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「適応障害」と診断されたとき、多くの方が「これからどうすればいいのだろう」という不安を抱えるのではないでしょうか。適応障害は、特定のストレス要因によって心身のバランスが崩れ、日常生活に支障をきたす状態です。近年、働く世代を中心に患者数が増加傾向にあり、決して珍しい疾患ではありません。本記事では、適応障害と診断された方やそのご家族に向けて、診断後にすべきこと、治療法、休職中の過ごし方、利用できる公的支援制度、復職に向けたポイントまで、心療内科・精神科の観点から詳しく解説します。適応障害は適切な治療と環境調整によって回復が期待できる疾患です。焦らず、一歩ずつ回復への道を歩んでいきましょう。


目次

  1. 適応障害とは何か
  2. 適応障害の主な症状
  3. 適応障害の診断基準(DSM-5・ICD-11)
  4. 適応障害と診断されたらまずすべきこと
  5. 適応障害の治療法
  6. 休職と休養について
  7. 利用できる公的制度・支援制度
  8. 回復までの過ごし方(回復の3つのステージ)
  9. 復職に向けて準備すべきこと
  10. 適応障害とうつ病の違い
  11. 家族や周囲の方へ(サポートのポイント)
  12. よくある質問
  13. 参考文献

適応障害とは何か

適応障害(適応反応症)とは、日常生活の中で何らかのストレスが原因となって心身のバランスが崩れ、社会生活に支障が生じた状態をいいます。厚生労働省のe-ヘルスネットでは、「原因が明確でそれに対して過剰な反応が起こった状態」と定義されています。

適応障害の特徴として最も重要なのは、発症のきっかけとなる「ストレス因」が明確であるという点です。職場での人間関係、業務過多、異動や転勤、家庭内の問題、学業のプレッシャー、病気やケガなど、さまざまな出来事がストレス因となり得ます。

適応障害は誰にでも起こり得る疾患です。同じストレスを受けても、その人の性格特性、過去の経験、周囲のサポート状況などによって、適応障害を発症するかどうかは異なります。決して「心が弱いから」「甘えている」というわけではありません。むしろ、真面目で責任感が強く、周囲への気遣いができる方ほど発症しやすい傾向があるともいわれています。

近年、適応障害の患者数は増加傾向にあります。レセプトデータを用いた調査によると、2018年から2022年の5年間で適応障害の患者数は約1.7倍に増加したという報告もあります。また、年代別では20代が最も多いとされており、新社会人や転職後の環境変化がきっかけとなるケースが少なくありません。

適応障害の主な症状

適応障害の症状は多岐にわたり、人によって現れ方が異なります。大きく分けると、精神的な症状、身体的な症状、行動面の変化の3つに分類できます。

精神的な症状

精神的な症状としては、抑うつ気分、不安感、焦燥感、イライラ、緊張、集中力の低下、意欲の減退などが挙げられます。特定のストレス因について繰り返し考えてしまう「反芻思考」も特徴的な症状の一つです。仕事のことが頭から離れない、同じことを何度も考えてしまうといった状態が続くことがあります。

身体的な症状

身体的な症状としては、不眠や過眠などの睡眠障害、頭痛、めまい、動悸、胃痛や腹痛、食欲不振または過食、全身の倦怠感、起床困難などがみられます。ストレスが自律神経系に影響を与えることで、さまざまな身体症状として現れるのです。

行動面の変化

行動面では、遅刻や欠勤の増加、仕事のパフォーマンス低下、人付き合いの回避、過度な飲酒や喫煙、暴食、危険な運転、攻撃的な言動など、普段とは異なる行動が現れることがあります。特に若年層では、不登校や引きこもり、ルールを逸脱した行動として現れることもあります。

これらの症状の大きな特徴は、ストレス因から離れているときには比較的症状が軽減するという点です。たとえば、仕事がストレス因である場合、休日には比較的元気に過ごせることが多いです。これは、後述するうつ病との重要な鑑別ポイントの一つとなります。

適応障害の診断基準(DSM-5・ICD-11)

適応障害の診断には、国際的な診断基準が用いられます。主に使用されるのは、アメリカ精神医学会が作成した「DSM-5」(精神疾患の診断・統計マニュアル第5版)と、世界保健機関(WHO)が作成した「ICD-11」(国際疾病分類第11版)の2つです。

DSM-5による診断基準

DSM-5では、適応障害は「心的外傷およびストレス因関連障害群」に分類されています。診断基準の主なポイントは以下の通りです。まず、はっきりと確認できるストレス因に反応して、そのストレス因の始まりから3か月以内に情動面または行動面の症状が出現していること。次に、これらの症状が臨床的に意味のあるもので、ストレス因に不釣り合いな程度や強度をもつ著しい苦痛、または社会的・職業的・その他の重要な領域における機能の重大な障害があること。そして、他の精神疾患の基準を満たしておらず、すでに存在している精神疾患の単なる悪化でもないこと。さらに、ストレス因またはその結果が終結すると、症状は6か月以内に消失することとされています。

DSM-5では症状の様相によって、「抑うつ気分を伴うもの」「不安を伴うもの」「不安と抑うつ気分の混合を伴うもの」「行為の障害を伴うもの」「情動と行為の混合した障害を伴うもの」「特定不能」の6つのサブタイプに分類されます。

ICD-11による診断基準

2022年から正式に施行されたICD-11では、適応障害の診断基準がより明確化されました。ICD-11の特徴は、「とらわれ」と「適応の失敗」を診断の必須要素としている点です。

「とらわれ」とは、ストレス因やその結果についての過度な心配、繰り返し思い返してしまうこと、その意味についての絶え間ない反芻思考などを指します。「適応の失敗」とは、その結果として日常の個人・家族・社会生活上の役割遂行に著しい支障をきたすことを意味します。

また、ICD-11ではストレス因への曝露から症状出現までの期間を「1か月以内」と規定しており、DSM-5の「3か月以内」よりも短くなっています。これは、ストレスへのより即時的な反応であることを重視しているためです。

いずれの診断基準でも、適応障害の診断において重要なのは、ストレス因の存在が明確であること、他の精神疾患では説明できないこと、そしてストレス因が解消されれば症状も改善に向かうという一過性の特徴があることです。

適応障害と診断されたらまずすべきこと

適応障害と診断されたとき、何から始めればよいのか戸惑う方も多いでしょう。ここでは、診断後にまず取り組むべきことを順を追って説明します。

自分の状態を受け入れる

最初に大切なのは、「今の自分は治療が必要な状態である」ということを受け入れることです。適応障害は決して甘えや怠けではありません。心身が限界を迎えているサインであり、医学的に認められた疾患です。「もう少し頑張れば」「自分が弱いだけ」といった考えは、回復を遅らせる原因になりかねません。まずは自分の状態を客観的に認識し、治療に専念することの重要性を理解しましょう。

主治医の指示に従う

診断を受けたら、主治医の治療方針に従うことが基本です。処方された薬がある場合は指示通りに服用し、定期的な通院を継続しましょう。症状が改善してきたからといって、自己判断で服薬を中止したり通院をやめたりすることは、再発や悪化のリスクを高めます。体調の変化や薬の副作用が気になる場合は、必ず主治医に相談してください。

ストレス因から距離を取る

適応障害の治療において最も重要なのは、ストレス因から距離を取ることです。原因が職場にある場合は休職を検討する、業務内容や配置転換を会社に相談する、人間関係が原因であればその人物との接触を減らすなど、具体的な環境調整を行います。ストレス因が存在し続ける限り、症状の根本的な改善は難しいためです。

職場や学校への報告・相談

仕事や学業がストレス因となっている場合、職場の上司や人事担当者、学校の担任や保健室の先生などに状況を伝えることが必要になります。休職が必要な場合は診断書の提出が求められることが一般的です。伝え方に不安がある場合は、主治医に相談してアドバイスをもらうとよいでしょう。また、産業医がいる職場であれば、産業医面談を活用することも有効です。

利用できる制度を確認する

休職する場合、収入が途絶えることへの不安は大きいものです。傷病手当金や自立支援医療制度など、利用できる公的支援制度を早めに確認しておきましょう。これらの制度については後述しますが、申請には一定の手続きが必要なため、早めの準備が重要です。

適応障害の治療法

適応障害の治療は、大きく分けて「環境調整」「薬物療法」「精神療法(心理療法)」の3つのアプローチがあります。これらを組み合わせて、患者さん一人ひとりの状態に合った治療を行います。

環境調整

適応障害の治療において最も基本となるのが環境調整です。ストレスの原因となっている状況から距離を取り、ストレス要因を軽減または除去することを意味します。具体的には、休職や休学、部署異動や配置転換、業務量の調整、人間関係の整理などが該当します。適応障害は特定のストレス因への反応として発症するため、原因を取り除かない限り症状の根本的な改善は難しいのです。

薬物療法

適応障害の薬物療法は、あくまで対症療法として位置づけられます。不安や不眠、抑うつ気分などの症状を和らげるために、抗不安薬、睡眠導入剤、抗うつ薬などが処方されることがあります。ただし、薬物療法だけで適応障害を治すことはできません。環境調整と併用することで、症状を軽減しながら回復を目指します。

薬を処方された場合は、医師の指示通りに服用することが重要です。特に抗うつ薬は効果が現れるまでに数週間かかることがあり、途中で自己判断でやめてしまうと十分な効果が得られません。また、症状が改善しても、医師と相談せずに急に服用をやめることは避けましょう。

精神療法(心理療法)

精神療法は、カウンセリングや心理療法を通じて、ストレスへの対処能力を高めたり、考え方のパターンを修正したりするアプローチです。適応障害に対しては、特に認知行動療法(CBT)が効果的とされています。

認知行動療法は、ストレスを感じたときの考え方(認知)と行動に焦点を当て、それらを柔軟なものに変えていくことで、ストレスに上手に対応できる心の状態をつくっていく療法です。例えば、「失敗したら自分はダメな人間だ」という極端な考え方を、「失敗することもあるが、それで自分の価値が決まるわけではない」といったバランスのとれた考え方に修正していきます。

その他にも、来談者中心療法(傾聴と共感を通じて気づきを促す療法)、問題解決療法(具体的な問題解決スキルを身につける療法)、対人関係療法(対人関係の改善を通じて症状の軽減を図る療法)なども用いられます。

精神療法を受けることで、今後同じようなストレス状況に遭遇したときにも、より柔軟に対処できる力を身につけることができます。これは再発予防の観点からも非常に重要です。

休職と休養について

仕事がストレス因となっている場合、休職は治療の重要な選択肢の一つです。「休職は逃げではないか」と感じる方もいるかもしれませんが、休職は回復のために必要な治療の一環です。無理に働き続けることで症状が悪化し、回復に時間がかかったり、うつ病などより重篤な疾患に移行したりするリスクがあります。

休職の手続き

休職を決断したら、まず主治医に診断書を書いてもらいます。診断書には、病名、休職が必要な旨、休職期間の目安などが記載されます。この診断書を職場に提出し、休職の手続きを行います。

休職制度の内容は会社によって異なります。休職できる期間、休職中の給与の有無、復職の条件などは就業規則で定められていることが多いため、人事担当者に確認しておきましょう。なお、休職制度は労働基準法で義務付けられている制度ではないため、そもそも休職制度がない会社もあります。

休職期間の目安

適応障害による休職期間は個人差が大きいですが、一般的には3か月から6か月程度が一つの目安とされています。最初の診断書では1か月から3か月程度の期間で設定し、その後は回復の状況を見ながら、医師の判断を仰ぎつつ延長を検討するのが一般的です。

ただし、最も大切なのは期間にこだわりすぎないことです。「早く治さなければ」という焦りは、かえってストレスとなり回復を遅らせる原因になります。主治医と相談しながら、自分のペースで回復を目指しましょう。

休職中の会社との連絡

休職中も、会社との最低限の連絡は必要です。定期的に状況を報告したり、診断書を提出したりすることが求められることが一般的です。連絡の頻度や方法については、休職前に会社と取り決めておくとよいでしょう。連絡すること自体がストレスになる場合は、主治医に相談し、会社に配慮を求めることも可能です。

利用できる公的制度・支援制度

適応障害で休職する場合、経済的な不安を軽減するためにさまざまな公的制度を活用することができます。主な制度について解説します。

傷病手当金

傷病手当金は、健康保険に加入している方が、業務外の病気やケガで働けなくなり、給与が支払われない場合に受けられる給付です。適応障害も対象となります。

支給額は、おおよそ給与の3分の2程度です。具体的には、標準報酬月額を30で割った金額の3分の2が1日あたりの支給額となります。支給期間は、支給開始日から通算して最長1年6か月です。

傷病手当金を受給するための主な条件は、業務外の理由による病気やケガであること、仕事に就くことができない状態であること、連続する3日間を含み4日以上仕事を休んでいること、休んでいる期間に給与の支払いがないことです。

申請には「傷病手当金支給申請書」が必要で、本人記入欄、会社記入欄、医師記入欄があります。定期的な通院を続けていないと、医師記入欄を書いてもらえない場合があるため、月に1回程度は通院することが重要です。

自立支援医療制度(精神通院医療)

自立支援医療制度は、精神疾患の治療のために継続して通院が必要な方の医療費自己負担を軽減する制度です。通常、医療費の自己負担は3割ですが、この制度を利用すると原則1割に軽減されます。さらに、世帯の所得に応じて月額の自己負担上限額が設定されるため、定期的な通院が必要な場合の経済的負担を大きく減らすことができます。

申請は、住んでいる市区町村の窓口(障害福祉課など)で行います。申請には、自立支援医療費支給認定申請書、医師の診断書、健康保険証の写し、マイナンバーがわかるものなどが必要です。制度を利用できる医療機関は、都道府県が指定した病院や薬局に限られますが、指定医療機関は非常に多いため、通院可能な範囲内に見つかることがほとんどです。

労災保険(休業補償給付)

適応障害の原因が業務によるものである場合、労災保険の休業補償給付を受けられる可能性があります。パワハラや長時間労働、過重な業務負担などが原因で適応障害を発症した場合が該当します。

労災認定を受けるには、認定基準の対象となる精神障害を発病していること、発病前おおむね6か月の間に業務による強い心理的負荷が認められること、業務以外の心理的負荷や個人的な要因で発病したとは認められないことという要件を満たす必要があります。

休業補償給付は給付基礎日額の80%(保険給付60%+特別支給金20%)が支給され、傷病手当金よりも給付額が高くなります。労災の可能性がある場合は、労働基準監督署に相談することをおすすめします。

その他の制度

その他にも、国民年金保険料の免除・猶予制度、国民健康保険料の減額制度、雇用保険の受給期間延長手続きなど、状況に応じて利用できる制度があります。退職を検討している場合や、すでに退職した場合は、これらの制度についても確認しておくとよいでしょう。

回復までの過ごし方(回復の3つのステージ)

適応障害からの回復は、一般的に「休養期」「リハビリ期」「復職準備期」の3つの段階を経て進みます。それぞれの段階に適した過ごし方を理解しておくことで、無理なく回復を目指すことができます。

休養期(休職初期〜1か月程度)

休養期は、心身ともに最も疲弊している時期です。この時期に最も大切なことは、徹底的に心と体を休ませることです。

「何もしない」「動きたいときに動く」というように、生活リズムを気にしすぎず、心身の調子を整えることを優先しましょう。睡眠をしっかり取り、睡眠負債を解消することが重要です。昼夜逆転してしまうこともあるかもしれませんが、最初は無理のない範囲で構いません。

この時期は、仕事や対人関係から完全に離れ、刺激の少ない環境で過ごすことが推奨されます。スマートフォンやパソコンの使用も控えめにし、情報過多にならないよう注意しましょう。「休んでいることに罪悪感を感じる」という方も多いですが、これは治療の一環として必要なプロセスです。

リハビリ期(1〜3か月程度)

心身が安定してきたら、徐々に活動量を増やしていくリハビリ期に入ります。この時期のポイントは、少しずつ生活リズムを整えていくことです。

起床・就寝時間を一定にする、朝に日光を浴びる、規則正しく食事を取るなど、基本的な生活習慣を立て直していきます。体調がよいときは、散歩や軽い運動、買い物への外出など、無理のない範囲で活動量を増やしていきましょう。

また、この時期には休職に至った原因を振り返ることも大切です。どのような状況で、何がストレスになったのかを整理し、今後同じような状況に直面したときの対処法を考えます。認知行動療法などの精神療法を受けている場合は、この時期に集中的に取り組むことが多いです。

回復の過程には波があることを理解しておきましょう。調子がよい日が続いた後に、また調子が悪くなることもあります。一喜一憂せず、長い目で回復を見守ることが大切です。

復職準備期(3か月以降)

生活リズムが安定し、日常生活を問題なく送れるようになったら、復職に向けた準備を始めます。この時期には、就労を想定した生活リズムで過ごせるかどうかを確認します。

朝、通勤時間に合わせて起床し、日中は図書館やカフェなど自宅以外の場所で過ごす練習をするなど、徐々に負荷を上げていきます。通勤のシミュレーションとして、実際に会社の近くまで行ってみることも有効です。

この時期には、リワーク(復職支援プログラム)の活用も検討できます。リワークとは、医療機関や地域障害者職業センターなどが提供する、職場復帰に向けたリハビリテーションプログラムです。生活リズムの調整、ストレス対処法の習得、コミュニケーションスキルのトレーニングなどを行い、安全な復職を目指します。

復職に向けて準備すべきこと

復職を考える段階になったら、以下のポイントを押さえて準備を進めましょう。

主治医との相談

復職のタイミングは、主治医と相談して決めることが基本です。自分では「もう大丈夫」と思っていても、専門家の目から見るとまだ回復が不十分な場合があります。症状の改善状況、生活リズムの安定度、ストレス対処能力の回復度などを総合的に判断してもらいましょう。

職場との調整

復職にあたっては、職場との十分な調整が必要です。復職の時期、復職後の業務内容、勤務時間、配置などについて、会社と話し合います。いきなりフルタイムで復帰するのではなく、時短勤務や軽減業務から段階的に戻っていく「段階的復職」が推奨されることが多いです。

もし休職の原因となったストレス因が職場環境にある場合は、その環境が改善されているかどうかを確認することが重要です。部署異動や業務内容の変更など、再発を防ぐための環境調整を会社に求めることも検討しましょう。

再発予防の準備

復職後に最も大切なのは、再発を防ぐことです。そのためには、自分がどのような状況でストレスを感じやすいか、どのような症状が出やすいかを理解しておくことが重要です。

ストレスを感じたときの対処法(気分転換の方法、相談できる相手など)をあらかじめ用意しておきましょう。また、復職後も定期的な通院を続け、調子の変化があれば早めに相談できる体制を維持することが大切です。

復職後しばらくは、無理をしないことを心がけましょう。「休職前と同じように働かなければ」というプレッシャーは、再発のリスクを高めます。周囲の期待に応えようとしすぎず、自分のペースで仕事に慣れていくことが大切です。

適応障害とうつ病の違い

適応障害とうつ病は、症状が似ているため混同されやすいですが、いくつかの重要な違いがあります。正しく理解しておくことで、適切な治療につなげることができます。

発症の原因

適応障害は、明確なストレス因がきっかけとなって発症します。「〇〇があってから調子が悪くなった」と特定できることが特徴です。一方、うつ病は明確な原因が特定できないことも多く、遺伝的要因、性格的要因、慢性的なストレスの蓄積など、複数の要因が絡み合って発症すると考えられています。

ストレスから離れたときの症状

適応障害の場合、ストレス因から離れると症状が軽減する傾向があります。たとえば、仕事がストレス因であれば、休日や休暇中には比較的元気に過ごせることが多いです。一方、うつ病の場合は、ストレスから離れても症状が持続します。休んでいても気分の落ち込みが続き、何をしても楽しめないという状態が特徴的です。

症状の期間

適応障害は、ストレス因が解消されれば通常6か月以内に症状が改善するとされています。一方、うつ病は抑うつ状態が2週間以上、ほとんど毎日続くことが診断の基準となっており、治療なしに自然回復することは少ないです。

適応障害からうつ病への移行

適応障害を適切に治療せずに放置すると、うつ病に移行する可能性があります。研究によっては、適応障害と診断された患者の一定割合が、経過観察中にうつ病や他の精神疾患の診断に変更されるという報告もあります。そのため、「適応障害だから軽い」と楽観視せず、早期に適切な治療を受けることが重要です。

家族や周囲の方へ(サポートのポイント)

適応障害の方を支えるご家族や周囲の方々にとって、どのように接すればよいか悩むことも多いでしょう。ここでは、サポートする際のポイントを解説します。

病気への理解を深める

まず大切なのは、適応障害という病気について正しく理解することです。「怠けている」「気持ちの問題」ではなく、心身が限界を迎えているサインであることを理解しましょう。本人を責めたり、「頑張れ」と励ましすぎたりすることは、かえってプレッシャーになり、症状を悪化させる可能性があります。

話を聴く姿勢を大切に

本人が話したいときには、批判や評価をせずに耳を傾けましょう。アドバイスや解決策を提示するよりも、まずは気持ちを受け止めることが大切です。「つらかったね」「大変だったね」といった共感の言葉が、本人の安心感につながります。

見守る姿勢で

回復には時間がかかります。「早く良くなってほしい」という気持ちはあっても、焦らせるような言動は避けましょう。本人のペースを尊重し、見守る姿勢が大切です。調子が良さそうに見えても無理をさせず、本人が自分のタイミングで回復していけるよう支えましょう。

自分自身のケアも忘れずに

サポートする側も、精神的に疲弊することがあります。一人で抱え込まず、医療機関の家族相談や支援団体などを活用して、自分自身のケアも忘れないようにしましょう。サポートする側が健康でいることが、結果的に本人への良いサポートにつながります。

よくある質問

適応障害は完治しますか?

適応障害は、ストレス因から離れて適切な治療を受けることで、多くの場合は回復が期待できます。一般的に、ストレス因が解消されれば6か月以内に症状が改善するとされています。ただし、ストレス因が継続する場合や、適切な治療を受けずに放置した場合は、症状が長引いたり、うつ病などに移行したりする可能性もあります。早期に専門医を受診し、適切な治療を受けることが重要です。

適応障害で休職する場合、どのくらいの期間が必要ですか?

適応障害による休職期間は個人差がありますが、一般的には3か月から6か月程度が目安とされています。ただし、回復のスピードは人それぞれであり、ストレス因の性質や重症度、治療への反応、周囲のサポート状況などによって大きく異なります。焦らず、主治医と相談しながら、自分のペースで回復を目指すことが大切です。

適応障害と診断されましたが、仕事を続けることはできますか?

症状の程度や職場環境によっては、休職せずに仕事を続けながら治療することも可能です。ただし、業務量の調整、部署異動、時短勤務などの環境調整が必要になることが多いです。無理に仕事を続けることで症状が悪化するリスクもあるため、主治医や職場と相談しながら、自分に合った働き方を検討することが重要です。

適応障害で傷病手当金は受け取れますか?

健康保険に加入していて、業務外の理由による病気で仕事を休み、給与が支払われない場合、傷病手当金を受け取ることができます。適応障害も対象となります。支給額はおおよそ給与の3分の2程度で、支給期間は最長1年6か月(通算)です。申請には医師の証明が必要なため、定期的に通院を続けることが重要です。

適応障害の再発を防ぐにはどうすればよいですか?

再発を防ぐためには、まず自分がどのような状況でストレスを感じやすいかを理解しておくことが大切です。認知行動療法などを通じて、ストレスへの対処スキルを身につけることも有効です。また、復職後も定期的な通院を続け、調子の変化があれば早めに相談すること、無理をせず自分のペースを守ること、趣味や休息の時間を確保することなども重要なポイントです。


参考文献

監修者医師

高桑 康太 医師

略歴

  • 2009年 東京大学医学部医学科卒業
  • 2009年 東京逓信病院勤務
  • 2012年 東京警察病院勤務
  • 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
  • 2019年 当院治療責任者就任

佐藤 昌樹 医師

保有資格

日本整形外科学会整形外科専門医

略歴

  • 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
  • 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
  • 2012年 東京逓信病院勤務
  • 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
  • 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務
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