はじめに
50代は人生の折り返し地点を過ぎ、健康への意識が高まる年代です。この時期になると、健康診断で血圧の数値が気になり始める方も多いのではないでしょうか。血圧は私たちの健康状態を示す重要なバイタルサインの一つであり、適切な管理が将来の健康を左右します。
特に50代は、加齢に伴う血管の変化やホルモンバランスの変動により、血圧が上昇しやすくなる時期です。しかし、正しい知識を持ち、適切な生活習慣を心がけることで、血圧をコントロールし、健康的な生活を維持することができます。
本記事では、50代における血圧の正常値について詳しく解説するとともに、血圧管理の重要性や日常生活で実践できる対策方法についてご紹介します。

血圧とは何か
血圧とは、心臓から送り出された血液が血管の壁を押す力のことを指します。心臓は収縮と拡張を繰り返しながら、全身に血液を送り出すポンプの役割を果たしています。この心臓の動きに合わせて、血管にかかる圧力も変化します。
血圧は2つの数値で表されます。高い方の数値を「収縮期血圧(最高血圧)」、低い方の数値を「拡張期血圧(最低血圧)」と呼びます。収縮期血圧は心臓が収縮して血液を送り出すときの圧力、拡張期血圧は心臓が拡張して血液を溜めているときの圧力を示しています。
血圧の単位は「mmHg(ミリメートル水銀柱)」で表され、例えば「120/80mmHg」のように記載されます。これは収縮期血圧が120mmHg、拡張期血圧が80mmHgであることを意味します。
50代の血圧正常値
日本における血圧の分類基準
日本高血圧学会が発表している「高血圧治療ガイドライン2019」では、成人における血圧の分類が以下のように定められています。
診察室血圧における分類:
- 正常血圧:収縮期血圧120mmHg未満、かつ拡張期血圧80mmHg未満
- 正常高値血圧:収縮期血圧120〜129mmHg、かつ拡張期血圧80mmHg未満
- 高値血圧:収縮期血圧130〜139mmHg、かつ/または拡張期血圧80〜89mmHg
- Ⅰ度高血圧:収縮期血圧140〜159mmHg、かつ/または拡張期血圧90〜99mmHg
- Ⅱ度高血圧:収縮期血圧160〜179mmHg、かつ/または拡張期血圧100〜109mmHg
- Ⅲ度高血圧:収縮期血圧180mmHg以上、かつ/または拡張期血圧110mmHg以上
この分類基準は年齢に関わらず成人全体に適用されるものです。つまり、50代であっても、理想的な血圧値は収縮期血圧120mmHg未満、拡張期血圧80mmHg未満ということになります。
50代で注意すべき血圧の特徴
50代になると、血圧が上昇しやすくなる傾向があります。これは加齢に伴う血管の老化が主な原因です。血管は年齢とともに弾力性を失い、硬くなっていきます。この現象は「動脈硬化」と呼ばれ、血液の流れに対する抵抗が増すため、血圧が上昇します。
特に50代では、収縮期血圧が拡張期血圧よりも顕著に上昇する傾向があります。これを「収縮期高血圧」と呼びます。収縮期高血圧は高齢者に多く見られる血圧パターンで、心血管疾患のリスクを高めることが知られています。
また、50代は更年期を迎える時期でもあります。特に女性の場合、閉経に伴うエストロゲンの減少が血圧上昇に影響を与えることがあります。エストロゲンには血管を拡張させる作用があるため、その分泌が減少すると血圧が上がりやすくなるのです。
家庭血圧の重要性
近年、診察室での血圧測定だけでなく、家庭での血圧測定の重要性が認識されています。診察室では緊張や不安により血圧が普段より高く測定される「白衣高血圧」という現象があります。逆に、診察室では正常でも家庭では高い「仮面高血圧」という状態もあります。
日本高血圧学会のガイドラインでは、家庭血圧の基準値は診察室血圧よりも低く設定されています:
- 家庭血圧の正常値:収縮期血圧125mmHg未満、かつ拡張期血圧75mmHg未満
- 家庭血圧の高血圧:収縮期血圧135mmHg以上、かつ/または拡張期血圧85mmHg以上
家庭での血圧測定は、日常生活における本当の血圧を把握するために非常に有効です。50代以降は、定期的な家庭血圧の測定を習慣づけることをお勧めします。
なぜ50代で血圧が上昇しやすいのか
血管の老化と動脈硬化
年齢を重ねると、血管の壁を構成するコラーゲンやエラスチンといった弾性線維が減少し、血管の柔軟性が失われていきます。同時に、血管壁にコレステロールやカルシウムが沈着することで、血管が硬く厚くなります。これが動脈硬化です。
動脈硬化が進むと、血管の抵抗が増加し、心臓はより強い力で血液を送り出さなければならなくなります。その結果、血圧が上昇します。特に大動脈などの太い血管の硬化は、収縮期血圧の上昇に大きく影響します。
ホルモンバランスの変化
50代は男女ともにホルモンバランスが大きく変化する時期です。女性の場合、閉経前後の更年期にはエストロゲンの分泌が急激に減少します。エストロゲンは血管を拡張させ、血圧を下げる働きがあるため、その減少は血圧上昇につながります。
男性の場合も、テストステロンの分泌量が徐々に減少します。テストステロンには血管の健康を保つ作用があるため、その減少は間接的に血圧上昇に影響を与える可能性があります。
生活習慣の蓄積
50代になると、長年の生活習慣の影響が身体に表れ始めます。塩分の多い食事、運動不足、喫煙、過度の飲酒、ストレスなど、これまでの生活習慣が血圧上昇の要因となります。
特に日本人は塩分摂取量が多い傾向にあります。厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2020年版)」では、成人の1日あたりの食塩摂取目標量を男性7.5g未満、女性6.5g未満としていますが、実際の平均摂取量はこれを大きく上回っています。長年の塩分過多の食生活が、50代での血圧上昇につながることがあります。
体重増加と肥満
50代は基礎代謝が低下し、若い頃と同じような食生活を続けていても体重が増加しやすくなります。肥満は高血圧の主要な危険因子の一つです。体重が増えると心臓が送り出す血液量が増加し、同時に血管への負担も大きくなります。
また、内臓脂肪の蓄積は、血圧を上げるホルモンの分泌を促進し、血圧を下げるホルモンの働きを阻害します。メタボリックシンドロームの診断基準にも高血圧が含まれているように、肥満と高血圧は密接な関係があります。
腎機能の低下
加齢に伴い、腎臓の機能も徐々に低下していきます。腎臓は体内の水分や塩分のバランスを調整する重要な臓器であり、血圧の調節にも深く関わっています。腎機能が低下すると、塩分や水分の排泄が適切に行われなくなり、血圧が上昇しやすくなります。
ストレスと睡眠不足
50代は仕事での責任が増し、家庭では親の介護や子供の進学・就職など、さまざまなストレス要因が重なる時期です。慢性的なストレスは交感神経を常に緊張状態にし、血圧を上昇させます。
また、ストレスや加齢により睡眠の質が低下することも、血圧上昇の要因となります。睡眠中は通常、血圧が低下しますが、睡眠不足や睡眠の質の低下により、この正常な血圧変動パターンが乱れ、24時間を通じて血圧が高い状態が続くことがあります。
高血圧が引き起こす健康リスク
高血圧は「サイレントキラー(静かな殺し屋)」と呼ばれることがあります。これは、高血圧そのものには目立った症状がないことが多いにもかかわらず、放置すると重大な疾患を引き起こす可能性があるためです。
脳血管疾患のリスク
高血圧は脳卒中の最大の危険因子です。脳卒中には、血管が詰まる「脳梗塞」と血管が破れる「脳出血」、くも膜下腔に出血する「くも膜下出血」があります。高血圧はこれらすべてのリスクを高めます。
長期間にわたる高血圧により、脳の細い血管が傷つき、動脈硬化が進行します。その結果、血管が詰まりやすくなったり、血管壁が弱くなって破れやすくなったりします。脳卒中は日本人の死因の第4位であり、後遺症により介護が必要になる原因の第1位でもあります。
心疾患のリスク
高血圧は心臓にも大きな負担をかけます。高い血圧に逆らって血液を送り出し続けることで、心臓の筋肉が厚く硬くなります。この状態を「心肥大」と呼びます。心肥大が進むと、心臓の機能が低下し、「心不全」を引き起こす可能性があります。
また、高血圧は冠動脈の動脈硬化を促進し、「狭心症」や「心筋梗塞」のリスクを高めます。冠動脈は心臓自体に血液を供給する血管で、ここが狭くなったり詰まったりすると、心臓の筋肉に酸素や栄養が届かなくなり、心筋が壊死してしまいます。
腎臓への影響
腎臓は血液をろ過して老廃物を尿として排出する臓器です。高血圧により腎臓の細い血管が傷つくと、腎臓の機能が徐々に低下していきます。これを「高血圧性腎症」と呼びます。
腎機能の低下は、さらに血圧を上昇させるという悪循環を生み出します。腎不全が進行すると、人工透析が必要になる場合もあります。実際、人工透析が必要になる原因の第3位が高血圧性腎症です。
眼への影響
高血圧は目の網膜の血管にもダメージを与えます。「高血圧性網膜症」という状態になると、視力低下や視野の異常が現れることがあります。重症の場合は、網膜出血や網膜剥離を起こし、失明に至る可能性もあります。
動脈瘤と大動脈解離
高血圧が続くと、血管壁が弱くなり、一部が風船のように膨らむ「動脈瘤」ができることがあります。特に大動脈にできる大動脈瘤が破裂すると、大量出血により命に関わります。
また、血管の内膜に亀裂が入り、血管壁が裂ける「大動脈解離」という状態も、高血圧が主な危険因子です。大動脈解離は激しい胸痛や背部痛を伴い、緊急手術が必要になる重篤な疾患です。
認知機能への影響
近年の研究では、中年期の高血圧が将来の認知症リスクを高めることが明らかになっています。高血圧による脳の小さな血管の損傷が積み重なることで、「血管性認知症」の原因となります。また、アルツハイマー型認知症の発症リスクも高まることが報告されています。
正しい血圧測定の方法
血圧を正確に測定することは、適切な管理の第一歩です。測定方法が間違っていると、正確な値が得られず、適切な判断ができません。
測定のタイミング
家庭での血圧測定は、朝と夜の1日2回行うことが推奨されています。
朝の測定:
- 起床後1時間以内
- 排尿を済ませた後
- 朝食や薬を服用する前
- 座って1〜2分安静にした後
夜の測定:
- 就寝前
- 入浴や飲酒から時間を置いた後
- 座って1〜2分安静にした後
朝と夜で血圧が大きく異なる場合は、医師に相談することをお勧めします。特に朝の血圧が高い「早朝高血圧」は、心血管疾患のリスクが高いことが知られています。
測定前の注意点
正確な測定のために、以下の点に注意しましょう:
- 測定の30分前からは、カフェインの摂取や喫煙を避ける
- 測定の直前には運動や入浴を避ける
- 測定時は会話をしない
- リラックスした状態で測定する
- 寒い場所での測定は避ける(室温20度以上が望ましい)
測定時の姿勢と方法
- 椅子に深く腰掛け、背もたれに背中をつける
- 両足を床につけ、足を組まない
- 腕を心臓と同じ高さに保つ(テーブルなどに腕を置く)
- 測定する腕の力を抜き、リラックスする
- カフ(腕帯)は素肌に直接巻くか、薄い衣類の上から巻く
- カフの位置は、肘の内側の2〜3cm上
- カフと腕の間に指1本分の余裕を持たせる
測定回数と記録
1回の測定で2回測り、その平均値を記録します。1回目と2回目の測定値に大きな差がある場合は、もう1回測定し、後の2回の平均を記録します。
測定結果は必ず記録しましょう。最近は自動的に記録してくれる血圧計も多く販売されています。記録することで、血圧の変動パターンを把握でき、医師に相談する際にも有用な情報となります。
測定機器の選び方
家庭用血圧計には、上腕式と手首式があります。日本高血圧学会は、より正確な測定ができる上腕式を推奨しています。手首式は測定位置が心臓の高さと異なりやすく、誤差が生じやすいためです。
血圧計を選ぶ際は、以下の点を確認しましょう:
- 日本高血圧学会の認証マークがあるもの
- カフのサイズが自分の腕に合っているもの
- 操作が簡単で、表示が見やすいもの
- メモリー機能があり、記録が残せるもの
定期的に血圧計の精度を確認することも大切です。年に1回程度、医療機関での測定値と比較してみるとよいでしょう。
50代からの血圧管理
食生活の改善
血圧管理において、食生活の改善は最も重要な対策の一つです。
減塩の実践: 日本高血圧学会は、高血圧患者の食塩摂取量を1日6g未満にすることを推奨しています。減塩のポイントは以下の通りです。
- 調味料を控えめにする(醤油やソースは「かける」より「つける」)
- 加工食品や外食の頻度を減らす
- だしの旨味を活用する
- 酢やレモン、香辛料で味にアクセントをつける
- 麺類の汁は飲み干さない
- 漬物や佃煮などの高塩分食品を控える
カリウムの摂取: カリウムには、体内の余分なナトリウムを排出する働きがあります。野菜や果物、いも類、海藻類などに多く含まれています。ただし、腎臓の機能が低下している場合は、カリウムの摂りすぎに注意が必要ですので、医師に相談してください。
DASH食: DASH食(Dietary Approaches to Stop Hypertension:高血圧を防ぐ食事法)は、アメリカで開発された食事療法で、血圧を下げる効果が科学的に証明されています。野菜、果物、低脂肪の乳製品を多く摂り、飽和脂肪酸とコレステロールを減らす食事法です。
具体的には:
- 野菜と果物を1日に8〜10皿
- 全粒穀物を主食に
- 魚、鶏肉、豆類などの良質なタンパク質
- ナッツ類を適量(週4〜5回)
- 赤身肉や甘いものは控えめに
適正体重の維持: 体重が1kg減少すると、血圧は約1〜2mmHg低下すると言われています。BMI(体格指数)が25以上の場合は、減量を目指しましょう。BMIは「体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)」で計算でき、18.5〜25未満が標準体重の範囲です。
運動習慣の確立
適度な運動は血圧を下げる効果があります。日本高血圧学会のガイドラインでは、有酸素運動を中心に、毎日30分以上、または週180分以上の運動が推奨されています。
有酸素運動の例:
- ウォーキング(速歩)
- ジョギング
- 水泳
- サイクリング
- ダンス
運動の強度は、「ややきつい」と感じる程度が適切です。目安としては、運動中に会話ができる程度です。運動中に息切れが激しく会話ができない場合は、運動強度が高すぎます。
運動を始める前の注意点:
- 高血圧の程度が重い場合(180/110mmHg以上)は、医師に相談してから始める
- 胸痛、めまい、息切れなどの症状がある場合は運動を中止する
- 気温の高い日や寒い日の屋外運動は避ける
- 水分補給をこまめに行う
- 準備運動とクールダウンを行う
筋力トレーニングも、週2〜3回程度取り入れるとよいでしょう。ただし、重いウェイトを使った高強度の筋力トレーニングは血圧を急激に上昇させる可能性があるため、軽めの負荷で回数を多くする方法が推奨されます。
節酒と禁煙
アルコール: 適量のアルコールは一時的に血管を拡張させ、血圧を下げることがありますが、飲酒習慣は長期的には血圧を上昇させます。日本高血圧学会のガイドラインでは、エタノール換算で男性20〜30ml/日以下、女性10〜20ml/日以下に制限することを推奨しています。
これは以下の量に相当します:
- ビール:中瓶1本(500ml)
- 日本酒:1合(180ml)
- ワイン:グラス2杯(200ml)
- ウイスキー:ダブル1杯(60ml)
週に2日は休肝日を設けることも大切です。
喫煙: 喫煙は血管を収縮させ、血圧を上昇させます。1本の喫煙で10〜30mmHgの血圧上昇が15〜30分続くと言われています。また、喫煙は動脈硬化を促進し、心血管疾患のリスクを大幅に高めます。禁煙は血圧管理において最も重要な対策の一つです。
ストレス管理
慢性的なストレスは交感神経を活性化させ、血圧を上昇させます。50代は仕事や家庭でストレスが多い時期ですが、以下のような方法でストレスをコントロールしましょう。
- 十分な睡眠をとる(7〜8時間が目安)
- 趣味やリラックスできる時間を持つ
- 深呼吸や瞑想を取り入れる
- 親しい人との会話を大切にする
- 完璧主義を手放し、「ほどほど」を心がける
- 必要に応じて専門家(カウンセラーなど)に相談する
寒暖差への対応
血圧は気温の影響を受けやすく、特に寒い環境では血管が収縮して血圧が上昇します。冬場は以下の点に注意しましょう:
- 部屋を適温に保つ(20度以上が望ましい)
- 起床時に急に寒い場所に移動しない
- 入浴時は脱衣所を暖める
- トイレを暖房する
- 外出時は防寒対策をしっかりする
特に注意が必要なのは、暖かい部屋から寒い場所への急激な移動(ヒートショック)です。血圧が急上昇し、脳卒中や心筋梗塞のリスクが高まります。
質の良い睡眠
睡眠不足や睡眠の質の低下は、血圧上昇の要因となります。良質な睡眠のために:
- 規則正しい睡眠時間を保つ
- 就寝前のカフェイン摂取を避ける
- 寝る前のスマートフォンやパソコンの使用を控える
- 寝室を暗く、静かに保つ
- 適度な運動習慣を持つ(ただし就寝直前は避ける)
- 昼寝をする場合は15〜20分程度に留める
睡眠時無呼吸症候群がある場合は、血圧が上昇しやすくなります。いびきがひどい、日中の強い眠気がある、睡眠中に息が止まると指摘されたことがある場合は、医療機関を受診しましょう。
医療機関の受診が必要な場合
以下のような場合は、早めに医療機関を受診することをお勧めします:
定期的な受診が推奨される場合
- 家庭血圧で収縮期血圧135mmHg以上、または拡張期血圧85mmHg以上が続く
- 診察室血圧で収縮期血圧140mmHg以上、または拡張期血圧90mmHg以上が続く
- 家族に高血圧や心血管疾患の方がいる
- 糖尿病、脂質異常症、肥満などの他の危険因子がある
- 50歳を過ぎて血圧が徐々に上昇してきた
緊急受診が必要な場合
以下の症状がある場合は、すぐに医療機関を受診してください:
- 突然の激しい頭痛
- 激しい胸痛や背部痛
- 呼吸困難
- 言葉が出にくい、ろれつが回らない
- 片側の手足の麻痺やしびれ
- 突然の視力障害
- 血圧が180/120mmHg以上で、上記のような症状を伴う
これらは脳卒中や心筋梗塞、大動脈解離などの緊急疾患の可能性があります。
医療機関での検査
高血圧の診断や管理のために、医療機関では以下のような検査が行われます:
- 血圧測定(診察室血圧、24時間血圧測定など)
- 血液検査(脂質、血糖、腎機能、電解質など)
- 尿検査(タンパク尿の有無など)
- 心電図
- 胸部レントゲン検査
- 心エコー検査
- 頸動脈エコー検査
- 眼底検査
これらの検査により、高血圧の程度だけでなく、臓器障害の有無や他の危険因子を評価します。
高血圧の治療
生活習慣の改善
軽度の高血圧(Ⅰ度高血圧で他の危険因子が少ない場合)では、まず3〜6か月間、生活習慣の改善を行います。この期間に血圧が目標値まで低下すれば、生活習慣の改善を継続しながら経過観察となります。
薬物療法
以下の場合は、生活習慣の改善と併せて、薬物療法が検討されます:
- 生活習慣の改善だけでは血圧が十分に下がらない
- Ⅱ度高血圧以上
- 糖尿病や慢性腎臓病などの臓器障害を伴う
- 心血管疾患の既往がある
降圧薬の種類: 降圧薬にはいくつかの種類があり、患者さんの状態に応じて選択されます。
- カルシウム拮抗薬:血管を拡張させて血圧を下げる
- ARB(アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬)・ACE阻害薬:血圧を上げるホルモンの働きを抑える
- 利尿薬:体内の余分な水分と塩分を排出する
- β遮断薬:心臓の働きを抑えて血圧を下げる
多くの場合、複数の降圧薬を組み合わせて使用します。薬の種類や量は、医師が患者さんの状態を見ながら調整します。
薬物療法を受ける際の注意点
- 自己判断で薬を中止しない(血圧が安定していても医師の指示に従う)
- 薬の副作用を感じたら医師に相談する
- 他の薬やサプリメントを服用する場合は医師に伝える
- グレープフルーツジュースは一部の降圧薬の効果に影響するため注意する
- 定期的に通院し、血圧や検査値をチェックする
降圧薬を服用していても、生活習慣の改善は継続することが重要です。生活習慣の改善により、将来的に薬を減らせる可能性もあります。
血圧手帳の活用
血圧手帳は、日々の血圧を記録し、管理するための重要なツールです。多くの医療機関や製薬会社から無料で提供されています。
血圧手帳に記録する内容:
- 測定日時
- 血圧値(収縮期血圧と拡張期血圧)
- 脈拍数
- 測定時の体調や特記事項
- 服薬状況
- 生活習慣(飲酒、運動、睡眠時間など)
記録することのメリット:
- 血圧の変動パターンが把握できる
- 生活習慣と血圧の関係が見える
- 医師に正確な情報を伝えられる
- 自己管理の意識が高まる
- 治療の効果を確認できる
最近はスマートフォンのアプリで記録できるものも多くあります。自分に合った方法で継続的に記録しましょう。

よくある質問
A:血圧は1日の中で変動します。一般的に、起床後から午前中にかけて上昇し、午後から夕方にかけて緩やかに下がり、睡眠中は最も低くなります。また、活動や食事、ストレス、気温などによっても変動します。このため、特定の時間帯だけの測定では不十分で、朝と夜の定期的な測定が重要です。
A:左右の腕で10〜20mmHg程度の差は正常範囲内です。ただし、差が常に20mmHg以上ある場合は、血管に問題がある可能性があるため、医師に相談しましょう。測定は原則として、血圧が高い方の腕で行います。
Q3:血圧が高めですが症状がありません。治療は必要ですか?
A:高血圧の怖いところは、症状がなくても確実に血管や臓器にダメージを与えていることです。症状が出る頃には、すでに重大な臓器障害が起きている可能性があります。症状がなくても、血圧が高い場合は医師に相談し、適切な管理を始めることが大切です。
Q4:運動中に血圧が上がるのは危険ですか?
A:運動中に血圧が上がるのは正常な反応です。ただし、安静時の血圧が180/110mmHg以上の場合は、運動を開始する前に医師に相談してください。また、運動中に胸痛や息切れ、めまいなどの症状が現れた場合は、すぐに運動を中止し、医療機関を受診しましょう。
Q5:血圧の薬は一度飲み始めたら一生飲み続けなければなりませんか?
A:必ずしもそうとは限りません。生活習慣の改善により血圧が十分に下がり、安定している場合は、医師の判断で薬を減量したり中止したりできることもあります。ただし、自己判断での中止は絶対に避けてください。薬を急にやめると、血圧が急上昇し、危険な状態になることがあります。
Q6:白衣高血圧の場合、治療は必要ないですか?
A:白衣高血圧(診察室でのみ血圧が高い状態)であっても、将来的に持続性高血圧に移行するリスクがあります。また、白衣高血圧の人は心血管疾患のリスクが正常血圧の人よりやや高いことが知られています。定期的な家庭血圧の測定と、生活習慣の改善を心がけましょう。
Q7:血圧を下げる食品やサプリメントは効果がありますか?
A:一部の食品成分(オメガ3脂肪酸、カリウム、マグネシウムなど)には血圧を下げる効果が認められていますが、その効果は限定的です。サプリメントだけに頼るのではなく、バランスの取れた食事全体を改善することが重要です。また、サプリメントの中には降圧薬との相互作用があるものもあるため、服用する場合は医師に相談してください。
まとめ
50代は血圧管理の重要な転換期です。加齢に伴う血管の変化やホルモンバランスの変動により、血圧が上昇しやすくなる時期ですが、適切な知識と対策により、健康的な血圧を維持することは十分に可能です。
理想的な血圧値は年齢に関わらず、収縮期血圧120mmHg未満、拡張期血圧80mmHg未満です。家庭血圧では収縮期血圧125mmHg未満、拡張期血圧75mmHg未満を目指しましょう。
血圧管理の基本は生活習慣の改善です。減塩、適正体重の維持、適度な運動、節酒、禁煙、ストレス管理など、日常生活でできることから始めましょう。これらの対策は、血圧だけでなく、全身の健康状態を改善します。
家庭での血圧測定を習慣化し、日々の変化を記録することも大切です。自分の血圧パターンを知ることで、効果的な管理が可能になります。
血圧が高めの場合や、他の危険因子がある場合は、早めに医療機関を受診しましょう。適切な治療により、将来の重大な疾患を予防することができます。
50代からの血圧管理は、これからの人生をより健康的に、より充実したものにするための大切な取り組みです。今日から、できることから始めてみませんか。
参考文献
- 日本高血圧学会「高血圧治療ガイドライン2019」
https://www.jpnsh.jp/guideline.html - 厚生労働省「e-ヘルスネット:高血圧」
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/metabolic/m-05-003.html - 日本循環器学会「循環器病の診断と治療に関するガイドライン」
https://www.j-circ.or.jp/guideline/ - 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/eiyou/syokuji_kijyun.html - 国立循環器病研究センター「循環器病情報サービス:高血圧」
https://www.ncvc.go.jp/hospital/pub/knowledge/disease/hypertension.html - 日本動脈硬化学会「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版」
https://www.j-athero.org/jp/general/ge_guideline.html
※本記事は一般的な医学情報を提供するものであり、個別の診断や治療に代わるものではありません。気になる症状がある場合は、必ず医療機関を受診してください。
監修者医師
高桑 康太 医師
略歴
- 2009年 東京大学医学部医学科卒業
- 2009年 東京逓信病院勤務
- 2012年 東京警察病院勤務
- 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
- 2019年 当院治療責任者就任
佐藤 昌樹 医師
保有資格
日本整形外科学会整形外科専門医
略歴
- 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
- 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
- 2012年 東京逓信病院勤務
- 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
- 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務