「周囲の人が気にしないような些細なことが気になる」「人混みや大きな音が苦手で疲れやすい」「他人の気持ちに敏感で、つい振り回されてしまう」——こうした経験に心当たりがある方は、HSP(Highly Sensitive Person:ハイリー・センシティブ・パーソン)の気質を持っているかもしれません。HSPとは、生まれつき感受性が非常に高く、外部からの刺激に敏感に反応する人のことを指します。これは病気や障害ではなく、人口の15~20%、つまり約5人に1人が持つとされる生まれつきの気質です。大人になってから「なんとなく生きづらい」と感じ、過去を振り返ったときに「もしかしたらHSPかもしれない」と気づく方も少なくありません。本記事では、大人の方向けにHSPの特徴や診断テストの方法、発達障害やうつ病との違い、そして日常生活での対処法について詳しく解説します。自分自身の特性を理解し、より快適に過ごすためのヒントとしてお役立てください。

目次
- HSPとは?基本的な概念と定義
- HSPの4つの特性「DOES」とは
- 大人のHSP診断テストについて
- HSPセルフチェックリスト(23項目)
- HSPと発達障害の違い
- HSPとうつ病・不安障害の違い
- HSPの4つのタイプ
- HSPの長所と強み
- HSPの対処法とセルフケア
- 医療機関を受診すべきサイン
- よくある質問
- まとめ
HSPとは?基本的な概念と定義
HSPとは「Highly Sensitive Person(ハイリー・センシティブ・パーソン)」の略称で、日本語では「とても敏感な人」「非常に繊細な人」などと訳されます。この概念は、1996年にアメリカの心理学者エレイン・N・アーロン博士によって提唱されました。アーロン博士の研究によると、HSPの特性は人口の約15~20%に見られ、これは決して珍しいものではありません。5人に1人がHSPの傾向を持っているということになります。
HSPは病気や障害ではなく、生まれつき持っている気質(temperament)の一種です。環境や育て方によって後天的に身につくものではなく、先天的な神経系の特性によるものとされています。HSPの方は、脳の扁桃体と呼ばれる感情を司る部位が、一般の人よりも活発に働く傾向があります。このため、外部からの刺激に対して強く反応し、不安や恐怖を感じやすいという特徴があります。
日本では近年「繊細さん」という愛称でも知られるようになり、HSPに関する書籍やメディアでの取り上げが増えています。しかし、HSPという概念が広まる一方で、誤解も生じています。HSPは単に「神経質」「内気」というわけではなく、より深い情報処理能力や高い共感性といったポジティブな側面も併せ持つ特性です。自分がHSPかもしれないと思った場合、その特性を正しく理解し、上手に付き合っていくことが大切です。
HSPの4つの特性「DOES」とは
アーロン博士は、HSPに共通して見られる4つの特性を「DOES(ダズ)」という頭文字でまとめています。これら4つの特性すべてに当てはまる人がHSPであるとされています。それぞれの特性について詳しく見ていきましょう。
D:Depth of Processing(深く処理する)
HSPの方は、物事を深く考え、慎重に処理する傾向があります。一つの情報を受け取ったとき、それをさまざまな角度から分析し、過去の経験と照らし合わせながら深く考えます。例えば、誰かから「ちょっと話がある」と言われたとき、その言葉の裏にある意味や相手の意図について、何通りものパターンを想像してしまうことがあります。
この特性により、HSPの方は浅い会話よりも哲学的で深い話題を好む傾向があります。また、調べ物を始めると徹底的に掘り下げ、周囲が驚くほどの知識を蓄えることもあります。ただし、深く考えすぎるがゆえに、決断に時間がかかったり、行動が慎重になりすぎたりすることもあります。
O:Overstimulation(過剰に刺激を受けやすい)
HSPの方は、外部からの刺激を過剰に受け取りやすい傾向があります。音、光、匂い、味、触感など、五感を通じて入ってくる情報すべてに敏感に反応します。人混みや騒がしい場所、まぶしい照明、強い香りなどに長時間さらされると、他の人よりも早く疲労を感じます。
友人との楽しい時間を過ごした後でも、帰宅すると強い疲労感を覚えることがあります。これは、楽しんでいる間も無意識のうちに周囲の刺激を処理し続けているためです。また、サイレンの音や工事の騒音、隣の人の話し声など、日常的な音にも過敏に反応し、集中力が削がれることがあります。
E:Emotional Reactivity and Empathy(感情的な反応が強く、共感力が高い)
HSPの方は、自分自身の感情だけでなく、他者の感情にも強く反応します。相手のちょっとした表情の変化や声のトーンから、その人が何を感じているかを敏感に察知することができます。映画やドラマ、小説などの作品に深く感情移入し、登場人物の悲しみや喜びを自分のことのように感じることも珍しくありません。
この高い共感力は、人間関係において大きな強みとなりますが、同時に負担にもなり得ます。周囲の人がネガティブな感情を抱いていると、その影響を受けて自分も落ち込んでしまうことがあります。また、ニュースで悲しい出来事を見聞きすると、数日間引きずってしまうこともあります。
S:Sensitivity to Subtleties(些細な刺激を察知する)
HSPの方は、他の人が気づかないような微細な変化や刺激を察知する能力を持っています。部屋の中のわずかな匂いの変化、相手の服装のちょっとした違い、会話の中の微妙なニュアンスなど、細部にまで注意が向きます。この鋭い観察力により、問題を早期に発見したり、リスクを事前に回避したりすることができます。
一方で、些細なことにも気づいてしまうため、それらすべてを処理しようとして疲れてしまうこともあります。例えば、会議中に話の内容だけでなく、参加者それぞれの表情や態度の変化、室温、照明の明るさなど、さまざまな情報を同時に処理しようとするため、終わった後にどっと疲れを感じることがあります。
大人のHSP診断テストについて
HSPは医学的な診断名ではないため、病院で「HSP」という診断を受けることはできません。しかし、自分がHSPの特性を持っているかどうかを知るためのセルフチェックは可能です。アーロン博士が作成したHSP診断テストは、世界中で広く使用されており、日本語版も存在します。
このセルフチェックテストは、23~27項目の質問で構成されています。各質問に対して「はい」か「いいえ」で回答し、「はい」と答えた項目が12個以上ある場合、HSPの傾向があるとされています。ただし、「はい」の数が少なくても、特定の項目に非常に強く当てはまる場合は、HSPの可能性があるとも言われています。
重要なのは、このテストはあくまでも自己理解を深めるためのツールであり、医学的な診断に代わるものではないということです。テストの結果はひとつの参考として捉え、自分の特性を客観的に見つめ直すきっかけとして活用するのがよいでしょう。もし日常生活に支障が出るほどの困りごとがある場合は、心療内科や精神科などの専門機関への相談をお勧めします。
HSPセルフチェックリスト(23項目)
以下は、アーロン博士が作成したHSPセルフチェックリストの日本語版です。各質問について、「少しでも当てはまる」と感じたら「はい」、「まったく当てはまらない」または「ほとんど当てはまらない」と感じたら「いいえ」と回答してください。
1. 自分を取り巻く環境の微妙な変化によく気づくほうだ
2. 他人の気分に左右される
3. 痛みにとても敏感である
4. 忙しい日々が続くと、ベッドや暗い部屋などプライバシーが得られ、刺激から逃れられる場所にひきこもりたくなる
5. カフェインに敏感に反応する
6. 明るい光や強い匂い、ざらざらした布地、サイレンの音などに圧倒されやすい
7. 豊かな想像力を持ち、空想にふけりやすい
8. 騒音に悩まされやすい
9. 美術や音楽に深く心動かされる
10. とても良心的である
11. すぐにびっくりする(驚きやすい)
12. 短時間にたくさんのことをしなければならないとき、混乱してしまう
13. 人が何かで不快な思いをしているとき、どうすれば快適になるかすぐに気づく(たとえば電灯の明るさを調節する、席を替えるなど)
14. 一度にたくさんのことを頼まれるのがイヤだ
15. ミスをしたり、物を忘れたりしないようにいつも気をつける
16. 暴力的な映画やテレビ番組は見ないようにしている
17. あまりにもたくさんのことが自分の周りで起こっていると、不快になり神経が高ぶる
18. 空腹になると、集中できないとか気分が悪くなるといった強い反応が起こる
19. 生活に変化があると混乱する
20. デリケートな香りや味、音、音楽などを好む
21. 動揺するような状況を避けることを、普段の生活で最優先している
22. 仕事をするとき、競争させられたり、観察されていると、緊張し、いつもの実力を発揮できなくなる
23. 子どものころ、親や教師は自分のことを「敏感だ」とか「内気だ」と思っていた
上記23項目のうち、12個以上に「はい」と答えた場合、HSPの特性を持っている可能性が高いとされています。また、該当する項目が少なくても、それぞれの項目に非常に強く当てはまると感じる場合も、HSPの傾向があると考えられます。このチェックリストはあくまで自己理解のためのものであり、結果に囚われすぎず、自分自身を知るための一つの手がかりとして活用してください。
HSPと発達障害の違い
HSPと発達障害(特にASD:自閉スペクトラム症やADHD:注意欠如多動症)は、「感覚過敏」という共通した特徴を持つことがあるため、混同されることがあります。しかし、両者は本質的に異なるものです。ここでは、その違いについて詳しく解説します。
まず、発達障害は脳機能の発達に関連する障害であり、医学的な診断基準(DSM-5やICD-11など)が存在します。脳内での情報伝達の仕方が一般の人と異なるため、日常生活やコミュニケーションにおいてさまざまな困難が生じることがあります。一方、HSPは病気や障害ではなく、心理学的な概念として提唱された生まれつきの気質です。医学的な診断基準は存在しません。
感覚過敏という点では似た症状が見られますが、その背景にあるメカニズムは異なります。HSPの場合は、脳の扁桃体が過剰に働くことで刺激に対して敏感に反応するとされています。一方、発達障害における感覚過敏は、感覚情報を処理する脳の部位の働き方の違いによるものです。
また、共感力という点でも大きな違いがあります。HSPの方は他者の感情を敏感に察知し、高い共感力を持つことが特徴です。一方、ASDの特性を持つ方は、他者の気持ちを直感的に理解することが難しい場合があり、社会的なコミュニケーションに困難を感じることがあります。ただし、ASDの方でも論理的に相手の気持ちを推測し、配慮することは可能です。
ADHDとHSPにも違いがあります。ADHDの「衝動性」や「注意散漫」は、刺激に対して即座に反応してしまう特性ですが、HSPは刺激を深く処理するため、むしろ慎重に行動する傾向があります。ただし、HSS型HSP(刺激を求める傾向があるHSP)の場合は、ADHDと似た特性が見られることもあります。
重要なのは、自分がHSPだと思っていても、実際には発達障害が背景にある可能性もあるということです。日常生活に大きな支障が出ている場合や、適切なサポートが必要な場合は、自己判断せず、専門の医療機関を受診することをお勧めします。
HSPとうつ病・不安障害の違い
HSPの特性を持つ方は、その敏感さゆえにストレスを溜めやすく、うつ病や不安障害などの精神疾患と誤解されることがあります。しかし、HSPそのものは病気ではなく、気質であるという点で両者は根本的に異なります。
うつ病は、脳内の神経伝達物質のバランスが崩れることで生じる精神疾患です。「気分の落ち込み」「興味や喜びの喪失」「睡眠障害」「食欲の変化」「集中力の低下」「自己価値感の低下」などの症状が2週間以上続く場合に診断されます。これらの症状は、適切な治療(薬物療法や心理療法など)によって改善が期待できます。
一方、HSPは生まれつきの気質であり、「治す」という概念は当てはまりません。HSPの方は刺激に敏感で疲れやすい傾向がありますが、休息を取れば回復します。うつ病の場合は、休んでも回復しにくく、日常生活全般に支障が出ることが特徴です。
ただし、HSPの特性を持つ方がうつ病や不安障害を発症するリスクは、一般の方よりも高いとされています。これは、HSPの方がストレスを溜め込みやすく、自己肯定感が低くなりやすいことが関係しています。敏感さゆえに周囲との違いを感じて居場所がないと思ったり、自分を責めすぎたりすることで、心身のバランスを崩してしまうことがあります。
また、不安障害についても同様です。HSPの方は不安を感じやすい傾向がありますが、それ自体は気質の一部です。しかし、不安が過度に強くなり、パニック発作が起きたり、日常生活に支障が出たりする場合は、不安障害として治療が必要になることがあります。
見分けるポイントとしては、「症状がいつから始まったか」が重要です。HSPの特性は子どもの頃から一貫して見られますが、うつ病や不安障害は特定の時期から症状が現れます。また、「日常生活への支障の程度」も判断材料になります。HSPの方も疲れやすさはありますが、生活を工夫すれば問題なく過ごせることが多いです。一方、精神疾患の場合は、自力での対処が困難なレベルにまで症状が進行することがあります。
HSPの4つのタイプ
HSPは一様ではなく、いくつかのタイプに分類されることがあります。アーロン博士の研究をベースに、現在では主に4つのタイプが知られています。自分がどのタイプに近いかを知ることで、より適切な対処法を見つけやすくなるでしょう。
内向型HSP(HSP)
最も一般的なタイプで、HSPの約70%がこのタイプに該当するとされています。内向的で、一人の時間を好み、静かな環境でエネルギーを回復します。人との交流は楽しめますが、長時間続くと疲れてしまいます。深い思考や創造的な活動を好み、慎重で観察力に優れています。
外向型HSP(HSE:Highly Sensitive Extrovert)
HSPでありながら外向的な性格を持つタイプです。人との交流からエネルギーを得ますが、同時に敏感さも持ち合わせています。社交的で人と接することを楽しみますが、刺激が強すぎると疲れてしまうため、バランスを取ることが大切です。周囲からは「社交的なのに繊細」という印象を持たれることがあります。
刺激追求型HSP(HSS型HSP:High Sensation Seeking HSP)
HSPの敏感さを持ちながらも、新しい体験や刺激を求める傾向があるタイプです。心理学者マービン・ズッカーマンが提唱した「刺激追求性(High Sensation Seeking)」とHSPの特性を併せ持っています。好奇心旺盛で新しいことに挑戦したいという欲求がありますが、同時に敏感なため、刺激を受けた後に疲労を感じやすいという矛盾を抱えています。アクセルとブレーキを同時に踏んでいるような状態になりやすく、自己管理が特に重要なタイプです。
刺激追求型・外向型HSP(HSS型HSE)
外向的で社交的であり、かつ新しい刺激を求める傾向があるHSPです。活発で行動的に見えますが、内面では敏感さを持っているため、周囲からはその繊細さが理解されにくいことがあります。外では活発に振る舞いながらも、帰宅後はぐったりと疲れてしまうことが多いです。
これらのタイプ分類は、自分の傾向を理解するための参考として役立ちます。ただし、どのタイプに完全に当てはまるというよりも、複数の要素を持ち合わせていることも珍しくありません。大切なのは、自分がどのような場面で疲れやすく、どのような環境で力を発揮できるかを把握することです。
HSPの長所と強み
HSPは「生きづらさ」と結びつけて語られることが多いですが、実は多くの長所や強みを持っています。自分の特性を理解し、ポジティブな面に目を向けることで、HSPを自分の才能として活かすことができます。
高い共感力と思いやり
HSPの方は、他者の感情を敏感に察知し、深く共感することができます。この能力は、人間関係において大きな強みとなります。相手が何を求めているか、どうすれば快適に過ごせるかを自然と理解できるため、気配りができる人として信頼されることが多いです。カウンセラー、看護師、介護職、教育者など、人に寄り添う仕事で能力を発揮できる可能性があります。
深い思考力と洞察力
物事を表面的に捉えず、多角的な視点から深く考える能力があります。このため、問題の本質を見抜いたり、他の人が気づかないような解決策を見つけたりすることができます。研究職、分析業務、戦略立案など、深い思考が求められる分野で力を発揮できるでしょう。
鋭い観察力と細部への注意力
些細な変化や細部に気づく能力は、品質管理や編集、校正、デザインなどの分野で大きな強みとなります。ミスを見逃さず、細部まで丁寧に仕上げることができるため、正確性が求められる仕事で高い評価を得られることがあります。
豊かな創造性と芸術的感性
HSPの方は、美しいものや芸術作品に深く心を動かされる傾向があります。この豊かな感受性は、創造的な活動において大きな資産となります。音楽、美術、文学、写真など、芸術的な分野で独自の表現を生み出すことができます。また、豊かな想像力を持っているため、アイデアを生み出すことにも長けています。
危機察知能力とリスク回避
些細な変化や異常にいち早く気づく能力は、危機を未然に防ぐことに役立ちます。職場でトラブルの予兆を察知したり、人間関係の問題を早期に発見したりすることができます。この能力は、チームや組織にとって貴重なものであり、HSPの存在は集団の安全に貢献しているとも言えます。
HSPの対処法とセルフケア
HSPは生まれつきの気質であり、「治す」ものではありません。しかし、自分の特性を理解し、適切な対処法を身につけることで、日常生活をより快適に過ごすことができます。以下に、HSPの方におすすめのセルフケア方法を紹介します。
自分の限界を知り、休息を取る
HSPの方は刺激を受けやすいため、一般の方よりも多くの休息が必要です。疲れを感じたら無理をせず、一人になれる静かな場所で休むことが大切です。忙しい日が続いた後は、意識的に「何もしない時間」を確保しましょう。自分の限界を超える前に休息を取ることで、心身のバランスを保つことができます。
刺激を調整する環境づくり
日常生活の中で受ける刺激を減らす工夫をしましょう。例えば、ノイズキャンセリングイヤホンやヘッドホンを使用して周囲の音を遮断する、サングラスをかけてまぶしさを軽減する、肌触りの良い衣服を選ぶなどの方法があります。自宅の環境を整えることも重要で、間接照明を使ったり、香りや色を工夫したりして、リラックスできる空間を作りましょう。
自分の感情を言語化する
HSPの方は周囲の影響を受けやすく、自分の本当の気持ちがわからなくなることがあります。日記やメモを通じて自分の感情や考えを言語化する習慣をつけましょう。「今日どんなことにストレスを感じたか」「どんな場面で疲れたか」を記録することで、自分のパターンを把握し、対策を立てやすくなります。
境界線を設ける
HSPの方は共感力が高いため、他者の問題を自分のことのように引き受けてしまいがちです。自分と他者の間に適切な境界線を引くことを意識しましょう。すべての頼みごとを引き受ける必要はありませんし、他者の感情に巻き込まれすぎる必要もありません。「これは自分の問題か、相手の問題か」を区別する練習をしてみてください。
信頼できる人とのつながりを持つ
HSPの特性を理解してくれる人との関係は、大きな安心感をもたらします。すべての人に自分のことを分かってもらう必要はありませんが、少なくとも一人か二人、安心して話せる相手がいると心強いでしょう。HSPの方向けのコミュニティやイベントに参加して、同じ特性を持つ人とつながるのも一つの方法です。
リラクゼーション法を身につける
ストレスを溜め込まないために、自分に合ったリラクゼーション法を見つけましょう。深呼吸、瞑想、ヨガ、アロマテラピー、入浴、散歩、自然の中で過ごすなど、さまざまな方法があります。自分がリラックスできると感じる方法を見つけ、日常的に実践することで、ストレスの蓄積を防ぐことができます。
自分の強みを活かす環境を選ぶ
仕事や生活環境を選ぶ際には、HSPの特性を活かせるかどうかを考慮しましょう。騒がしい環境や過度のプレッシャーがかかる職場は避け、自分のペースで仕事ができる環境を選ぶことが大切です。また、HSPの強みである共感力や深い思考力を活かせる分野で活躍することで、自己肯定感を高めることができます。
医療機関を受診すべきサイン
HSPは病気ではないため、通常は医療機関での治療は必要ありません。しかし、以下のような状況がある場合は、心療内科や精神科への受診を検討することをお勧めします。
まず、眠れない状態が続いている場合です。HSPの方は疲れやすく、通常は十分な睡眠を必要とします。そのため、眠れなくなることは重大なサインです。不眠が続くと心身のバランスがさらに崩れ、うつ病などの精神疾患につながる可能性があります。
次に、日常生活に大きな支障が出ている場合です。仕事に行けない、家事ができない、人と会うことがどうしてもできないなど、生活に必要な活動ができなくなっている場合は、専門家の助けが必要です。
また、理由もなく涙が止まらない、強い不安感や恐怖感が続く、自分を傷つけたいという衝動がある場合も、すぐに医療機関を受診してください。これらは精神疾患の症状である可能性があり、適切な治療が必要です。
さらに、自分がHSPなのか発達障害なのか判断がつかない場合も、専門家に相談することで適切なサポートを受けられます。発達障害の場合は、HSPとは異なるアプローチが必要になることがあります。
医療機関を受診する際には、「HSPではないか」と思っていることを伝えた上で、精神医学的な観点からの診断を受けることが大切です。HSPという診断はつきませんが、背景にある問題(うつ病、不安障害、発達障害など)がある場合は、それに応じた治療を受けることができます。

よくある質問
HSPは医学的な診断名ではないため、病院で「HSP」という診断を受けることはできません。HSPはアメリカの心理学者が提唱した心理学的な概念であり、病気や障害ではなく生まれつきの気質を指します。ただし、HSPの特性によって日常生活に困難が生じている場合は、心療内科や精神科を受診することで、背景にある問題(うつ病、不安障害、発達障害など)の診断・治療を受けることができます。また、カウンセリングを通じてHSPの特性との向き合い方を学ぶことも可能です。
HSPは先天的な気質であり、遺伝的な要素が関係していると考えられています。アーロン博士の研究によると、HSPは環境や育て方によって後天的に身につくものではなく、生まれつきの神経系の特性によるものです。親がHSPの場合、子どもにもその特性が受け継がれる可能性があります。ただし、HSPは病気ではなく気質であるため、遺伝したからといって問題があるわけではありません。むしろ、感受性の高さを長所として活かすことで、豊かな人生を送ることができます。
HSPは病気ではなく生まれつきの気質であるため、「治す」という概念は当てはまりません。薬を飲んだり治療を受けたりしてなくなるものではありません。しかし、自分の特性を理解し、適切な対処法を身につけることで、生きづらさを軽減することは可能です。環境を整える、刺激を調整する、休息を十分に取る、ストレス管理を行うなどの工夫により、HSPの特性と上手に付き合いながら、自分らしく快適に過ごすことができます。大切なのは、HSPを「克服すべき欠点」ではなく「自分の個性」として受け入れることです。
HSPの特性を活かせる仕事は多くあります。高い共感力を活かせるカウンセラー、看護師、介護職、保育士などの対人援助職、深い思考力と観察力を活かせる研究職、編集者、校正者、品質管理、細やかな感性を活かせるデザイナー、ライター、カメラマン、音楽家などのクリエイティブ職、正確性が求められる事務職、経理、プログラマーなどが挙げられます。また、一人で集中して作業できる環境や、自分のペースで仕事を進められる職場が向いています。ただし、個人差があるため、自分が何にやりがいを感じるかを大切にして職業を選ぶことが重要です。
HSPには男女差はないとされています。アーロン博士の研究によると、HSPの割合は男女比でほぼ50対50であり、人種、性別、年齢などの要素に左右されないと考えられています。ただし、社会的な期待や文化的な背景により、HSPの表れ方や受け止められ方には違いがある可能性があります。例えば、男性は「強くあるべき」という社会的プレッシャーから自分の敏感さを隠そうとする傾向があるかもしれません。一方、女性は感情表現が受け入れられやすい社会的傾向があるため、HSPの特性を表に出しやすい場合があります。
まとめ
HSP(Highly Sensitive Person)は、生まれつき感受性が非常に高く、外部からの刺激に敏感に反応する気質のことです。病気や障害ではなく、人口の約15~20%が持つとされる先天的な特性であり、「DOES」と呼ばれる4つの特徴(深く処理する、過剰に刺激を受けやすい、感情的な反応が強く共感力が高い、些細な刺激を察知する)によって特徴づけられます。
アーロン博士が作成したセルフチェックリストを活用することで、自分がHSPの傾向を持っているかどうかを確認することができます。ただし、これはあくまで自己理解のためのツールであり、医学的な診断に代わるものではありません。HSPと発達障害、うつ病などは似た症状を示すことがあるため、日常生活に支障が出ている場合は専門の医療機関への相談をお勧めします。
HSPには、高い共感力、深い思考力、鋭い観察力、豊かな創造性といった多くの長所があります。これらの特性を活かすことで、仕事や人間関係において大きな強みを発揮することができます。一方で、刺激を受けやすく疲れやすいという特徴もあるため、休息を十分に取ること、環境を整えること、自分の限界を知ることなど、適切なセルフケアを行うことが大切です。
HSPは「治す」べきものではなく、「上手に付き合っていく」ものです。自分の特性を否定するのではなく、理解し、受け入れることで、より自分らしく快適な生活を送ることができます。もし生きづらさを感じている方は、この記事を参考に、自分に合った対処法を見つけていただければ幸いです。また、一人で抱え込まず、信頼できる人や専門家に相談することも大切です。あなたの繊細さは、決して弱さではなく、かけがえのない個性なのです。
参考文献
- 厚生労働省「心の健康」
- 厚生労働省「休養・こころの健康」
- 厚生労働省「ストレスチェック等の職場におけるメンタルヘルス対策・過重労働対策等」
- こころの耳「メンタルヘルス対策(心の健康確保対策)に関する施策の概要」
- 武田薬品工業「大人の発達障害ナビ HSPとは」
- 沢井製薬「サワイ健康推進課 心が疲れやすくて生きづらい…それは「HSP」かもしれません」
- アリナミン製薬「HSP(ハイリー・センシティブ・パーソン)とは?敏感で生きづらさを感じる・・・うまく付き合うためのヒントを解説」
- 医療法人社団 平成医会「HSP(Highly Sensitive Person)の特徴と向き合い方」
監修者医師
高桑 康太 医師
略歴
- 2009年 東京大学医学部医学科卒業
- 2009年 東京逓信病院勤務
- 2012年 東京警察病院勤務
- 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
- 2019年 当院治療責任者就任
佐藤 昌樹 医師
保有資格
日本整形外科学会整形外科専門医
略歴
- 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
- 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
- 2012年 東京逓信病院勤務
- 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
- 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務