「風邪は治ったはずなのに、痰が絡む咳がいつまでも続く」「朝起きると喉に痰が溜まっていて、しばらく咳が止まらない」——こうした症状に悩まされている方は少なくありません。痰が絡む咳は、単なる風邪の名残と思われがちですが、実は様々な病気のサインである可能性があります。
本記事では、痰が絡む咳のメカニズムから、考えられる原因疾患、痰の色からわかる体の状態、そして日常生活でできる対処法まで、呼吸器の専門的な知識をもとにわかりやすく解説します。長引く咳に悩んでいる方、いつ病院を受診すべきか迷っている方は、ぜひ参考にしてください。

🔍 痰が絡む咳が続くのはなぜ?基礎知識
💡 痰とは何か
痰(たん)とは、気道の粘膜から分泌される粘液のことです。健康な人でも、気管支では毎日60〜100mlほどの粘液が作られており、気道にある繊毛(せんもう)の働きによって少しずつ喉へ運ばれています。通常、この粘液は無意識のうちに飲み込まれるため、自分では気づかないことがほとんどです。
痰には、空気と一緒に吸い込んだホコリや細菌、ウイルスなどの異物を絡め取り、体の外へ排出する重要な役割があります。つまり、痰は私たちの体を守るための防御システムの一部なのです。
しかし、風邪をひいたり、気道に炎症が起きたりすると、粘液の分泌量が増加します。その結果、痰の量が増え、喉に絡みつくような不快感を覚えるようになります。
🫁 咳のメカニズム
咳もまた、体を守るための自然な反応です。空気の通り道である気道に異物や病原菌が侵入すると、喉や気管にあるセンサーがこれを感知して脳に伝えます。すると脳からの指令によって咳が発生し、異物を体の外へ吐き出そうとします。この一連の反応を「咳反射」と呼びます。
咳には、異物を絡め取った痰を排出する働きもあります。そのため、痰が絡む咳を無理に止めようとすると、本来排出されるべき異物や病原菌が気道に留まり、かえって症状を悪化させてしまう可能性があります。
⚙️ 痰が絡む咳が出るメカニズム
痰が絡む咳は、気道の粘膜表面に強い刺激や炎症が長く続いたことにより、増えた痰を排出しようとするために起こります。炎症によって粘膜から過剰に分泌された粘液には、白血球の死骸などが混じることがあり、これが痰の粘り気を増加させます。
粘り気が増した痰は喉に絡みつきやすくなり、繊毛による自然な排出が困難になります。その結果、痰を外に出すために咳が発生するのです。
🔄 湿性咳嗽と乾性咳嗽の違い
咳は大きく「湿性咳嗽(しっせいがいそう)」と「乾性咳嗽(かんせいがいそう)」の2種類に分けられます。
湿性咳嗽とは、痰を伴う咳のことです。「ゴロゴロ」「ゴホゴホ」といった重い音がし、咳をすると実際に痰が出てきます。気管支炎や肺炎、慢性閉塞性肺疾患(COPD)などが原因で、気道に溜まった粘液を排出しようとして起こります。
一方、乾性咳嗽とは、痰の絡まない咳のことです。「コンコン」「ケンケン」といった乾いた音がし、喉や胸のムズムズ感、空咳が続きます。咳喘息やアレルギー性鼻炎、胃食道逆流症などが原因で、気道の過敏性によって起こります。
🏥 痰が絡む咳が続く原因となる病気
痰が絡む咳が長引く場合、様々な病気が隠れている可能性があります。ここでは、代表的な疾患について解説します。
🦠 感染性疾患(急性気管支炎・肺炎)
急性気管支炎は、ウイルスや細菌に感染して気管支に炎症が起こる病気です。風邪の延長線上で発症することが多く、発熱や喉の痛み、痰を伴う咳が主な症状です。多くの場合、数日から数週間で症状は治まりますが、適切な治療を受けないと慢性化する恐れがあります。
肺炎は、細菌やウイルスなどの病原体が肺に感染して炎症を起こす病気です。咳、痰、発熱などの症状が現れますが、これらは風邪とよく似ているため、肺炎にかかっても風邪だと思い込んでしまうことがあります。特に高齢者の場合、誤嚥(ごえん)によって発症する誤嚥性肺炎に注意が必要です。
🌪️ 慢性疾患(気管支喘息・COPD)
気管支喘息は、気道が慢性的に炎症を起こし、狭くなることで発作的な呼吸困難や咳、痰の増加を引き起こす病気です。アレルギー性の炎症によって気道が過敏になり、ホコリや冷たい空気、ペットの毛などのわずかな刺激でも激しく咳き込むことがあります。
COPDは、タバコの煙を主とする有害物質を長年吸い込むことなどが原因となり、肺の空気の通りが悪くなる病気です。息切れ、咳、痰などの症状が特徴で、症状が徐々に悪化していきます。日本では、40歳以上の約12人に1人がCOPDの患者であると推定されていますが、多くの方が診断や治療を受けていないのが現状です。
👃 副鼻腔炎と後鼻漏
副鼻腔炎は、鼻の穴の周囲にある空洞(副鼻腔)に炎症が起こり、膿が溜まる病気です。溜まった膿が鼻の中にあふれて流れるため、鼻水の量が増え、粘り気が出てきます。
この鼻水が喉の方へ流れ落ちる状態を「後鼻漏(こうびろう)」と呼びます。後鼻漏による咳は、痰が絡むような湿った咳(湿性咳嗽)となるのが特徴です。横になると悪化することや、朝起きた時に痰混じりの咳が多いことが特徴で、原因となっている鼻炎の治療を優先した方が効果的です。
🎗️ 重篤な疾患(結核・肺がん)
肺結核は、肺に結核菌が感染して起こる病気です。咳、痰、血痰、倦怠感、発熱、体重減少、寝汗などの症状が見られます。結核は過去の病気と思われがちですが、現在でも発症する方はいます。2週間以上咳が続く場合は、結核の可能性も視野に入れて検査を受けることが大切です。
肺がんでも、咳や痰が症状として現れることがあります。特に長期間にわたって痰が絡む場合、重大な病気が隠れている可能性を否定できません。血痰が出た場合は、すぐに医療機関を受診してください。
🎨 痰の色でわかる体のサイン
痰の色は、体の中で何が起きているかを知る手がかりになります。ただし、痰の色だけで病気を特定することはできませんので、あくまでも目安として参考にしてください。
⚪ 透明・白色の痰
健康な方であれば、痰は通常無色透明です。また、ウイルス性の風邪やアレルギー性鼻炎、喘息の初期などでも透明から白っぽい痰が見られます。比較的軽度の炎症が原因で、粘り気があることも特徴です。
🟡 黄色・緑色の痰
痰が黄色くなっている場合は、ウイルスや細菌感染の可能性が考えられます。体の免疫がウイルスや細菌と戦っている証拠で、白血球の死骸などが混じることで黄色くなります。
緑色の痰が出る場合は、細菌感染が進んでいる可能性があります。風邪をこじらせた場合や、肺炎、副鼻腔炎(蓄膿症)などでよく見られます。サラサラした水っぽい痰が硬くなり、白色から黄色、そして緑色に変わると「膿性(のうせい)のたん」と呼ばれます。
🔴 血が混じった痰・その他の色
茶色や赤錆色の痰は、肺などの臓器からの出血が考えられます。古い血液が混じった場合に、錆びた鉄のような色になります。肺炎球菌による肺炎では、特徴的な錆び色の痰が見られることがあります。
痰に血が混じっている場合は、鼻の中、口の中、喉、気管支、肺など、体のどこかで出血が起こっている可能性があります。肺結核や肺がん、気管支拡張症でも血痰が出ることがあり、緊急性の高い状態です。たとえ少量でも血痰が出た場合は、必ず医療機関を受診してください。
ピンク色で泡立つような痰は、心臓の機能が低下する心不全で、肺に水が溜まった状態(肺水腫)の時に見られる特徴的なサインです。呼吸困難を伴うことが多く、緊急性の高い状態です。すぐに医療機関を受診してください。
💡 痰が絡む咳が続くときの対処法
痰が絡む咳が続く時は、以下の対処法を試してみてください。
💧 水分補給と湿度管理
こまめな水分補給を心がけましょう。水分を十分に摂ることで痰が柔らかくなり、排出しやすくなります。温かい飲み物やスープなどは、喉を潤しながら体を温める効果もあるのでお勧めです。
室内の湿度を適度に保つことも重要です。乾燥した空気は気道を刺激し、痰の絡みや咳の症状を悪化させる原因となります。加湿器を使用したり、濡れタオルを部屋に干したりして、適度な湿度を保ちましょう。
✅ 正しい痰の出し方
痰を出すことは体にとって大切なことですが、間違った方法で無理に出そうとすると、かえって喉を痛めてしまうことがあります。強い「痰切り」や激しい「咳払い」を繰り返すと、喉の粘膜を傷つけてしまい逆効果です。
- まず、深呼吸をして十分に空気を吸い込む
- 次に、お腹に力を入れながら「ハッ」と強く息を吐き出す
- この時、咳き込むのではなく、息を吐く力で痰を押し出すイメージで行う
🚫 刺激物の回避と生活習慣の改善
喫煙者の方は、禁煙をすることで気道の炎症リスクを減らせます。タバコの煙は気道に慢性的な炎症を引き起こし、痰や咳の原因となります。COPDの最大の原因もタバコであることから、禁煙は痰が絡む咳の改善に最も効果的な対策の一つです。
また、刺激の強い食べ物(辛いもの、酸っぱいものなど)やアルコールを控え、冷暖房の風が直接当たらないようにするなど、喉への刺激を避けることも大切です。
🏥 医療機関を受診すべきタイミング
痰が絡む咳が続く場合、どのタイミングで医療機関を受診すべきでしょうか。以下の目安を参考にしてください。
🚨 緊急度の高い症状
以下の症状がある場合は、できるだけ早く医療機関を受診してください。
- 痰に血が混じっている(血痰)
- 息苦しさを感じる
- 高熱が下がらない
- 痰の色が茶色や赤錆色である
- ピンク色で泡立つ痰が出る
- 胸の痛みがある
- 意識がもうろうとする
- 喉の近くで「ゼーゼー」「ヒューヒュー」という音がする
📅 期間や変化による判断基準
咳が2週間以上続く場合は、風邪以外の病気が隠れている可能性があるため、医療機関を受診しましょう。通常の風邪であれば、2週間以内に咳は治まることがほとんどです。
痰の色が白から黄色や緑に変化した場合は、細菌感染を起こしている可能性があります。咳の期間が2週間以内であっても、痰の色の変化があれば受診を検討してください。
🏥 受診科と症状の関係
咳が長引いている場合は、呼吸器内科を受診することをお勧めします。長引く咳の原因のほとんどが呼吸器の病気だからです。
ただし、鼻水や鼻づまりなどの症状があり副鼻腔炎や後鼻漏が疑われる場合は耳鼻咽喉科、胸やけや酸っぱい液体が上がってくる感じがあり胃食道逆流症が疑われる場合は消化器科を受診することをお勧めします。
🛡️ 予防策と年齢別の注意点
👶👵 子どもや高齢者への配慮
子どもは体が未発達であるため、自分でしっかり痰を排出するのが難しいことがあります。こまめな水分補給や部屋の湿度管理、蒸気吸入などが効果的です。通常、子どもの痰絡みの咳は10日以内に約半数、25日以内に約9割が改善するとされています。
高齢者は免疫力が低下していることが多く、痰が絡む咳が続く場合は、肺炎や肺がんなどの重篤な病気の可能性も考慮する必要があります。特に嚥下機能が低下している方は誤嚥性肺炎のリスクが高いため注意が必要です。
🧼 日常生活での予防対策
手洗いやうがいを習慣づけ、細菌やウイルスの感染を防ぎましょう。また、口腔内の清潔さを保つことも、痰の予防に重要な役割を果たします。
免疫力を高めるためには、適度な運動、バランスの良い食事、十分な睡眠、ストレスを溜めないことが欠かせません。インフルエンザや肺炎球菌のワクチンを受けておくことで、感染による咳や痰の症状を予防できます。

📝 まとめ
痰が絡む咳は、私たちの体が異物や病原菌から身を守ろうとする自然な反応です。しかし、長引く場合は様々な病気のサインである可能性があります。
この記事のポイントをまとめると、以下のようになります。
- 痰が絡む咳(湿性咳嗽)は、気道の炎症によって増えた痰を排出しようとして起こる
- 原因となる病気には、気管支炎、肺炎、気管支喘息、COPD、副鼻腔炎(後鼻漏)、気管支拡張症、肺結核、肺がんなどがある
- 痰の色は体の状態を知る手がかりになり、黄色や緑色の痰は細菌感染、血痰は緊急性の高い状態を示す可能性がある
- 対処法として、十分な水分補給、室内の湿度管理、正しい痰の出し方、禁煙などが有効
- 2週間以上咳が続く場合、痰に血が混じる場合、息苦しさを感じる場合は、速やかに医療機関を受診する
- 子どもや高齢者は特に注意が必要で、症状が改善しない場合は早めに受診を
痰が絡む咳が続いて気になっている方は、自己判断で様子を見続けるのではなく、医療機関を受診して適切な診断と治療を受けることをお勧めします。早期に原因を特定し、適切な治療を受けることで、症状の改善と重症化の予防につながります。
よくある質問
一般的に、咳が2週間以上続く場合は医療機関を受診することをお勧めします。通常の風邪による咳は2週間以内に治まることがほとんどです。ただし、痰に血が混じる、高熱が続く、息苦しさがあるなどの症状がある場合は、期間に関係なくすぐに受診してください。
痰が黄色や緑色になるのは、主に細菌感染が原因です。体の免疫システムが細菌と戦う際に、白血球が活動し、その死骸などが痰に混じることで色が変化します。黄色は比較的軽度の感染、緑色はより進行した細菌感染を示している可能性があります。このような色の変化が見られた場合は、医療機関での診察を受けることをお勧めします。
自宅でできる対処法として、以下が効果的です:1)十分な水分補給(温かい飲み物がおすすめ)、2)室内の湿度を50-60%に保つ、3)正しい痰の出し方を実践する(深呼吸後にお腹に力を入れて「ハッ」と息を吐く)、4)刺激物(辛い食べ物、アルコール、タバコの煙など)を避ける、5)十分な休息を取る。ただし、症状が改善しない場合や悪化する場合は医療機関を受診してください。
痰が絡む咳(湿性咳嗽)は「ゴロゴロ」「ゴホゴホ」といった重い音がし、実際に痰が出てきます。主に気管支炎や肺炎などの感染症が原因です。一方、乾いた咳(乾性咳嗽)は「コンコン」「ケンケン」といった乾いた音で、痰は出ません。咳喘息やアレルギーが原因のことが多いです。治療法も異なり、痰が絡む咳では去痰薬、乾いた咳では咳止め薬が使われることが一般的です。
はい、喫煙者は痰が絡む咳が出やすくなります。タバコの煙に含まれる有害物質が気道を慢性的に刺激し、炎症を引き起こすためです。長期間の喫煙により、慢性閉塞性肺疾患(COPD)を発症するリスクも高まります。COPDでは朝方に特に痰の絡む咳が多くなる特徴があります。禁煙は痰が絡む咳の改善に最も効果的な対策の一つです。喫煙歴があり、慢性的に咳や痰の症状がある方は、早めに医療機関で検査を受けることをお勧めします。
📚 参考文献
- Q6. 黄色または緑色のたんが出ます。 – 呼吸器Q&A|一般社団法人日本呼吸器学会
- B-01 慢性閉塞性肺疾患(COPD) – B. 気道閉塞性疾患|一般社団法人日本呼吸器学会
- COPD(慢性閉塞性肺疾患) | 健康イベント&コンテンツ | スマート・ライフ・プロジェクト|厚生労働省
- 【知識編】痰の観察|ぜん息などの情報館|独立行政法人環境再生保全機構
- 上手な痰の出し方|ぜん息などの情報館|独立行政法人環境再生保全機構
監修者医師
高桑 康太 医師
保有資格
ミラドライ認定医
略歴
- 2009年 東京大学医学部医学科卒業
- 2009年 東京逓信病院勤務
- 2012年 東京警察病院勤務
- 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
- 2019年 当院治療責任者就任
- 皮膚腫瘍・皮膚外科領域で15年以上の臨床経験と30,000件超の手術実績を持ち、医学的根拠に基づき監修を担当
- 専門分野:皮膚腫瘍、皮膚外科、皮膚科、形成外科
- 臨床実績(2024年時点) 皮膚腫瘍・皮膚外科手術:30,000件以上、腋臭症治療:2,000件以上、酒さ・赤ら顔治療:1,000件以上
- 監修領域 皮膚腫瘍(ほくろ・粉瘤・脂肪腫など)、皮膚外科手術、皮膚がん、一般医療コラムに関する医療情報
佐藤 昌樹 医師
保有資格
日本整形外科学会整形外科専門医
略歴
- 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
- 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
- 2012年 東京逓信病院勤務
- 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
- 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務
咳の性質を見極めることは診断において非常に重要です。痰が絡む咳と乾いた咳では根本的に原因が異なるため、症状をよく観察して医師に伝えることが適切な治療につながります。特に、咳の音の違いや痰の有無は診断の重要な手がかりとなります。