はじめに
ふと耳たぶを触ったときに、小さなしこりに気づいて不安を感じたことはありませんか?特に「押すと痛い」という症状があると、何か悪い病気ではないかと心配になる方も多いでしょう。
耳たぶのしこりは、多くの方が経験する一般的な症状の一つです。痛みがないものから痛みを伴うもの、小さなものから比較的大きなものまで、その特徴はさまざまです。実は、耳たぶには皮脂腺が多く分布しており、イヤリングやピアスの着用、枕との摩擦、寒暖差による刺激など、日常的にさまざまな外的要因の影響を受けています。
本記事では、耳たぶにできる「押すと痛いしこり」について、その原因、症状、診断方法、治療法まで、専門的な医学知識に基づいて詳しく解説いたします。自己判断で放置せず、早めに適切な対処をすることで、悪化を防ぎ早期回復につなげることができます。
※本記事の内容は一般的な医学知識をお伝えするものであり、個人の症状に対する診断や治療の代替となるものではありません。気になる症状がある場合は、必ず医療機関を受診して適切な診断を受けることをお勧めします。

耳たぶのしこりとは?医学的定義と特徴
しこりの医学的定義
医学的に「しこり」とは、正常な組織とは異なる硬さや弾力を持つ塊状の病変を指します。触診で確認できる硬結、腫瘤、結節などがこれに該当します。
耳たぶのしこりは、以下のような特徴で分類されることがあります:
痛みの有無による分類
- 痛みを伴うしこり:炎症や感染の存在を示唆
- 痛みを伴わないしこり:良性の腫瘍性病変の可能性
可動性による分類
- 可動性があるしこり:周囲組織との癒着が少ない(粉瘤、脂肪腫など)
- 可動性が少ないしこり:周囲組織と強く結びついている
大きさと進行速度
- ゆっくり成長するもの:良性腫瘍に多い
- 急速に大きくなるもの:炎症性疾患や一部の悪性腫瘍
耳たぶの解剖学的特徴
耳たぶ(耳垂)は、耳介の最も下部に位置する柔らかい部分で、軟骨を含まない組織です。皮脂腺や毛包が豊富に分布しており、これらが詰まることでさまざまなできものが生じやすい環境にあります。
耳たぶのしこり|押すと痛い主な原因
1. 粉瘤(アテローム・表皮嚢腫)
最も一般的な原因
粉瘤は、耳たぶのしこりの中で最も頻繁に見られる良性の病変です。表皮嚢腫とも呼ばれ、皮膚の下に袋状の構造(嚢胞)ができ、その中に角質や皮脂などの老廃物が蓄積することで形成されます。
粉瘤の特徴
- 大きさ:数ミリメートルから数センチメートル
- 触感:コロコロとした硬めのしこり
- 中央部に黒い点(開口部)があることが多い
- 通常は痛みを伴わない
- 圧迫すると独特の悪臭を伴う内容物が出ることがある
粉瘤自体は痛みを伴いませんが、細菌感染を起こすと「炎症性粉瘤」に移行し、以下のような症状が現れます:
- 赤く腫れ上がる
- 熱感を伴う
- 押すと強い痛みがある
- ズキズキとした拍動性の痛み
- 膿が溜まることがある
粉瘤ができる原因
粉瘤の正確な原因は完全には解明されていませんが、以下の要因が関連していると考えられています:
- 外傷や手術痕
- ヒトパピローマウイルス(HPV)の感染
- 毛穴の詰まり
- 体質的な要因
重要なポイント:粉瘤は自然に治ることはほとんどありません。放置すると徐々に大きくなり、感染リスクも高まります。袋状の組織を完全に摘出しない限り再発する可能性が高いため、適切な治療が必要です。
2. ケロイド
ピアス後に多く見られる
ケロイドは、傷を治すために必要な炎症反応が過剰に続くことで、線維成分が過増殖して生じる病変です。特に耳たぶにピアスを開けた後に発症することが多く見られます。
ケロイドの特徴
- 赤く盛り上がった硬いしこり
- 元の傷の範囲を超えて広がる
- 痛みやかゆみを伴うことがある
- 時間とともに徐々に大きくなる
- 自然に小さくなることはない
ケロイドができやすい条件
- ケロイド体質(日本人の約1割が該当)
- ピアスホールの炎症が長期化
- 金属アレルギー
- ピアスの着脱時の繰り返される外傷
- 就寝時の枕による摩擦や圧迫
- アジア系の人種(黄色人種)に多い
発症のメカニズム
ピアスを開けた際の軽い外傷が、ケロイド体質の方では過剰な治癒反応を引き起こします。特にピアスホールが落ち着かずジクジクしている状態が続くと、慢性炎症からケロイドへと進行するリスクが高まります。
3. リンパ節炎
感染症による腫れ
リンパ節炎とは、リンパ節が細菌やウイルスなどによって炎症を起こした状態のことをいいます。耳たぶの下や周辺にあるリンパ節が腫れることで、しこりとして触れることがあります。
リンパ節炎の特徴
- 押したり触れたりすると痛みを感じる
- 患部が赤くなって熱を帯びる
- 発熱を伴うことがある
- 風邪や扁桃炎などの感染症に伴って発症
- 適切な治療で改善する一時的なもの
原因となる疾患
- 上気道感染症(風邪など)
- 頭皮の炎症や傷
- 歯や口腔内の感染症
- 風疹などのウイルス感染症
4. 脂肪腫
柔らかいしこり
脂肪腫は、皮下脂肪組織が増殖してできる良性の腫瘍です。耳たぶにもできることがあり、粉瘤と間違われることがよくあります。
脂肪腫の特徴
- 柔らかく、触ると弾力がある
- 周囲の組織と被膜で分かれているため、指で押すと動く
- 通常は痛みを伴わない
- ゆっくりと成長する
- 粉瘤より深い位置にできることが多い
5. 毛嚢炎・せつ(おでき)
毛穴の感染
毛嚢炎は毛包(毛穴)が細菌感染を起こした状態で、せつ(おでき)はそれがさらに進行し、皮膚の深い部分まで炎症が及んだものです。
毛嚢炎・せつの特徴
- 小さいしこりでも強い痛みを伴う
- 赤く腫れる
- 中心に膿を持つことがある
- 触れると熱感がある
6. 嚢胞(のうほう)
液体が溜まった袋
嚢胞とは、通常は存在しない場所に発生した、液体の入った袋状の構造物のことです。
嚢胞の特徴
- 触ると柔らかい
- 粉瘤に似ているが、内容物が液体に近い
- 皮膚表面に黒い点(開口部)がない
- 悪臭を伴う膿の排出がない
- 炎症を起こすと痛みを伴うことがある
7. 耳下腺腫瘍
唾液腺由来の腫瘍
耳の下からあご付近にかけてできるしこりで、耳下腺という唾液腺に由来する腫瘍です。良性腫瘍が多いですが、悪性の可能性もあります。
耳下腺腫瘍の特徴
- 皮下脂肪より深い位置に存在
- 弾性のあるしこり
- 初期には症状がないことが多い
- 良性でもゆっくりと大きくなる
- 悪性の場合は顔面神経麻痺を起こすことがある
8. 乳様突起炎
耳の後ろの骨の感染
乳様突起炎は、耳の後ろにある乳様突起という骨が細菌感染を起こした状態です。多くは急性中耳炎の合併症として発症します。
乳様突起炎の特徴
- 耳の後ろに痛みを伴うしこり
- 発熱を伴うことが多い
- 耳だれが出ることがある
- 早期の抗菌薬治療が重要
症状による分類|痛みの有無で見分ける
押すと痛いしこり(炎症・感染を伴う)
耳たぶのしこりを押したり触ったりすると痛みを感じる場合、そのしこりが炎症や感染を起こしている可能性が高いです。
痛みを伴うしこりの代表例
- 炎症性粉瘤(感染した粉瘤)
- 毛嚢炎・せつ
- リンパ節炎
- 乳様突起炎
- 感染を起こした嚢胞
痛みの特徴
- ズキズキとした拍動性の痛み
- 赤く腫れ上がる
- 熱感を伴う
- 触れるだけで痛い
- 夜間に痛みが増強することがある
痛みのないしこり(良性腫瘍性病変)
炎症や感染がない場合、多くのしこりは痛みを伴いません。
痛みを伴わないしこりの代表例
- 通常の粉瘤(感染していない)
- ケロイド(痛みよりかゆみが多い)
- 脂肪腫
- 耳下腺腫瘍(初期)
- 嚢胞(炎症がない場合)
注意点:痛みがないからといって放置してよいわけではありません。徐々に大きくなったり、後から炎症を起こしたりする可能性があります。
診断方法|医療機関での検査
問診
医療機関を受診した際、医師は以下のような点について詳しく聞き取りを行います:
- しこりに気づいた時期
- 大きさや形の変化
- 痛みの有無と程度
- 赤みや熱感の有無
- ピアスの有無や使用歴
- 過去の外傷や手術歴
- 発熱や全身症状の有無
- 家族歴(ケロイド体質など)
視診・触診
医師が直接しこりを観察し、触れて確認します:
視診で確認すること
- しこりの大きさと形状
- 皮膚の色(赤み、黒ずみなど)
- 中央部の開口部(黒い点)の有無
- 周囲組織の炎症の程度
触診で確認すること
- 硬さと弾力性
- 可動性(動くかどうか)
- 圧痛の有無
- 波動感(液体が入っているか)
- 周囲との境界の明瞭さ
画像検査
必要に応じて以下の検査が行われます:
超音波検査(エコー検査)
- しこりの内部構造を詳しく観察
- 嚢胞性か充実性かの判別
- 血流の評価
- 非侵襲的で痛みがない
CT検査・MRI検査
- より詳細な画像情報が必要な場合
- 深部組織の評価
- 悪性腫瘍が疑われる場合
- 手術前の精密検査
穿刺吸引細胞診
しこりの内容物や細胞を採取して顕微鏡で観察する検査です。
- 細い針を使用するため、痛みは最小限
- 良性か悪性かの判断に有用
- 必要に応じて実施
病理組織検査
摘出したしこりを顕微鏡で詳しく調べる検査です。
- 確定診断に不可欠
- 手術後に実施されることが多い
- 悪性の有無を最終的に判断
治療方法|症状に応じた適切な対処
粉瘤の治療
粉瘤は自然治癒することがないため、根本的な治療には手術が必要です。
1. 炎症がない場合の手術
炎症や感染がない場合は、外来での日帰り手術が可能です。
切開法(従来法)
- 粉瘤の直径と同程度の皮膚を切開
- 袋ごと完全に摘出
- 再発率が低い
- 手術時間:30分〜1時間程度
- 縫合後、約1週間で抜糸
くり抜き法(へそ抜き法)
- 中央部に小さな穴を開けて内容物と袋を摘出
- 傷跡が小さい(2〜6mm程度)
- 手術時間が短い
- 縫合や抜糸が不要な場合もある
- 傷が治るまで数週間かかる
耳たぶの粉瘤に関する注意点 耳たぶは皮膚がたるみやすいため、くり抜き法では皮膚がたるむ可能性があります。そのため、8mm以上の粉瘤では切除縫合が選択されることが多いです。
2. 炎症を起こしている場合の治療
感染や炎症を起こしている場合、すぐに袋を摘出する手術はできません。
軽度の炎症
- 抗生物質の内服
- しこりが小さくなるのを待つ
- 炎症が治まってから手術
強い炎症・膿が溜まっている場合
- 切開・排膿術を実施
- 局所麻酔下で切開し、膿を出す
- ガーゼを入れて消毒
- 数日間の通院でガーゼ交換
- 1〜2週間後にガーゼを除去
- 炎症が完全に治まってから後日手術
手術費用の目安(3割負担の場合)
- 耳たぶの粉瘤(4cm未満、露出部):約8,000〜10,000円
- 初診料、再診料、処方料、病理検査費を含む
- 健康保険適用
術後の注意事項
- 手術当日・翌日は飲酒や運動を避ける
- 抗生剤内服中は飲酒禁止
- 当日は入浴を避け、翌日からシャワー可
- 患部を石鹸でやさしく洗う
- 処方された軟膏を塗布
- ガーゼで保護(顔面・頭部は不要なことも)
ケロイドの治療
ケロイドの治療は、体質、年齢、状態、範囲、発症部位などによって異なります。
保存的治療(手術以外)
ステロイド局所注射
- 1〜2ヶ月ごとに実施
- 炎症を抑え、コラーゲン産生を抑制
- 赤み、かゆみ、盛り上がりの改善
- 痛みを伴う
- 周囲が凹んだり血管拡張が見られることがある
ステロイドテープ剤
- 患部に貼付
- 長期間の継続が必要
内服薬(トラニラスト)
- ケロイドの成長を抑制
- 再発予防に使用
圧迫療法
- 専用の器具で患部を圧迫
- 血流を制限してケロイドの成長を抑える
外科的治療(手術)
耳たぶのピアスケロイドは、他の部位のケロイドと異なり手術が有効な選択肢となります。
手術の特徴
- ケロイドのみを切除し、正常な皮膚を使って縫合
- 耳の形を可能な限り温存
- 皮弁形成術やZ形成術を使用
- 術後はステロイド注射で再発を抑制
- 再発のリスクはあるが適応を見極めて実施
手術が第一選択となるケース
- 耳たぶのピアスケロイド
- へそのケロイド
- 保存的治療に抵抗性のあるもの
手術費用の目安(3割負担の場合)
- 皮弁作成術25平方cm未満:約16,000円
- 耳介腫瘍摘出術の半額:約7,500円
- 合計約23,000円+検査代等
注意点
- ケロイド体質の場合、手術により悪化するリスクもある
- 他部位のケロイドは基本的に保存的治療が主体
- 術後の厳密な管理が再発予防に重要
リンパ節炎の治療
抗菌薬による治療
- 細菌感染が原因の場合、抗生物質の内服
- 通常1〜2週間程度で回復
- 原因疾患(風邪、扁桃炎など)の治療も並行
注意すべきサイン
- しこりが硬い
- 2cm以上の大きさ
- なかなか小さくならない → 悪性リンパ腫の可能性があるため、精密検査が必要
脂肪腫の治療
経過観察
- 小さく症状がない場合は経過観察
- 定期的に大きさをチェック
外科的摘出
- 大きくなった場合
- 美容的に気になる場合
- 日常生活に支障がある場合
予防とセルフケア
日常生活での注意点
1. ピアスに関する注意
- ピアスホールが完成する1〜3ヶ月間はファーストピアスを外さない
- 清潔を保つ
- 金属アレルギーがある場合は素材に注意
- 赤みや腫れが続く場合は早めにピアスを外す
- ピアス装着時に無理に押し込まない
2. 外部刺激の軽減
- マスクの紐やメガネのつるが当たらないようにする
- 就寝時の枕との摩擦を避ける
- 過度に触ったり押したりしない
3. 清潔の維持
- 耳たぶを含め耳周辺を清潔に保つ
- 入浴時にやさしく洗う
- タオルで強くこすらない
4. 免疫力の維持
- 十分な睡眠
- バランスの良い食事
- ストレス管理
- 適度な運動
してはいけないこと
絶対に避けるべき行為
- しこりを無理に押したり潰したりする
- 針で刺して内容物を出そうとする
- 強くマッサージする
- 消毒液を過度に使用する
これらの行為は二次感染のリスクを高め、症状を悪化させる可能性があります。
市販薬の使用について
粉瘤やケロイドに根本的に効く市販薬はありません。ただし、以下の対症療法は可能です:
- 痛みがある場合:痛み止め(イブプロフェンなど)の内服
- 軽度の炎症:抗炎症外用薬
ただし、市販薬はあくまで一時的な症状緩和です。しこりを触ると痛みがある場合や、熱を持っている場合は、できるだけ早く医療機関を受診してください。
受診すべきタイミングと診療科の選び方
すぐに受診すべき症状
以下のような症状がある場合は、できるだけ早く医療機関を受診することをおすすめします:
緊急性が高い症状
- 強い痛みがある
- 急速に大きくなっている(数日で明らかな変化)
- 赤みが広がっている
- 熱感が強い
- 発熱を伴う(38度以上)
- 膿が出ている
- 顔面神経麻痺がある(顔が動かしにくい)
- 夜も寝られないほどの痛み
経過観察後の受診を検討すべき症状
- しこりが1週間以上消えない
- 徐々に大きくなっている
- 不快感が続く
- 見た目が気になる
- いびつな形をしている
- 触ると硬い
- 動かない(固定されている)
何科を受診すべきか
しこりの原因や症状によって適した診療科が異なります。
1. 皮膚科
適している症状
- 皮膚のできもの全般
- 粉瘤
- ニキビ、毛嚢炎
- 感染性のできもの
- 湿疹やかぶれを伴うもの
特徴
- 皮膚疾患の診断と初期治療
- 必要に応じて形成外科へ紹介
2. 形成外科
適している症状
- 粉瘤の摘出手術
- ケロイドの治療
- 傷跡をきれいに治したい
- 美容面も考慮した治療
特徴
- 外科手術を専門とする
- 傷跡を目立たなくする技術が高い
- 複雑な再建手術も可能
3. 耳鼻咽喉科
適している症状
- 痛みを伴うしこり
- リンパ節の腫れ
- 耳の痛みや耳だれを伴う
- 難聴や耳鳴りがある
- 中耳炎の既往がある
特徴
- 耳や鼻、喉の疾患を専門とする
- リンパ節炎や乳様突起炎の診断・治療
- 耳下腺腫瘍の診断
診療科選びのポイント
痛みがある場合 → まず耳鼻咽喉科へ
痛みがない場合 → 皮膚科または形成外科へ
どの科か迷う場合 → かかりつけ医や総合病院の受付で相談
良い医療機関の選び方
チェックポイント
- 専門性:粉瘤摘出やケロイド治療の実績があるか
- 手術方法:くり抜き法など複数の選択肢があるか
- 日帰り手術の可否:通院の負担を考慮
- アクセス:通院のしやすさ
- 口コミや評判:実際の患者の声
- 説明の丁寧さ:治療方針を詳しく説明してくれるか

よくある質問(Q&A)
A1: しこりの種類によって異なります。感染による一時的な腫れ(リンパ節炎など)は適切な治療により改善しますが、粉瘤、ケロイド、脂肪腫などの腫瘍性病変は自然に消失することはほとんどありません。むしろ時間とともに徐々に大きくなる傾向があります。
A2: 自己判断でのマッサージはお勧めしません。特に感染が疑われる場合や悪性の可能性がある場合は、刺激により症状が悪化したり、病変が拡大したりする可能性があります。医師の診断を受けてから適切な対処法を相談してください。
A3: はい、ピアスに関連したしこりは比較的よく見られます。金属アレルギー、感染、ケロイド形成などが原因となることがあります。ピアスホールの周囲にしこりができた場合は、早めに医師に相談することをお勧めします。
A4: 完全に傷跡を消すことは困難ですが、形成外科では傷跡を最小限にする技術が発達しています。くり抜き法では2〜6mm程度の小さな傷で済むことが多く、時間とともに目立たなくなります。耳たぶは傷の治りが他の部位より目立ちにくい特徴があります。
A5:
粉瘤:袋を完全に摘出すれば再発はほとんどありません。ただし、不完全な摘出や自分で潰した場合は再発のリスクが高まります。
ケロイド:体質的な要因が強いため、手術後も再発の可能性があります。術後の厳密な管理(ステロイド注射など)が重要です。
脂肪腫:完全摘出すれば同じ場所での再発はまれです。
A6: 耳たぶのしこりの大部分は良性ですが、以下の特徴がある場合は悪性の可能性も考慮する必要があります:
急速に大きくなる
硬くて動かない
いびつな形をしている
皮膚との癒着が強い
潰瘍(ただれ)を形成している
心配な症状がある場合は、必ず医師の診察を受けてください。
A7: はい、耳たぶのしこりは子どもにもできます。特にリンパ節炎は風邪などの感染症に伴って子どもに多く見られます。粉瘤は年齢に関係なく発症しますが、40〜50代に多い傾向があります。子どもの場合は特に早めに小児科や耳鼻咽喉科を受診することをお勧めします。
A8: 過度な消毒液の使用はお勧めしません。消毒液は正常な皮膚にもダメージを与え、かえって治りを遅くすることがあります。通常の入浴時に石鹸でやさしく洗う程度で十分です。炎症が強い場合は医師の指示に従ってください。
放置するリスク
耳たぶのしこりを放置することには、以下のようなリスクがあります:
1. 炎症の悪化
特に粉瘤や感染性のできものは、放置すると炎症がどんどん悪化し、痛みや腫れが強くなります。
起こりうる合併症
- 膿瘍形成(膿が溜まる)
- 蜂窩織炎(広範囲の皮膚感染)
- 敗血症(血液中に細菌が入る)
- 自然破裂
- 周囲組織への炎症の拡大
2. サイズの増大
粉瘤、ケロイド、脂肪腫などは、自然に小さくなることはなく、時間とともに少しずつ大きくなる傾向があります。
大きくなることの問題
- 見た目が目立つ
- 日常生活での不便(枕に当たる、髪型が決まらないなど)
- 手術が複雑になる
- 傷跡が大きくなる
- 治療期間が長くなる
3. 治療の複雑化
早期に治療すれば簡単な処置で済むことも、放置すると複雑な治療が必要になることがあります。
治療が複雑になる例
- 炎症が強い場合、まず切開排膿が必要
- その後、炎症が治まってから本手術
- 通院回数が増える
- 治療費が高額になる
- 傷跡が目立ちやすくなる
4. 稀な悪性化
非常に稀ですが、長期間放置された粉瘤が悪性化する報告があります。また、悪性腫瘍を粉瘤と勘違いして放置するリスクもあります。
5. 生活の質(QOL)の低下
しこりがあることで以下のような支障が生じることがあります:
- 外見への不安
- 痛みによる睡眠障害
- 好きな髪型ができない(特にケロイド)
- アクセサリーの装着が困難
- 人目が気になる心理的ストレス
まとめ
耳たぶにできる「押すと痛いしこり」は、粉瘤、ケロイド、リンパ節炎など、さまざまな原因が考えられます。痛みや腫れが続く場合、自己判断で放置せず、早めに皮膚科、形成外科、または耳鼻咽喉科を受診することが大切です。
重要なポイント
- 早期発見・早期治療:小さいうちに治療すれば、手術も簡単で傷跡も最小限
- 自己判断の危険性:しこりを押したり潰したりすると悪化のリスク
- 適切な診療科の選択:痛みの有無で受診する科を判断
- 再発予防:粉瘤は袋を完全摘出、ケロイドは術後管理が重要
- 生活習慣の見直し:ピアス管理、清潔保持、外部刺激の軽減
正しい診断と適切な治療を受けることで、悪化を防ぎ早期の回復につながります。気になる症状がある方は、ぜひ医療機関で相談してみてください。
参考文献
本記事の作成にあたり、以下の信頼性の高い医療情報源を参考にしました:
- 兵庫医科大学病院「粉瘤(ふんりゅう)」
https://www.hosp.hyo-med.ac.jp/disease_guide/detail/195 - メディカルノート「耳の下のしこり:医師が考える原因と受診の目安」
https://medicalnote.jp/symptoms/耳の下のしこり - Medical DOC「『耳たぶにしこり』ができる原因をご存知ですか?医師が徹底解説!」
https://medicaldoc.jp/symptoms/part_respiratory/sy0066/
※本記事の情報は医学的知識に基づいていますが、個別の診断や治療の代替とはなりません。症状がある場合は必ず医療機関を受診してください。
監修者医師
高桑 康太 医師
略歴
- 2009年 東京大学医学部医学科卒業
- 2009年 東京逓信病院勤務
- 2012年 東京警察病院勤務
- 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
- 2019年 当院治療責任者就任
佐藤 昌樹 医師
保有資格
日本整形外科学会整形外科専門医
略歴
- 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
- 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
- 2012年 東京逓信病院勤務
- 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
- 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務