引っ越しを終えた翌日、体中が痛くて動けなかった、という経験をお持ちの方は少なくないでしょう。段ボール箱の運搬や重い家具の移動など、引っ越し作業は短時間に大量の肉体労働を伴います。普段はあまり使わない筋肉を酷使することで、翌日から数日後にかけて強い筋肉痛が現れるのは自然な反応です。ただし、中には「いつまでも痛みが引かない」「関節まで痛くなってきた」など、単純な筋肉痛では説明できない症状に悩む方もいます。この記事では、引っ越し後の筋肉痛が起こるメカニズムから、痛みを和らげるための対処法、そして医療機関を受診すべきサインまでを医療の観点からわかりやすく解説します。
目次
- 引っ越し後に筋肉痛が起こる理由
- 引っ越し作業で特に使われる筋肉と痛みが出やすい部位
- 筋肉痛はいつ現れ、どのくらい続くのか
- 筋肉痛を悪化させるNG行動
- 引っ越し後の筋肉痛を早く和らげるための対処法
- 筋肉痛と間違えやすい他の症状・疾患
- 医療機関を受診すべきサインと目安
- 引っ越し作業前にできる筋肉痛の予防策
- まとめ

🎯 引っ越し後に筋肉痛が起こる理由
引っ越し後に筋肉痛が起こる根本的な原因は、筋肉への過度な負荷と、日常生活では使わない動作パターンにあります。医学的には「遅発性筋肉痛(DOMS:Delayed Onset Muscle Soreness)」と呼ばれるこの現象は、筋肉に微細な損傷が生じることで引き起こされます。
引っ越し作業における筋肉痛のメカニズムをもう少し詳しく見ていきましょう。筋肉には、力を入れながら縮む「短縮性収縮(コンセントリック収縮)」と、力を入れながら伸びる「伸張性収縮(エキセントリック収縮)」という二種類の動き方があります。このうち、筋肉痛を引き起こしやすいのは伸張性収縮です。
引っ越し作業では、重い荷物をゆっくり床に下ろす動作や、重量物を抱えながら階段を下りる動作など、伸張性収縮が頻繁に発生します。こうした動作によって筋肉の繊維(筋線維)に微細な断裂が生じ、炎症反応が起こることで痛みが発生します。この炎症反応は体の修復プロセスの一部であり、傷ついた筋線維を修復するために白血球やサイトカインと呼ばれる炎症性物質が集まってきます。このプロセスそのものが痛みの主な原因となっています。
かつては「乳酸が溜まることで筋肉痛が起こる」という説が広く信じられていましたが、現在の医学的見解では、乳酸は運動終了後比較的早く代謝されるため、遅れて現れる筋肉痛の主因ではないとされています。引っ越し後の筋肉痛においては、筋線維の微細損傷とそれに伴う炎症が主たるメカニズムと理解しておくとよいでしょう。
また、引っ越し作業には「普段使わない筋肉を動員する」という特徴もあります。デスクワーク中心の生活を送っている方は特に、腰や背中、太ももの筋肉が慢性的に弱化・硬化していることが多く、急激な負荷がかかると筋線維の損傷が生じやすくなります。運動習慣がある方と比べて、引っ越し後の筋肉痛が強く現れやすいのはこのためです。
📋 引っ越し作業で特に使われる筋肉と痛みが出やすい部位
引っ越し後に筋肉痛が出やすい部位を知っておくことは、適切なセルフケアのためにも重要です。引っ越し作業で特に大きな負荷がかかる筋肉と部位について詳しく見ていきましょう。
腰・背中周辺の筋肉は、引っ越し後の筋肉痛で最も頻繁に痛みを訴える部位です。段ボール箱を持ち上げる動作では、脊柱起立筋(背骨を支える筋肉)や腰方形筋に強い負荷がかかります。特に床から物を持ち上げる際に背中を丸めた状態で行うと、腰の筋肉や椎間板にかかる負荷が数倍に増大します。多くの方は正しいフォームを意識する余裕がない中で何度も繰り返し荷物を持ち上げるため、腰への負担は非常に大きくなります。
太もも(大腿四頭筋・ハムストリングス)も引っ越し作業で酷使される部位です。しゃがんだ姿勢から立ち上がる動作、階段の昇り降り、重い荷物を運びながら歩くといった動作は、太ももの前面と後面の筋肉を繰り返し使用します。翌日に階段を下りる際にひどく痛みを感じるのは、大腿四頭筋やハムストリングスの遅発性筋肉痛が典型的に現れているためです。
肩・肩甲骨周囲の筋肉も大きな負担を受けます。重い荷物を抱えながら移動したり、高い棚に物を持ち上げたりする動作は、僧帽筋や三角筋、菱形筋などに強いストレスを与えます。パソコン作業などで慢性的に肩が凝っている方は、もともと筋肉が硬くなっていることが多く、さらにダメージを受けやすい状態になっています。
腕(上腕二頭筋・前腕の筋肉)にも大きな負荷がかかります。荷物を持ち続けることで、腕を曲げた状態を保つ上腕二頭筋や、物を握り続ける前腕の筋群に疲労が蓄積します。翌日以降に腕が上がらない、グーを握るとつらいといった症状が現れるのはこのためです。
ふくらはぎ(腓腹筋・ヒラメ筋)にも注意が必要です。長時間立ち続けたり歩き回ったりすることで、ふくらはぎの筋肉が疲弊します。むくみを伴うことも多く、痛みと重だるさが混在することもあります。
💊 筋肉痛はいつ現れ、どのくらい続くのか
引っ越し後の筋肉痛がいつ始まり、いつ終わるのかを把握しておくと、回復の目安がわかって精神的にも楽になります。遅発性筋肉痛の一般的なタイムラインについて解説します。
引っ越し作業を終えた当日は、強い疲労感はあっても筋肉痛の痛みはそれほど強くないことが多いです。作業直後の筋肉の痛みは運動後の疲労感に近く、温かいお風呂に入れば楽になるという方も多いでしょう。遅発性筋肉痛が本格的に現れてくるのは、作業から8〜24時間後ごろからです。
翌日(作業翌日)は、多くの方が最も強い痛みを感じる時期です。朝起き上がれない、全身がこわばって動けないという症状が現れます。筋線維の損傷部位に炎症が広がり、痛みの信号が神経を通して脳に伝わります。この段階では日常的な動作(立ち上がる、階段を使う、腕を上げるなど)が困難になることも珍しくありません。
2日目(作業から48時間後)には、引っ越し翌々日でさらに痛みが増したと感じる方もいます。これは「2日後に筋肉痛がひどくなる」という現象で、炎症反応のピークが48〜72時間後に来ることが関係しています。医学的にも、遅発性筋肉痛は作業から24〜72時間でピークに達するとされており、決して異常なことではありません。
3〜5日目になると、徐々に痛みが和らいでいきます。炎症が落ち着き、損傷を受けた筋線維の修復が進むためです。この時期は動きに伴う痛みは残るものの、安静にしていれば楽という状態になることが多いです。
通常の遅発性筋肉痛であれば、1週間程度で痛みはほぼ消失します。ただし、作業の規模や個人の体力・筋力によっては10日前後かかることもあります。それ以上の期間にわたって強い痛みが続く場合は、単純な筋肉痛以外の原因を考える必要があります。

🏥 筋肉痛を悪化させるNG行動
引っ越し後の筋肉痛に対して、善意で行った行動が実は回復を遅らせることがあります。よくある誤った対処法をいくつか紹介します。
まず、長時間の熱いお風呂への入浴です。筋肉痛の急性期(特に最初の48時間)は、炎症が起きている状態です。この時期に高温のお湯で長時間温めると、血管が拡張して炎症部位への血流が増加し、むしろ痛みや腫れが悪化することがあります。急性期はぬるめのシャワーや短時間の入浴にとどめることが推奨されます。
次に、「痛みを我慢して運動する」という対処法です。「動かした方が早く治る」という考えから、痛みが強い状態で激しい運動をすると、すでに損傷している筋線維にさらなる負荷をかけることになり、回復が大幅に遅れる可能性があります。痛みが強い時期は、軽いストレッチやウォーキング程度にとどめましょう。
アルコールの摂取も回復を妨げる要因になります。引っ越しを終えた達成感からお酒を飲みたくなる気持ちはよくわかりますが、アルコールは利尿作用によって脱水を促進し、筋肉の修復に必要な栄養素の代謝を阻害します。また、血流への影響や睡眠の質の低下を通じて、回復に悪影響を及ぼすことが知られています。
痛み止めの過剰使用にも注意が必要です。市販の非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)は痛みを抑えるのに有効ですが、炎症反応自体が筋肉の修復に必要なプロセスでもあるため、初期の炎症を強く抑えすぎると逆に筋肉の回復が遅くなる可能性があるとの研究報告もあります。薬の使用は短期間に限定し、過度な使用は避けましょう。
また、無理な「揉みほぐし」も逆効果になる場合があります。急性期に傷ついた筋肉を強くマッサージすると、炎症が悪化し痛みが増強することがあります。マッサージを行う場合は、急性期を過ぎた後(3日目以降を目安に)、強くもむのではなく優しく流す程度にしましょう。
⚠️ 引っ越し後の筋肉痛を早く和らげるための対処法
引っ越し後の筋肉痛に対して、正しい対処法を実践することで回復を促進できます。医学的に根拠のある方法をまとめました。
十分な休息と睡眠をとることが最も基本的かつ重要な回復手段です。筋肉の修復は主に睡眠中に分泌される成長ホルモンによって促進されます。引っ越し翌日以降、できる限り活動量を減らし、7〜9時間の質のよい睡眠を確保することを優先してください。新居での慌ただしい片付けは、体が回復してからでも遅くはありません。
水分補給をしっかり行うことも重要です。引っ越し作業中に多量の汗をかいた場合、脱水状態になっていることが多く、筋肉の代謝や修復に必要な水分が不足しています。水やスポーツドリンク(電解質を含むもの)を積極的に摂取し、尿の色が淡黄色になる程度の水分摂取量を維持しましょう。
たんぱく質を中心とした栄養補給も筋肉回復に欠かせません。傷ついた筋線維を修復するためには、筋肉の材料となるたんぱく質が必要です。肉、魚、卵、豆製品などのたんぱく質を積極的に摂取しましょう。また、抗炎症作用が期待できるオメガ3脂肪酸(サーモン、アジ、くるみなどに含まれる)やビタミンC、ビタミンEも回復をサポートします。引っ越し後で料理する余裕がない場合は、コンビニやデリバリーでも高たんぱくな食品を選ぶ工夫をしましょう。
アイシング(冷却)は急性期の痛みや腫れを抑えるのに有効です。特に作業後24時間以内は、氷や保冷剤をタオルに包んで痛みの強い部位に15〜20分程度当てることで、炎症反応を抑制し痛みを和らげることができます。ただし、直接皮膚に当てると凍傷の危険があるため、必ず布を間に挟んでください。
急性期(48〜72時間)を過ぎたら、今度は温熱療法が有効になります。ぬるめのお風呂にゆっくり入ったり、温湿布を使用したりすることで血行が促進され、筋肉の修復に必要な酸素や栄養素の供給が改善します。また、温めることで筋肉の緊張がほぐれ、痛みが和らぎます。
軽度のストレッチを行うことも有効です。激しい運動は禁物ですが、痛みが出ない範囲で筋肉を優しく伸ばすストレッチは、血行を促進し筋肉の硬直を和らげるのに役立ちます。腰回りや太もも、肩回りなど、痛みのある部位を中心に、各部位15〜30秒ほどかけてゆっくりと伸ばしましょう。痛みを感じる手前で止め、息を止めずに行うことが重要です。
市販の湿布薬(冷湿布・温湿布)も痛みの緩和に役立ちます。急性期は冷湿布、それ以降は温湿布を使い分けると効果的です。ロキソプロフェンやジクロフェナクなどを含む外用の鎮痛消炎剤も、局所的な炎症と痛みを抑えるのに有効です。痛みが特に強い場合は、市販の内服鎮痛薬(アセトアミノフェンやイブプロフェンなど)を適切な用量で使用することも選択肢のひとつです。いずれも用法・用量を守って使用してください。
軽いウォーキングも回復期には有効です。「アクティブリカバリー」と呼ばれるこの方法では、激しい運動は避けつつも、ゆっくりした歩行などで血流を促進することで回復を早める効果が期待できます。痛みが強い時期(作業翌日・翌々日)は無理をせず、痛みが和らいできた3〜4日目ごろから取り入れるとよいでしょう。
🔍 筋肉痛と間違えやすい他の症状・疾患
引っ越し後の体の痛みを「ただの筋肉痛」と判断して放置してしまうことで、重要な疾患や損傷の発見が遅れるケースがあります。筋肉痛と混同しやすい疾患や状態について知っておきましょう。
腰椎捻挫(ぎっくり腰)は、引っ越し作業中に非常に起こりやすい急性の腰部障害です。重い荷物を不適切な体勢で持ち上げた際に突然「ぐき」とした感覚とともに激痛が走ります。腰部の筋肉や靭帯の損傷であり、筋肉痛よりも強い痛みで動けなくなることが多いのが特徴です。腰椎捻挫は適切な安静と治療が必要であり、悪化すると慢性腰痛につながる可能性があります。
椎間板ヘルニアも引っ越し作業がきっかけで発症または悪化することがあります。椎間板(背骨の間のクッション)が飛び出し、神経を圧迫する状態で、腰の痛みだけでなく足や臀部への放散痛(坐骨神経痛)、しびれ、筋力低下などを伴うことが特徴です。腰から足にかけての電気が走るような痛みやしびれがある場合は、単なる筋肉痛ではなく椎間板ヘルニアの可能性を念頭に置く必要があります。
肩腱板損傷は、肩を酷使した際に肩の回旋腱板(ローテーターカフ)が損傷する状態です。肩の筋肉痛と似た症状を示しますが、特定の方向に腕を動かすと激しく痛む、腕が上がらない、夜間痛(夜に痛みが悪化する)などが特徴的です。放置すると慢性化し、治療が難しくなるため早期の診断が重要です。
横紋筋融解症は、筋肉痛と混同されやすいものの、重大な合併症を引き起こす可能性がある状態です。筋肉細胞が大規模に壊れ、その内容物が血液中に流れ出す状態で、重度の筋肉の痛みや脱力、コーラ色や茶色の尿(ミオグロビン尿)が特徴的な症状です。横紋筋融解症は腎不全を引き起こす危険があるため、尿の色に異常がある場合は直ちに医療機関を受診する必要があります。引っ越しという極端に激しい肉体労働の後に発症することがあり、特に普段運動をしていない方、高温多湿の環境で作業した方、水分摂取が不足していた方は注意が必要です。
深部静脈血栓症(DVT)も見逃してはならない状態です。長時間同じ姿勢で重い荷物を運んだり、荷物の積み下ろし中に足への負担が集中したりすることで、足の静脈に血栓(血の塊)が形成されることがあります。片側の足のみに強い痛み、腫れ、熱感、発赤が見られる場合は筋肉痛ではなくDVTを疑う必要があります。血栓が肺に飛ぶと肺塞栓症という生命に関わる状態になるため、早急な対応が必要です。
関節の損傷(捻挫や骨折など)も作業中に起こり得ます。荷物をひっかけた、つまずいた、重いものを落としたなど、外力が加わった後に特定の関節に痛みや腫れがある場合、骨折や靭帯損傷の可能性を考える必要があります。これらは筋肉痛とは異なる治療が必要です。

📝 医療機関を受診すべきサインと目安
引っ越し後の体の不調のほとんどは、休息と適切なセルフケアで回復します。しかし、以下のような症状がある場合は、単なる筋肉痛ではない可能性があり、医療機関への受診を検討する必要があります。
尿の色が茶色・赤みがかっている場合は、横紋筋融解症による腎障害が疑われます。この場合は様子を見ず、速やかに救急または泌尿器科・内科を受診してください。
片側の足だけが腫れており、強く痛む、熱を持つという症状があれば深部静脈血栓症の可能性があります。胸の痛みや息苦しさを伴う場合は特に緊急性が高く、救急受診が必要です。
腰から足にかけての強い放散痛やしびれがある場合は、椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症を疑います。特に排尿・排便の困難(馬尾症候群)が生じている場合は、緊急の処置が必要になることがあるため、速やかに整形外科を受診してください。
高熱(38度以上)を伴う筋肉痛は、感染症や炎症性疾患の可能性があります。筋肉痛だけでは通常、高熱は起こりません。
1週間以上、痛みが改善しないまたは悪化している場合も受診の目安です。通常の遅発性筋肉痛は1週間以内に回復します。それを超えて痛みが持続・増悪する場合は、筋損傷の程度が重い、または別の原因が隠れている可能性があります。
関節部分に強い痛みや腫れ、変形がある場合は骨折や靭帯断裂の可能性があります。特に転倒や衝撃があった後に関節が痛む場合は、整形外科での画像検査(レントゲン・MRIなど)が必要です。
受診先の選び方としては、腰痛や関節痛には整形外科、尿の色の変化や全身倦怠感が強い場合は内科、急を要する症状(強い胸痛・呼吸困難・意識障害)は救急を選択することが基本的な目安となります。
💡 引っ越し作業前にできる筋肉痛の予防策
引っ越しはどうしても肉体労働が伴いますが、事前の準備によって筋肉痛の程度を大幅に軽減することが可能です。引っ越し前から実践できる予防策を紹介します。
引っ越しの数週間前から軽い筋力トレーニングや有酸素運動を習慣化することは、最も効果的な予防策です。スクワット、腹筋、背筋など、引っ越し作業で使う筋肉を事前に鍛えておくことで、同じ負荷がかかっても筋線維の損傷が起こりにくくなります。ウォーキングや軽いジョギングで基礎体力を高めておくことも有効です。ただし、直前(2〜3日以内)に激しいトレーニングをすると、引っ越し時にすでに筋肉痛の状態でスタートすることになるため逆効果です。
引っ越し当日の準備運動(ウォームアップ)を必ず行いましょう。冷えた筋肉は柔軟性が低く、急な負荷に対して損傷しやすい状態にあります。作業開始前に5〜10分かけて全身のストレッチや軽い動的ウォームアップ(足踏み、肩回し、腰を回すなど)を行うことで、筋肉への血流を高め、怪我や筋線維損傷のリスクを下げることができます。
正しい荷物の持ち方を意識することは、腰への負担を大幅に軽減します。荷物を持ち上げる際は、膝を曲げた状態でしゃがみ込み、背中をまっすぐ保ちながら脚の力を使って立ち上がる「デッドリフト」の要領を実践してください。背中を丸めた状態で持ち上げると、腰の筋肉への負担が3〜5倍以上になるといわれています。
腰部サポーターやコルセットを使用することも予防に役立ちます。特に腰痛の既往がある方や、腰回りの筋力に自信がない方は、引っ越し作業中にサポーターを着用することで腰への負担を分散し、損傷リスクを下げることができます。ただし、サポーターに頼りすぎると筋肉が弱化するため、日常的な使用は推奨されません。
作業中の水分・塩分補給も怠らないようにしましょう。大量の汗をかくと電解質も失われます。水だけでなく、スポーツドリンクや塩分タブレットを活用して電解質補給も行い、筋肉の疲労や痙攣(こむら返り)を予防しましょう。30分〜1時間ごとを目安に水分補給の休憩を入れることをお勧めします。
作業を詰め込みすぎず、適切な休憩を挟むことも重要です。「今日中に全部終わらせたい」という気持ちはよくわかりますが、筋肉は継続して酷使されると急速に疲弊し、損傷しやすくなります。1〜2時間作業したら15〜20分程度の休憩を取る、重い作業と軽い作業を交互に行うなど、筋肉に回復の時間を与えながら作業を進めましょう。
翌日以降に回復できる計画を立てることも、広い意味での予防策です。引っ越し翌日に重要な仕事や予定を入れないようにスケジュールを組み、体の回復にあてる時間を確保しておくと、焦りによる無理な活動を防ぐことができます。
サプリメントの活用も選択肢のひとつです。クレアチン、BCAAアミノ酸(バリン・ロイシン・イソロイシン)、タルト(サワー)チェリーエキスなどは、遅発性筋肉痛の軽減に一定の効果があるとする研究報告があります。ただし、効果や安全性には個人差があり、持病や服薬中の薬との相互作用なども考慮する必要があります。心配な方は医師や薬剤師に相談の上で利用するとよいでしょう。

👨⚕️ 当院での診療傾向【医師コメント】
高桑康太 医師(当院治療責任者)より
「引っ越し後の筋肉痛は、当院でも大型連休や3月・4月の引っ越しシーズンに多くご相談いただく症状のひとつです。多くの場合は遅発性筋肉痛であり、適切な休息と水分・栄養補給で1週間程度での回復が見込めますが、尿の色の変化や片側の足の腫れ・しびれなど気になる症状を伴う際は、横紋筋融解症や深部静脈血栓症といった見逃せない疾患が隠れている可能性がありますので、ご自身での判断に迷われたら早めにご相談ください。引っ越しという大切な節目を体の不安なく迎えていただけるよう、当院ではていねいな診察・説明を心がけておりますので、どうぞお気軽にお越しください。」
✨ よくある質問
引っ越し作業で筋線維に微細な損傷が生じ、その修復のために炎症反応が起こることが原因です。この「遅発性筋肉痛(DOMS)」は作業から8〜24時間後に現れ始め、24〜72時間後にピークを迎えます。かつて原因とされた乳酸説は現在では否定されており、筋線維の損傷と炎症が主なメカニズムとされています。
通常の遅発性筋肉痛であれば、1週間程度でほぼ回復します。作業翌々日(48〜72時間後)に痛みがピークになることも珍しくなく、その後は徐々に和らいでいきます。ただし、1週間以上痛みが続いたり悪化したりする場合は、別の原因が考えられるため医療機関への受診をお勧めします。
作業後48時間以内の急性期はアイシング(保冷剤をタオルに包んで15〜20分当てる)が有効です。その後は温熱療法や軽いストレッチで血行を促進しましょう。また、十分な睡眠と水分補給、たんぱく質を中心とした栄養摂取も回復を助けます。急性期の長風呂や激しい運動、過度な飲酒は回復を遅らせるため避けてください。
以下の症状がある場合は、単なる筋肉痛ではない可能性があるため速やかに受診してください。①尿が茶色・赤みがかっている(横紋筋融解症の疑い)②片側の足だけが腫れて強く痛む(深部静脈血栓症の疑い)③腰から足へのしびれや放散痛(椎間板ヘルニアの疑い)④38度以上の発熱を伴う筋肉痛。当院でもご相談を受け付けております。
数週間前からスクワットや背筋などの軽い筋力トレーニングを習慣化しておくと、筋線維の損傷を起こりにくくできます。当日は作業前に5〜10分のウォームアップを行い、荷物を持ち上げる際は膝を曲げて背筋を伸ばした姿勢を意識しましょう。また、30〜60分ごとの水分補給と適切な休憩を取り入れることも重要な予防策です。

📌 まとめ
引っ越し後の筋肉痛は、慣れない肉体労働によって筋線維に微細な損傷が生じ、炎症反応が起こることで発生する「遅発性筋肉痛」です。多くの場合、作業から24〜72時間後にピークを迎え、1週間程度で自然に回復します。特に腰・背中、太もも、肩、腕などに強い痛みが出やすく、普段運動をしていない方ほど症状が強く現れます。
回復を促進するためには、十分な休息と睡眠、適切な水分・栄養補給、急性期のアイシング、その後の温熱療法と軽いストレッチが効果的です。一方で、急性期の長風呂や激しい運動、過度な飲酒などは回復を妨げるため避けましょう。
また、尿の色の変化、片側だけの足の腫れと強い痛み、腰から足へのしびれや放散痛、1週間以上続く悪化しない痛みなど、通常の筋肉痛とは異なる症状がある場合は、横紋筋融解症、深部静脈血栓症、椎間板ヘルニアなどの可能性も考え、速やかに医療機関を受診することが重要です。
引っ越し前には、数週間前からの筋力トレーニング、当日のウォームアップ、正しい荷物の持ち方、こまめな水分補給、適切な休憩などを心がけることで、筋肉痛の程度を大幅に軽減できます。引っ越しという大きなライフイベントをできるだけ体への負担少なく乗り越えるために、本記事の情報がお役に立てば幸いです。体の不調で心配なことがあれば、一人で悩まずに医療機関に相談することをお勧めします。
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📚 参考文献
- 厚生労働省 – 運動・身体活動に関する基本的な考え方や筋肉への負荷・疲労回復に関する公式情報。遅発性筋肉痛(DOMS)のメカニズムや適切な休息・水分補給の推奨事項の根拠として参照。
- PubMed – 遅発性筋肉痛(DOMS)の発生メカニズム(筋線維の微細損傷・炎症反応)、乳酸説の否定、エキセントリック収縮との関連、NSAIDsの使用影響、アクティブリカバリーの効果などに関する学術的根拠として参照。
- WHO(世界保健機関) – 身体活動・運動に関する国際的なガイドライン。筋肉への負荷管理、適切な運動習慣の形成、横紋筋融解症や深部静脈血栓症などの重篤なリスクに関する国際標準的見解の根拠として参照。
監修者医師
高桑 康太 医師
保有資格
ミラドライ認定医
略歴
- 2009年 東京大学医学部医学科卒業
- 2009年 東京逓信病院勤務
- 2012年 東京警察病院勤務
- 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
- 2019年 当院治療責任者就任
- 皮膚腫瘍・皮膚外科領域で15年以上の臨床経験と30,000件超の手術実績を持ち、医学的根拠に基づき監修を担当
- 専門分野:皮膚腫瘍、皮膚外科、皮膚科、形成外科
- 臨床実績(2024年時点) 皮膚腫瘍・皮膚外科手術:30,000件以上、腋臭症治療:2,000件以上、酒さ・赤ら顔治療:1,000件以上
- 監修領域 皮膚腫瘍(ほくろ・粉瘤・脂肪腫など)、皮膚外科手術、皮膚がん、一般医療コラムに関する医療情報
佐藤 昌樹 医師
保有資格
日本整形外科学会整形外科専門医
略歴
- 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
- 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
- 2012年 東京逓信病院勤務
- 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
- 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務