ニキビが治った後に残る赤み、色素沈着、凹凸などの「ニキビ跡」に悩んでいる方は少なくありません。日本皮膚科学会のガイドラインによると、ニキビは日本人の約90%以上が経験する身近な皮膚疾患であり、患者さんの約9割がニキビ跡で悩んでいるという調査結果もあります。かつては「青春のシンボル」として軽視されがちだったニキビですが、適切な治療を行わないと跡が残り、長期にわたってQOL(生活の質)を低下させる原因となることがわかっています。本記事では、ニキビ跡を消すための基礎知識から、セルフケア、医療機関での治療法まで、専門医の知見をもとに詳しく解説します。ニキビ跡にお悩みの方が、ご自身に合った適切なケアや治療法を見つける参考になれば幸いです。

目次
- ニキビ跡とは何か
- ニキビ跡の種類と特徴
- ニキビ跡ができる原因とメカニズム
- セルフケアでできるニキビ跡対策
- 医療機関でのニキビ跡治療
- ニキビ跡を予防するためのポイント
- 治療を受ける際の注意点
- よくある質問
- 参考文献
1. ニキビ跡とは何か
ニキビ跡の定義
ニキビ跡とは、ニキビの炎症が治まった後に皮膚に残る変化の総称です。医学的には「痤瘡瘢痕(ざそうはんこん)」や「炎症後紅斑」「炎症後色素沈着」などと呼ばれます。ニキビは正式には「尋常性痤瘡(じんじょうせいざそう)」という皮膚疾患であり、思春期以降に発症する顔面、胸背部の毛包脂腺系を場とする慢性炎症性疾患と定義されています。
ニキビの炎症が軽度であれば、時間の経過とともに自然に消退することが多いですが、炎症が強かったり長引いたりした場合は、跡として残りやすくなります。特に赤ニキビや黄ニキビといった炎症を伴うニキビを放置したり、自己流で潰したりすると、真皮層にまでダメージが及び、クレーター状の凹みや色素沈着として残ってしまうことがあります。
ニキビ跡が日常生活に与える影響
ニキビ跡は単なる美容上の問題ではなく、患者さんの日常生活や心理面に大きな影響を与えることがわかっています。鏡を見るたびに落ち込んだり、外出時に他人の視線が気になったり、「きちんとケアしていない」と思われているのではないかと不安になったりする方も少なくありません。中高生ではいじめの原因になることもあり、重症例では社会活動に支障をきたす場合もあります。
このように、ニキビ跡は身体的な症状だけでなく、精神的なQOL低下の原因ともなるため、「たかがニキビ跡」と軽視せず、適切なケアや治療を検討することが大切です。
2. ニキビ跡の種類と特徴
ニキビ跡は、その症状によって大きく以下の4種類に分類されます。それぞれの特徴を理解することで、自分に合った適切なケアや治療法を選択しやすくなります。
赤みタイプ(炎症後紅斑)
赤みのあるニキビ跡は、ニキビの炎症が治まり肌が平らになっても赤みが残っている状態を指します。これは「炎症後紅斑」と呼ばれ、炎症後の血管の拡張や、皮膚が薄くなったことで皮膚下の毛細血管が透けて見えることが原因です。
通常、軽度の赤みは数週間から数か月で自然に消退していきますが、炎症が強かった場合や体質によっては、半年から1年以上赤みが持続することもあります。ニキビの腫れが治まってから半年程度経過しても赤みが消えない場合は、すでにニキビ跡として定着していると考えたほうがよいでしょう。
色素沈着タイプ(炎症後色素沈着)
色素沈着タイプのニキビ跡は、ニキビの炎症によってメラノサイト(色素細胞)が活性化し、メラニン色素が過剰に生成されることで生じます。茶褐色、灰褐色、黒色、または紫褐色の斑点がシミのように残る状態です。
炎症が長引くと、肌を守ろうとしてメラニンが大量に作られ、肌がくすんだり茶色いシミのようになったりします。これは紫外線から肌を守ろうとする反応と同様のメカニズムです。色素沈着は肌のターンオーバーとともに数か月から半年程度で自然に改善することも多いですが、紫外線を浴び続けると悪化することがあるため注意が必要です。
クレータータイプ(萎縮性瘢痕・陥凹性瘢痕)
クレータータイプのニキビ跡は、肌の一部が陥没し、深い凹みや小さな穴が残ってしまった状態です。これは重症化したニキビの炎症が真皮層にまで及び、コラーゲン線維が破壊されたことが原因です。炎症が長期間持続すると、炎症を抑えようとして活動する白血球が周囲の健康な組織まで攻撃してしまい、真皮層の組織が損傷されます。
真皮層のターンオーバーは表皮層に比べて非常に遅く、3〜5年かかるとされています。そのため、修復された部分とされなかった部分に差が生じ、肌が凸凹になってクレーター状のニキビ跡ができてしまいます。クレータータイプは自然治癒が難しく、一度できてしまうと一生残る場合もあるため、専門的な治療が必要となることが多いです。
クレータータイプはさらに形状によって細分化されます。アイスピック型は直径2mm以下と小さいながらも先細り状に深く凹んだタイプで、最も治療が困難とされています。ローリング型は皮下組織との線維性組織による牽引で生じるなだらかな凹みです。ボックスカー型は境界が明瞭で広い範囲に及ぶ陥凹が特徴です。
しこり・ケロイドタイプ(肥厚性瘢痕・ケロイド)
しこりタイプのニキビ跡は、ニキビの炎症部分にしこりが残ってしまった状態です。炎症によってコラーゲンが過剰に作られることが原因で、肌が盛り上がったように見えます。
さらに悪化するとケロイドとなり、ミミズ腫れのように肌に広がることがあります。同じ場所に何度もニキビができてしまい、徐々にニキビ跡が大きくなってしまうケースもあります。顎の下やフェイスラインにできやすいのが特徴で、自然に治ることはほとんどなく、クリニックでの治療が推奨されます。悪化すると1年以上の治療期間が必要になることもあるため、早めの受診が大切です。
3. ニキビ跡ができる原因とメカニズム
ニキビの進行と炎症のメカニズム
ニキビ跡ができる根本的な原因を理解するためには、まずニキビがどのように進行するかを知る必要があります。ニキビは毛穴のつまり(コメド)から始まります。男性ホルモン(アンドロゲン)の作用により皮脂分泌が亢進し、毛包漏斗部の角化亢進によって皮脂が毛穴に貯留した状態がコメドです。
コメド内でアクネ菌(Cutibacterium acnes)が増殖し、炎症誘発物質を産生することで紅色丘疹や膿疱(炎症性皮疹)を生じます。さらに重症化すると嚢腫や硬結となります。この過程で毛包組織が破壊され、周囲の真皮組織に炎症が波及すると、組織の欠損や修復過程による過剰な結合組織の産生も加わり、瘢痕を生じることがあります。
ニキビ跡ができやすい要因
ニキビ跡ができるかどうかは、いくつかの要因によって左右されます。まず体質が挙げられます。同じ程度のニキビでも、瘢痕が残りやすい人と残りにくい人がいます。これは肌の回復力や炎症反応の強さなど、遺伝的な要因が関係しています。
次に、ニキビの重症度が重要な要因となります。炎症が強いほど、また嚢腫や硬結といった重症のニキビほど、跡が残りやすくなります。軽症の症状でも瘢痕を残しうることがわかっていますが、重症化するほどリスクは高まります。
さらに、ニキビを罹患していた期間の長さも影響します。炎症が長引くほど組織へのダメージが蓄積され、跡として残りやすくなります。早期に適切な治療を受けることで、ニキビ跡のリスクを軽減できることが示唆されています。
また、不適切なケアも大きな要因です。ニキビを自分で潰したり、過度に触ったりすることで、炎症を悪化させたり細菌感染を広げたりして、跡が残りやすくなります。
紫外線の影響
紫外線はニキビ跡を悪化させる大きな要因の一つです。紫外線はメラニン色素の生成を促進し、ニキビ跡の色素沈着を悪化させる主な原因となります。また、ニキビ自体の炎症を悪化させることで、新たなニキビ跡を作るリスクも高めます。そのため、ニキビやニキビ跡がある方は、季節を問わず日焼け止めを使用し、夏は日傘や帽子を活用するなど、紫外線対策を徹底することが大切です。
4. セルフケアでできるニキビ跡対策
ニキビ跡の種類によっては、適切なセルフケアで改善が期待できるものもあります。ただし、クレーターやケロイドなど重度のニキビ跡は自力での改善は難しいため、専門医への相談が推奨されます。
ターンオーバーを整える
赤みや色素沈着タイプのニキビ跡は、肌のターンオーバー(新陳代謝)を整えることで改善が期待できます。健康な肌は約28日周期で生まれ変わりますが、年齢とともにこの周期が乱れると、古い角質が肌に残り、ニキビ跡の改善も遅くなります。
ターンオーバーを正常に保つためには、バランスの良い食事、質の良い睡眠、適度な運動といった基本的な生活習慣が重要です。特にビタミンB群は皮膚の新陳代謝を促す働きがあり、ビタミンCやビタミンEは抗酸化作用があり肌のダメージを防ぐために重要な栄養素です。食事から十分に摂取できない場合は、サプリメントの活用も検討できます。
適切なスキンケア
ニキビ跡のケアには適切なスキンケアが欠かせません。まず保湿が重要です。肌の乾燥は肌のバリア機能を低下させ、外部刺激に対する抵抗力を弱めます。ニキビの炎症によりすでにダメージを受けている肌は、特に保湿ケアが大切です。化粧水を使用し、乳液やゲルで油分を適度に補いましょう。油分をまったく使用しないと肌から水分が逃げてバリア機能が低下するため、適度な油分補給も必要です。
洗顔は、ニキビ跡に刺激を与えないよう、優しく行うことが大切です。ゴシゴシこすったり、1日に何度も洗顔したりすることは避けましょう。また、洗顔料は肌に優しい成分のものを選び、しっかりすすぎ残しがないようにします。
市販薬・化粧品の活用
ドラッグストアなどで購入できる市販薬やスキンケア化粧品も、軽度のニキビ跡には有効な場合があります。ビタミンC誘導体配合の化粧品は、メラニンの生成を抑制し色素沈着の改善に役立つ可能性があります。また、ナイアシンアミドやトラネキサム酸なども美白成分として知られています。
ただし、市販のピーリング製品は安全性を考慮して濃度が低く設定されているため、クリニックでの治療と比べると効果は限定的です。例えば、皮膚科では濃度20〜30%のグリコール酸を使用するのに対し、市販品は2.5〜7.5%程度が一般的です。セルフケアで改善が見られない場合は、早めに専門医に相談することをおすすめします。
紫外線対策の徹底
前述のとおり、紫外線はニキビ跡を悪化させる大きな要因です。日焼け止めは毎日欠かさず使用し、SPF・PA値は日常使いならSPF30・PA+++程度、屋外でのレジャー時はSPF50・PA++++程度を目安に選びましょう。また、2〜3時間おきに塗り直すことで効果を維持できます。日傘、帽子、サングラスなども併用し、紫外線から肌を守りましょう。
セルフケアの限界
赤みや色素沈着といった比較的軽度のニキビ跡は、適切なセルフケアを数か月から半年程度継続することで改善が期待できます。しかし、クレーターやケロイドといった真皮層にまでダメージが及んでいる重度のニキビ跡は、セルフケアだけでの改善はほぼ期待できません。数か月セルフケアを続けても改善が見られない場合は、皮膚科専門医への相談を検討しましょう。
5. 医療機関でのニキビ跡治療
ニキビ跡の治療には、その種類や重症度に応じてさまざまな選択肢があります。ここでは、皮膚科や美容皮膚科で行われる代表的な治療法について解説します。
保険診療と自由診療
ニキビ自体の治療は保険適用で受けられますが、ニキビ跡の治療は自由診療(保険適用外)となることがほとんどです。保険適用のニキビ治療としては、アダパレン(ディフェリン)、過酸化ベンゾイル(ベピオ)、これらの配合剤、外用抗菌薬などが使用されます。これらの薬剤は今あるニキビを治療するだけでなく、新しいニキビの予防にも効果があります。
一方、すでにできてしまったニキビ跡の治療には、レーザー、ケミカルピーリング、ダーマペンなど、多くは自由診療の治療が必要となります。費用は治療法やクリニックによって異なりますが、継続的な治療が必要な場合は総額が高くなることもあります。治療前に費用や治療期間について十分に説明を受けましょう。
ケミカルピーリング
ケミカルピーリングは、グリコール酸、サリチル酸、乳酸などの薬剤を肌に塗布し、古い角質を剥がして肌のターンオーバーを促す治療法です。毛穴の引き締めやニキビの改善、ニキビ跡の赤みや色素沈着の改善に効果が期待できます。
特に色素沈着タイプのニキビ跡には効果的で、古い角質を剥がすと同時に、色素沈着により色味のついた角質も除去されるため、肌のトーンが明るくなります。ただし、クレーター状のニキビ跡など真皮層にまでダメージが及んでいる場合は、ケミカルピーリング単独での改善は難しいことがあります。
施術は2週間から4週間に1回のペースで行い、ニキビ跡の治療には5回以上、症状によっては10回程度の施術が必要とされています。イオン導入やダーマペンとの併用で相乗効果が期待できます。
ダーマペン
ダーマペンは、髪の毛よりも細い極細の針で肌に微細な穴を開け、皮膚の自然治癒力を利用してコラーゲンの生成を促進する治療法です。肌に傷をつくることで創傷治癒反応を引き起こし、コラーゲンやエラスチンが大量に生成されることで、ニキビ跡の改善が期待できます。
ダーマペンは赤みや色素沈着だけでなく、クレータータイプのニキビ跡にも効果を発揮します。ケミカルピーリングでは改善が難しい深いクレーターにも対応可能で、肌を内側から持ち上げる力を回復させます。最新型のダーマペン4は従来型よりも安全で効果的な治療が可能となっています。
治療回数はニキビ跡の重症度によって異なりますが、凹凸が深い場合は5回以上の治療が必要となることが多いです。治療直後は肌が赤くなったり、内出血や熱感が現れたりすることがありますが、数日で落ち着きます。
ダーマペンとケミカルピーリングを組み合わせた「ヴェルベットスキン」という治療法も人気があります。ダーマペンで開けた微細な穴にコラーゲンピールの薬剤を浸透させることで、より高い効果が期待できます。
レーザー治療
ニキビ跡の治療にはさまざまなレーザーが使用されます。ニキビ跡の種類によって適したレーザーが異なるため、専門医の診断を受けて適切な治療法を選択することが重要です。
赤みタイプのニキビ跡には、Vビームなどの血管治療用レーザーやIPL(光治療)が用いられます。赤みの原因である毛細血管をターゲットにするため、ニキビ跡による赤みが目立つ場合に効果が期待できます。
色素沈着タイプには、ジェントルマックスプロやピコレーザーなどが使用されます。メラニンを破壊して色素沈着を改善します。特にピコレーザーは非常に短い時間でレーザーを照射するため、周囲の皮膚へのダメージが少なく、メラニンを細かく破壊できます。
クレータータイプには、フラクショナルレーザー(炭酸ガスフラクショナルレーザー、ピコフラクショナルレーザーなど)が有効です。点状にレーザーを照射することで真皮層内のコラーゲン生成を促し、肌の凹凸を改善します。また、炭酸ガスレーザーを用いて凹みの縁を削り、なだらかにする治療法もあります。
サブシジョン
サブシジョンは、クレータータイプ(特にローリング型)のニキビ跡に効果的な治療法です。クレーターのニキビ跡は、皮膚の下に固くなった線維組織があり、皮膚の深いところと癒着しているために凹みが目立っています。サブシジョンでは、専用の針を使ってこの線維組織を物理的に切断し、凹んだ部分を上に持ち上げます。
皮膚組織の癒着がなくなることで、ニキビ跡による凹みをふっくらさせることができます。サブシジョン単独でも効果はありますが、ヒアルロン酸を注入したり、炭酸ガスレーザーと組み合わせたりすることで、さらに高い効果が期待できます。
ポテンツァ
ポテンツァは、ダーマペンの進化版とも呼ばれる治療機器です。極細の針で肌に穴を開けるだけでなく、針の先端から高周波(RF)を照射することで、表皮を傷つけることなく真皮層に直接熱エネルギーを与えます。これによりコラーゲンやエラスチンをより大量に生成させ、ニキビ跡を改善します。
また、高周波には出血を抑える働きがあり、ダーマペンに比べてダウンタイムが短いのも特徴です。さらに、ドラッグデリバリー機能により、マックームやジュベルックといった薬剤を真皮層に均一に導入することが可能で、より高い効果が期待できます。
再生医療(PRP治療など)
PRP(多血小板血漿)治療は、自身の血液から成長因子を含む成分を抽出し、肌に注入する再生医療です。肌の内側から細胞を活性化させるため、ケミカルピーリングでは改善が難しいクレーターのニキビ跡も目立たない状態に回復させることができます。肌の再生力を高める治療法なので、効果が長く持続しやすく、しわやたるみ、毛穴の開きなどの改善も期待できます。
PRPとダーマペンを組み合わせた「ヴァンパイアフェイシャル」なども人気があります。
ケロイド・肥厚性瘢痕の治療
盛り上がったタイプのニキビ跡(ケロイド・肥厚性瘢痕)には、特別な治療アプローチが必要です。日本皮膚科学会のガイドラインでは、ステロイドの局所注射、トラニラスト(リザベン)の内服、ステロイド塗布・貼付などが治療選択肢として挙げられています。
ステロイド局所注射(ケナコルト注射)は、ケロイドや肥厚性瘢痕の組織を縮小させる効果があります。また、ボトックス注射も有効な治療法として注目されています。ボトックスはケナコルトに比べて痛みが少なく、顔のニキビ跡には特に適しています。
難治性の場合は手術による切除が検討されることもありますが、ケロイド体質の方は切除しても再発しやすいため、術後のケアが重要です。
外用薬による治療
軽度の赤みや色素沈着には、外用薬での治療も行われます。色素沈着にはトレチノインやハイドロキノンなどの外用剤が使用されます。トレチノインはターンオーバーを促進し、ハイドロキノンはメラニンの生成を抑制します。
また、炎症後紅斑には、ビタミンC外用が効果的とされています。ビタミンC誘導体配合の外用薬は、美白効果とともに抗酸化作用も期待できます。
ヘパリン類似物質(ヒルドイド)も、ニキビ跡のケアに使用されることがあります。保湿作用のほかに患部の血流を改善し、引き吊った傷跡を柔らかくする効果が期待できます。
内服薬による治療
ニキビ跡の治療に用いられる内服薬としては、ビタミンC(シナール)、トラネキサム酸、ビタミンB群などがあります。ビタミンCは色素沈着の改善に効果があり、チロシナーゼ阻害や活性酸素抑制作用によって効果を発揮します。また、漢方薬が処方されることもあります。
6. ニキビ跡を予防するためのポイント
ニキビ跡を消すことも大切ですが、そもそもニキビ跡を作らないことが最も重要です。ニキビ跡予防のポイントについて解説します。
早期治療の重要性
ニキビ跡を予防するためには、ニキビの早期治療が最も効果的です。日本皮膚科学会のガイドラインでは、軽症の症状でも瘢痕を残しうることが指摘されており、早期の治療によって瘢痕が予防できることが示唆されています。
統計的にも、瘢痕のないニキビ患者さんは早めに医療機関を受診している傾向があることがわかっています。「たかがニキビ」と放置せず、ニキビができたら早めに皮膚科を受診し、適切な治療を受けることがニキビ跡予防の第一歩です。
ニキビを潰さない
ニキビを自分で潰すことは、ニキビ跡を作る大きな原因となります。無理に潰すことで炎症が悪化したり、細菌感染が広がったりして、より深刻なニキビ跡が残るリスクが高まります。また、不適切な方法で潰すと周囲の健康な皮膚組織まで傷つけてしまうことがあります。
どうしても膿を出したい場合は、皮膚科で「面皰圧出」という処置を受けることができます。専用の器具を使って清潔な環境で行うため、自分で潰すよりも安全です。
コメド治療の継続
ニキビの始まりは毛穴のつまり(コメド)です。コメドは「白ニキビ」「黒ニキビ」とも呼ばれ、触ると肌がざらざらした感じがします。コメドを放置すると炎症を起こした「赤ニキビ」、化膿した「黄ニキビ」へと悪化し、ニキビ跡になるリスクが高まります。
日本皮膚科学会のガイドラインでも、コメド治療を続けることが強く推奨されています。今あるニキビが治った後も、コメド治療薬(アダパレン、過酸化ベンゾイルなど)を塗り続けることで、新しいニキビができにくい肌を目指せます。皮膚科医の考える治療のゴールは、ニキビを消すことだけでなく「ニキビができにくい肌」にすることです。
生活習慣の見直し
ニキビやニキビ跡の予防には、日々の生活習慣も重要です。睡眠不足やストレス、偏った食生活はホルモンバランスを乱し、ニキビができやすい状態を作ります。十分な睡眠をとり、バランスの良い食事を心がけ、適度にストレスを発散することが大切です。
また、枕カバーやタオルは清潔なものを使用し、顔を触る癖がある方は意識して控えるようにしましょう。化粧品は肌に合ったものを選び、メイクはしっかり落とすことも重要です。
7. 治療を受ける際の注意点
治療期間と回数について
ニキビ跡の治療は、一回で完了することはほとんどありません。効果を実感するためには最短でも3か月程度は必要とされており、症状によっては半年から1年以上かかることもあります。
例えば、ケミカルピーリングは2週間おきの施術を5〜10回程度、ダーマペンも複数回の治療が必要です。重度のクレーターやケロイドの治療では、さまざまな治療法を組み合わせることもあり、より長期間の治療が必要になる場合があります。治療を始める前に、どの程度の期間と回数が必要になるか、医師と十分に相談しておきましょう。
ダウンタイムについて
美容医療には「ダウンタイム」と呼ばれる、施術後に赤みや腫れなどの症状が出る期間があります。治療法によってダウンタイムの長さや程度は異なります。
ケミカルピーリングは比較的ダウンタイムが短く、施術直後から日常生活に戻れることがほとんどです。ダーマペンは内出血や赤みが3〜5日程度続くことがあります。フラクショナルレーザーなど侵襲性の高い治療では、かさぶたや赤みが1〜2週間続くこともあります。
大切なイベントの前に治療を受ける場合は、ダウンタイムを考慮してスケジュールを立てましょう。
副作用とリスク
どのような治療にも副作用やリスクがあります。主な副作用としては、内出血、腫れ、かさぶた、色素沈着(一時的なもの)、赤み(一時的なもの)などが挙げられます。また、治療を受けても完全に元通りにはならない可能性もあります。
特に、炎症を伴うニキビがある状態でダーマペンなどの治療を受けると、細菌が広がってニキビが悪化するリスクがあります。まずは今あるニキビを治してからニキビ跡の治療に移行するのが基本です。
治療前のカウンセリングで、想定される副作用やリスクについて十分な説明を受け、納得した上で治療を受けることが大切です。
治療後のケア
治療の効果を最大限に引き出し、副作用を軽減するためには、治療後のケアが重要です。多くの治療では、施術後に紫外線対策と保湿を徹底することが求められます。
また、施術後は肌が敏感になっているため、刺激の強い化粧品の使用や、激しい運動、サウナなど体温を上げる行為は避けることが推奨されます。医師やスタッフの指示に従い、適切なアフターケアを行いましょう。
クリニック選びのポイント
ニキビ跡の治療を受けるクリニックを選ぶ際は、いくつかのポイントを考慮しましょう。まず、皮膚科専門医または形成外科専門医の資格を持つ医師がいるかどうかを確認します。次に、ニキビ跡治療の実績が豊富かどうかも重要です。
カウンセリングでは、自分のニキビ跡の状態を正確に診断してもらい、最適な治療法を提案してもらえるか、費用や治療期間について明確な説明があるか、質問に丁寧に答えてもらえるかなどを確認しましょう。複数のクリニックでカウンセリングを受けて比較検討することもおすすめです。

8. よくある質問
ニキビ跡の種類や重症度によって異なります。赤みや色素沈着タイプの軽度なニキビ跡は、適切な治療で目立たなくなることが多いです。一方、クレータータイプの深い凹みは、完全に元通りにすることは難しい場合もありますが、適切な治療によってかなり目立たなくすることは可能です。
治療の目標は「完全な根治」ではなく「皮疹状態の改善」であることが多く、どの程度の改善が見込めるか、事前に医師と十分に話し合うことが大切です。なお、20年前のニキビ跡でも改善した治療例もありますので、諦めずに専門医に相談してみてください。
ニキビ跡の種類や重症度、選択する治療法によって異なりますが、一般的に効果を実感するまでには最短でも3か月程度は必要です。
例えば、ケミカルピーリングでは2週間おきに5〜10回程度の施術が目安となります。クレータータイプの治療ではさらに長期間かかることもあり、重度のケロイドでは1〜4年程度の治療期間が必要になることもあります。治療を始める前に、どのくらいの期間と回数が必要か、医師に確認しておきましょう。
ニキビ跡の種類によっては、セルフケアで改善が期待できるものもあります。赤みや色素沈着といった比較的軽度のニキビ跡は、ターンオーバーを整えるスキンケアや紫外線対策、ビタミンC誘導体配合の化粧品などを使用することで、数か月から半年程度で改善することがあります。
ただし、クレーターやケロイドなど真皮層にまでダメージが及んでいる重度のニキビ跡は、セルフケアだけでの改善はほぼ期待できません。数か月間適切なケアを続けても改善が見られない場合は、皮膚科専門医への相談をおすすめします。
残念ながら、ニキビ跡の治療は自由診療(保険適用外)となることがほとんどです。ケミカルピーリング、ダーマペン、レーザー治療などの美容医療は保険適用外です。
ただし、ニキビ自体の治療(アダパレン、過酸化ベンゾイル、抗菌薬など)は保険適用で受けられます。また、ケロイドに対するステロイド局所注射やトラニラストの内服など、一部の治療は保険適用となる場合があります。費用については事前にクリニックに確認しましょう。
ニキビ跡の治療中は、いくつかの点に注意が必要です。まず、紫外線対策を徹底してください。治療後の肌は敏感になっており、紫外線を浴びると色素沈着が悪化するリスクがあります。日焼け止めを毎日使用し、日傘や帽子も活用しましょう。
次に、保湿をしっかり行ってください。治療後は肌が乾燥しやすくなります。また、刺激の強い化粧品やスクラブ洗顔は避け、肌に負担をかけないようにしましょう。激しい運動、サウナ、長時間の入浴など体温を上げる行為は、施術直後は控えることが推奨されます。医師やスタッフの指示に従い、適切なアフターケアを行うことで治療効果を最大限に引き出せます。
ニキビ跡の治療法は種類や重症度によって異なるため、自己判断で選ぶのは困難です。まずは専門医の診察を受け、自分のニキビ跡がどのタイプなのか、どの程度の重症度なのかを正確に診断してもらいましょう。
その上で、ライフスタイル、予算、ダウンタイムの許容度なども考慮しながら、最適な治療プランを提案してもらうことが大切です。複数の治療法を組み合わせる場合もありますので、カウンセリングで疑問点をしっかり解消してから治療を始めましょう。
9. 参考文献
- 日本皮膚科学会「尋常性痤瘡・酒皶治療ガイドライン2023」
- Mindsガイドラインライブラリ「尋常性痤瘡・酒皶治療ガイドライン2023」
- マルホ株式会社「ニキビ一緒に治そうProject」
- マルホ株式会社「ニキビ跡(痕)の種類と対処方法は?」
- AMR臨床リファレンスセンター(厚生労働省委託事業)「令和時代のニキビ治療」
※本記事の内容は一般的な情報提供を目的としており、個別の医療アドバイスを意図したものではありません。ニキビ跡の治療については、必ず医療機関を受診し、専門医の診断を受けてください。
監修者医師
高桑 康太 医師
略歴
- 2009年 東京大学医学部医学科卒業
- 2009年 東京逓信病院勤務
- 2012年 東京警察病院勤務
- 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
- 2019年 当院治療責任者就任
佐藤 昌樹 医師
保有資格
日本整形外科学会整形外科専門医
略歴
- 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
- 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
- 2012年 東京逓信病院勤務
- 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
- 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務