診断と治療

  • 画像検査(超音波、MRI)で診断可能
  • 悪性化のリスクは極めて低い
  • 美容的な問題や圧迫症状がある場合に手術的切除を検討

4. 粉瘤(アテローム)

皮膚の嚢胞性疾患

粉瘤は表皮嚢胞とも呼ばれ、皮脂腺の出口が閉塞することで形成される嚢胞です。

発生機序

  1. 毛穴や皮脂腺の出口が何らかの原因で閉塞
  2. 内部に角質や皮脂が蓄積
  3. 徐々に嚢胞が拡大

症状と経過

  • 初期は小さな皮下結節として触知
  • 中央に小さな開口部(へそ)が見られることがある
  • 細菌感染を起こすと急激に腫大し、疼痛・発赤・熱感を伴う
  • 感染時には膿が排出されることもある

治療法

  • 非感染時:嚢胞壁ごと完全摘出することで根治が期待できる
  • 感染時:抗生物質投与、切開排膿を行い、炎症が治まってから根治手術を検討

5. 静脈瘤

血管系の異常

鼠径部の静脈瘤は、主に大伏在静脈やその分枝の拡張により生じます。

原因

  • 慢性的な静脈圧上昇
  • 静脈弁の機能不全
  • 遺伝的素因
  • 妊娠
  • 長時間の立位作業

症状

  • 柔らかい腫瘤として触知
  • 立位で膨隆し、仰臥位で縮小
  • 軽度の疼痛や重だるさ
  • 皮膚の色素沈着(慢性例)

6. 感染症によるしこり

蜂窩織炎(ほうかしきえん)

皮膚・皮下組織の細菌感染症で、時にしこりとして触知されることがあります。

症状

  • 発赤、腫脹、熱感、疼痛
  • 全身発熱
  • リンパ管炎を伴うことがある

膿瘍

細菌感染により形成される膿の貯留した空洞で、しこりとして触知されます。

特徴

  • 弾性のある腫瘤
  • 圧痛が強い
  • 波動感を触知することがある
  • 全身症状を伴うことが多い

7. その他の原因

神経鞘腫

末梢神経から発生する良性腫瘍で、鼠径部にも発生することがあります。

血管腫

血管の異常増殖により形成される腫瘤で、生まれつきのものと後天性のものがあります。

悪性軟部腫瘍

まれですが、鼠径部に悪性の軟部腫瘍が発生することがあります。特に以下のような特徴がある場合は注意が必要です:

  • 急速に増大する
  • 硬く、周囲組織との境界が不明瞭
  • 可動性が乏しい
  • 5cm以上の大きさ

症状の見分け方と危険信号

足の付け根のしこりを発見した際、以下のポイントを観察することで、緊急性や重要度を判断する手がかりとなります。

良性を示唆する特徴

触診による特徴

  • 柔らかい質感:脂肪腫や粉瘤に多い
  • 可動性がある:周囲組織との癒着がない良性病変の特徴
  • 境界明瞭:良性腫瘍や反応性リンパ節腫大
  • 対称性:両側に同様の腫瘤がある場合は良性の可能性が高い

経過による特徴

  • 感染後の腫大:明らかな感染巣があり、その後にリンパ節腫大が生じた場合
  • 可逆性:体位変換により大きさが変化する(ヘルニア、静脈瘤)
  • 緩慢な成長:数年かけてゆっくりと大きくなる

注意を要する特徴

悪性を疑う所見

  • 硬い質感:石様硬の腫瘤
  • 境界不明瞭:周囲組織との境界がはっきりしない
  • 固定性:皮膚や深部組織と癒着している
  • 急速増大:数週間から数ヶ月で明らかに大きくなる
  • 無痛性:特に悪性リンパ腫では無痛性の腫大が特徴的

緊急性を要する症状

  • 激痛:ヘルニア嵌頓や感染症の急性期
  • 発赤・熱感:急性感染症の兆候
  • 全身症状:発熱、体重減少、夜間盗汗
  • 腸閉塞症状:嘔吐、腹部膨満、排便・排ガス停止

セルフチェックのポイント

観察項目

  1. 大きさ:直径を測定し、経時的変化を記録
  2. 硬さ:指で押したときの感触
  3. 可動性:皮膚の上を滑るように動くか
  4. 痛み:自発痛、圧痛の有無
  5. 皮膚の変化:発赤、熱感、色素沈着
  6. 体位による変化:立位・仰臥位での大きさの変化

記録の重要性

症状の変化を正確に把握するため、以下の項目を記録することをお勧めします:

  • 発見日時
  • 大きさの変化
  • 症状の変化
  • 関連する症状(発熱、痛みなど)
  • 誘因となりうる出来事(外傷、感染など)

診断方法

足の付け根のしこりの診断には、問診、身体診察、必要に応じて画像検査や病理検査が行われます。

問診

現病歴の聴取

  • 発症時期:いつ頃から気づいたか
  • 経過:大きさや症状の変化
  • 誘因:外傷、感染、運動などの関連因子
  • 随伴症状:痛み、発熱、体重減少など
  • 既往歴:過去の同様の症状、手術歴
  • 家族歴:悪性腫瘍やヘルニアの家族歴

生活歴・職業歴

  • 重労働の有無
  • 慢性的な咳の原因
  • 便秘の有無
  • 妊娠・出産歴(女性)

身体診察

視診

  • 皮膚の色調変化
  • 腫瘤の形状
  • 表面の性状
  • 体位による変化

触診

  • 大きさ:最大径の測定
  • 硬度:軟、弾性軟、弾性硬、硬
  • 可動性:皮膚、筋膜、深部組織との関係
  • 境界:明瞭、不明瞭
  • 圧痛:有無と程度
  • 波動感:液体貯留の有無
  • 拍動:血管性病変の鑑別

特殊検査

  • Valsalva試験:息こらえによりヘルニアが膨隆するか確認
  • 咳嗽試験:咳により腫瘤が変化するか観察
  • 体位変換試験:立位・仰臥位での変化を確認

画像検査

超音波検査(エコー)

第一選択の画像検査

  • 非侵襲的で繰り返し施行可能
  • リアルタイム観察により体位変換時の変化を確認
  • 血流評価がドプラ機能により可能
  • コスト効果が高い

診断可能な疾患

  • リンパ節腫大の性状評価
  • 脂肪腫、粉瘤の診断
  • ヘルニアの確認
  • 静脈瘤の評価
  • 膿瘍の診断

CT検査(コンピュータ断層撮影)

詳細な解剖学的情報が必要な場合

  • 深部組織との関係が明確
  • 造影効果により血管性病変や悪性腫瘍の鑑別に有用
  • 全身検索が同時に可能

適応

  • 悪性腫瘍が疑われる場合
  • 深部の病変が疑われる場合
  • 他の画像検査で診断困難な場合

MRI検査(磁気共鳴画像)

軟部組織のコントラストに優れる

  • 軟部組織腫瘍の詳細な評価
  • 神経・血管との関係が明確
  • 造影剤使用により血流評価が可能

適応

  • 軟部組織腫瘍の術前評価
  • 神経鞘腫など神経原性腫瘍の診断
  • 悪性腫瘍の広がりの評価

病理検査

細胞診(穿刺吸引細胞診:FNA)

低侵襲な検査方法

  • 外来で施行可能
  • 迅速診断が可能
  • リンパ節腫大の良悪性鑑別に有用

限界

  • 組織構築の評価ができない
  • 一部の腫瘍では診断困難
  • 検体不適正の可能性

組織生検

確定診断のためのゴールドスタンダード

  • 針生検:局所麻酔下で施行可能
  • 切開生検:一部を切除して診断
  • 摘出生検:腫瘤全体を摘出して診断

適応

  • 悪性腫瘍が強く疑われる場合
  • 細胞診で診断困難な場合
  • 治療方針決定に組織診断が必要な場合

血液検査

一般検査

  • 白血球数:感染症やリンパ増殖性疾患の評価
  • CRP:炎症反応の評価
  • LDH:リンパ腫のスクリーニング

特殊検査

  • 腫瘍マーカー:原発巣不明の転移性腫瘍の検索
  • 感染症検査:特殊な感染症の除外
  • 自己免疫疾患検査:膠原病などの除外

治療法

足の付け根のしこりの治療は、その原因によって大きく異なります。ここでは主要な疾患別の治療法について詳しく解説します。

リンパ節腫大の治療

反応性リンパ節腫大

原因治療が基本

  • 感染症治療:抗生物質、抗ウイルス薬の投与
  • 経過観察:感染治癒後のリンパ節縮小を確認
  • 対症療法:痛みに対する鎮痛薬の使用

経過

  • 通常2-6週間で縮小開始
  • 完全な正常化には数ヶ月を要することもある
  • 6週間以上縮小傾向がない場合は再評価が必要

悪性リンパ腫

血液内科での専門治療

  • 病期診断:CTやPET-CTによる全身検索
  • 化学療法:ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫それぞれに応じたレジメン
  • 放射線療法:局所病変に対する追加治療
  • 造血幹細胞移植:難治例や再発例に対する治療選択肢

転移性リンパ節腫大

原発巣の治療が重要

  • 原発巣の検索:全身検索により原発巣を特定
  • 集学的治療:手術、化学療法、放射線療法の組み合わせ
  • 緩和医療:症状軽減を目的とした治療

鼠径ヘルニアの治療

手術適応

基本的に全例が手術適応

  • 待機手術:症状が軽微で嵌頓リスクが低い場合
  • 緊急手術:嵌頓や絞扼を起こしている場合

手術方法

従来法(組織修復法)

  • Bassini法:古典的な修復法
  • McVay法:大腿ヘルニアにも対応可能
  • Shouldice法:長期成績が良好

メッシュ法

  • Lichtenstein法:最も一般的な方法
  • Plug法:小さなヘルニア門に適用
  • PHS法:複雑なヘルニアに適用

腹腔鏡手術

  • TEP法:完全腹膜外修復法
  • TAPP法:腹膜前腔アプローチ
  • 利点:両側同時手術、整容性、術後疼痛軽減
  • 適応:両側ヘルニア、再発ヘルニア

術後管理

  • 早期離床:術後数時間から歩行可能
  • 活動制限:重量物挙上制限(術後1-2週間)
  • 合併症監視:血腫、感染、慢性疼痛

脂肪腫の治療

治療適応

  • 症状を有する場合:疼痛、圧迫症状
  • 美容的問題:患者の希望
  • 診断確定:悪性との鑑別が必要

手術方法

摘出術

  • 局所麻酔下:外来日帰り手術が可能
  • 完全摘出:被膜ごと完全に摘出
  • 低侵襲手術:小切開からの摘出

脂肪吸引

  • 小さな脂肪腫に適応
  • 整容性に優れる
  • 再発リスクがやや高い

術後経過

  • 日常生活:翌日から可能
  • 運動制限:1-2週間程度
  • 再発:完全摘出されれば再発はまれ

粉瘤(アテローム)の治療

非感染時の治療

根治的摘出術

  • 外来手術:局所麻酔下で施行
  • 完全摘出:嚢胞壁を破らずに摘出
  • 小切開法:整容性を重視した術式

感染時の治療

段階的アプローチ

  1. 急性期治療
    • 抗生物質投与
    • 切開排膿
    • 洗浄・ドレナージ
  2. 待機期間
    • 炎症の完全な鎮静化を待つ
    • 通常3-6ヶ月程度
  3. 根治手術
    • 瘢痕組織を含めた完全摘出
    • 再発防止のための十分な切除

静脈瘤の治療

保存的治療

  • 弾性ストッキング:圧迫療法
  • 薬物療法:循環改善薬
  • 生活指導:長時間立位の回避

手術治療

適応

  • 症状が強い場合
  • 美容的問題
  • 合併症(血栓、出血など)

術式

  • 高位結紮術:サフェナファシア接合部の結紮
  • ストリッピング手術:静脈の抜去術
  • 血管内レーザー治療:低侵襲治療
  • 硬化療法:薬剤注入による閉塞

感染症の治療

蜂窩織炎

抗生物質治療

  • 軽症例:経口抗生物質
  • 重症例:点滴抗生物質
  • MRSA感染:バンコマイシンなど

膿瘍

外科的治療

  • 切開排膿:膿の排出
  • 洗浄:感染巣の清拭
  • ドレナージ:持続的排液

予防と日常生活での注意点

足の付け根のしこりを予防し、早期発見するための日常生活での注意点について解説します。

衛生管理

皮膚の清潔保持

  • 毎日の入浴:皮膚の清潔を保つ
  • 適切な洗浄:強く擦りすぎない
  • 乾燥:特に皮膚のしわ部分をよく乾燥させる

外傷の予防と処置

  • 適切な靴の着用:足の外傷を防ぐ
  • 外傷時の処置:傷口の清潔・消毒
  • 早期治療:小さな傷でも適切に処置

生活習慣の改善

ヘルニア予防

  • 重量物の適切な取り扱い:腰を落として持ち上げる
  • 慢性咳嗽の治療:原因疾患の治療
  • 便秘の解消:食事・運動・薬物療法
  • 適正体重の維持:腹圧上昇の予防

静脈瘤予防

  • 長時間の立位回避:こまめな休憩
  • 弾性ストッキング:予防的着用
  • 下肢の挙上:就寝時の足の挙上
  • 適度な運動:ふくらはぎの筋ポンプ作用の活用

セルフチェックの実施

定期的な自己観察

  • 月1回程度の触診
  • 入浴時の観察
  • 変化の記録:大きさ、硬さの変化
  • 写真記録:客観的な変化の把握

異常時の対応

  • 早期受診:変化を認めた場合
  • 症状の記録:医師への正確な情報提供
  • 経過観察:医師の指示に従った観察

免疫力の維持

生活習慣の最適化

  • 十分な睡眠:免疫機能の維持
  • バランスの取れた食事:栄養状態の改善
  • 適度な運動:全身の健康維持
  • ストレス管理:心身の健康保持

予防接種

  • 定期接種:スケジュール通りの接種
  • 任意接種:医師と相談の上で検討

医療機関受診のタイミング

足の付け根にしこりを発見した際、どのようなタイミングで医療機関を受診すべきかについて解説します。

緊急受診が必要な症状

直ちに救急外来受診

  • 激痛を伴うしこり:ヘルニア嵌頓の可能性
  • 急速な腫大と発赤:急性感染症の可能性
  • 全身症状:高熱、意識障害、ショック症状
  • 腸閉塞症状:嘔吐、腹部膨満、排便停止

早期受診が望ましい症状

数日以内の受診

  • 痛みを伴うしこり:感染症の可能性
  • 急に出現したしこり:様々な原因の可能性
  • 発熱を伴う場合:感染症のリスク
  • 皮膚の変化:発赤、熱感、色素沈着

計画的受診で良い症状

1-2週間以内の受診

  • 無痛性のしこり:良性疾患の可能性が高い
  • 緩徐に増大するしこり:急激な変化がない場合
  • 以前からあるしこり:変化がない場合

経過観察でも良い場合

条件付きで様子をみても良い

  • 小さな柔らかいしこり:脂肪腫の可能性
  • 体位で変化するしこり:ヘルニアや静脈瘤の可能性
  • 風邪の後のしこり:反応性リンパ節腫大の可能性

ただし以下の場合は受診を検討

  • 2週間以上変化がない
  • 徐々に大きくなっている
  • 新たな症状が出現した

受診時の準備

症状の整理

  • 発症時期:いつから気づいたか
  • 変化の経過:大きさや症状の変化
  • 関連症状:痛み、発熱、その他の症状
  • 誘因:外傷、感染、運動など

既往歴・内服薬の確認

  • 過去の病気:特に悪性腫瘍、免疫疾患
  • 手術歴:特に鼠径部の手術
  • 内服薬:免疫抑制薬、抗凝固薬など
  • アレルギー:薬剤、造影剤アレルギー

各年齢層での注意点

年齢により発症しやすいしこりの種類や注意すべき点が異なります。

小児・思春期(0-18歳)

特徴的な疾患

  • 反応性リンパ節腫大:最も頻度が高い
  • 鼠径ヘルニア:先天性のものが多い
  • 感染症:学校などでの感染機会が多い

注意点

  • 成長期の変化:正常な発育過程での変化もある
  • 外傷の機会:活発な活動による外傷
  • 家族の観察:本人が症状を訴えられない場合

成人(19-64歳)

男性の特徴

  • 鼠径ヘルニア:外鼠径ヘルニアが多い
  • 職業性要因:重労働による発症リスク
  • 悪性腫瘍:精巣腫瘍の転移など

女性の特徴

  • 妊娠・出産:ヘルニア発症のリスクファクター
  • 婦人科疾患:転移性リンパ節腫大の可能性
  • 美容的関心:脂肪腫や粉瘤への関心が高い

高齢者(65歳以上)

特徴的な疾患

  • 悪性腫瘍:原発性・転移性ともに頻度が増加
  • 内鼠径ヘルニア:中高年男性に多い
  • 大腿ヘルニア:高齢女性に多く、嵌頓リスクが高い

注意点

  • 併存疾患:糖尿病、心疾患などの影響
  • 免疫力低下:感染症のリスク増加
  • 手術リスク:全身状態の評価が重要

最新の治療技術と展望

足の付け根のしこりに対する診断・治療技術は日々進歩しています。

診断技術の進歩

画像診断の進歩

  • 高解像度超音波:より詳細な組織性状の評価
  • 造影超音波:血流評価の精度向上
  • 拡散強調MRI:悪性腫瘍の検出精度向上
  • PET-CT:全身検索の精度向上

分子診断の発展

  • 遺伝子解析:リンパ腫の詳細分類
  • 免疫組織化学:腫瘍の起源同定
  • 液体生検:血液による腫瘍診断

治療技術の進歩

低侵襲手術

  • 内視鏡手術:美容性と機能性の両立
  • ロボット支援手術:精密な手術操作
  • 日帰り手術:患者負担の軽減

薬物療法の進歩

  • 分子標的治療:悪性腫瘍に対する個別化治療
  • 免疫チェックポイント阻害薬:新たな治療選択肢
  • 抗血管新生薬:腫瘍の血管を標的とした治療

再生医療の応用

  • 幹細胞治療:組織修復の促進
  • 組織工学:人工材料と生体材料の融合
  • 成長因子治療:創傷治癒の促進

心理的サポートとQOL向上

足の付け根のしこりの発見は、患者さんにとって大きな不安要因となります。

不安への対処

情報提供の重要性

  • 正確な診断説明:病気への理解促進
  • 治療選択肢の提示:患者の自己決定支援
  • 予後の説明:現実的な見通しの共有

カウンセリングの活用

  • 専門カウンセラー:心理的サポートの提供
  • 患者会:同じ経験を持つ患者との交流
  • 家族支援:家族への説明と支援

QOL(生活の質)の維持・向上

身体的QOL

  • 症状管理:痛みや不快感の軽減
  • 機能維持:日常生活動作の保持
  • 美容的配慮:整容性の重視

精神的・社会的QOL

  • 就労支援:仕事への復帰支援
  • 家族関係:良好な関係の維持
  • 趣味・娯楽:生きがいの維持

まとめ

足の付け根のしこりは、多くの場合良性の疾患によるものですが、中には適切な治療が必要なものや、まれに悪性のものも存在します。重要なのは、しこりの特徴を正しく観察し、適切なタイミングで医療機関を受診することです。

重要なポイント

  1. 早期発見:定期的なセルフチェックにより早期発見を心がける
  2. 適切な評価:専門医による正確な診断を受ける
  3. 個別化治療:患者さんの状態に応じた最適な治療選択
  4. 継続的フォロー:治療後も定期的な経過観察を行う
  5. 予防意識:日常生活での予防を心がける

受診の判断

以下のような症状がある場合は、躊躇せず医療機関を受診してください:

  • 急速に大きくなるしこり
  • 痛みを伴うしこり
  • 硬くて動かないしこり
  • 皮膚の変化を伴うしこり
  • 全身症状を伴う場合

最後に

足の付け根のしこりについて不安を感じている方は、一人で悩まず、まずは医療機関での相談をお勧めします。適切な診断と治療により、多くの場合で良好な経過が期待できます。

当院では、足の付け根のしこりに関する診療を行っております。気になる症状がございましたら、お気軽にご相談ください。経験豊富な専門医が、患者さん一人ひとりの状態に応じた最適な診療を提供いたします。


参考文献

  1. 日本外科学会:外科学会雑誌「鼠径ヘルニア診療ガイドライン」 https://www.jssoc.or.jp/
  2. 日本皮膚科学会:皮膚科診療ガイドライン「皮膚腫瘍診療指針」 https://www.dermatol.or.jp/
  3. 日本血液学会:造血器腫瘍診療ガイドライン「リンパ腫診療指針」 https://www.jshem.or.jp/
  4. 厚生労働省:がん情報サービス「リンパ節の腫れについて」 https://www.mhlw.go.jp/
  5. 日本癌学会:癌診療ガイドライン「軟部腫瘍診療指針」 https://www.jca.gr.jp/
  6. 日本形成外科学会:形成外科診療ガイドライン「良性腫瘍治療指針」 https://www.jsprs.or.jp/
  7. 日本感染症学会:感染症診療ガイドライン「皮膚軟部組織感染症」 https://www.kansensho.or.jp/
  8. 日本脈管学会:下肢静脈瘤診療ガイドライン https://www.jcvs.org/

監修者医師

高桑 康太 医師

略歴

  • 2009年 東京大学医学部医学科卒業
  • 2009年 東京逓信病院勤務
  • 2012年 東京警察病院勤務
  • 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
  • 2019年 当院治療責任者就任

佐藤 昌樹 医師

保有資格

日本整形外科学会整形外科専門医

略歴

  • 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
  • 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
  • 2012年 東京逓信病院勤務
  • 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
  • 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務
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